概要
坂口安吾の「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」を元に、野田秀樹が脚本を書き上げた作品。歌舞伎として上演されたこの作品だが、シネマ歌舞伎として映画館で上映されたので観劇。
感想のまとめ
歌舞伎らしさも失わず、それでいて現代的で親しみやすい作品。コミカルな序盤から気がつくと幻想的で壮大な世界が広がり、夢の世界に迷い込んだかのような素晴らしい構成。凄まじい滑舌でテンポよく繰り広げられる言葉遊びや、コミカルから一瞬で空気が切り替わる見得、巧みな無音の活かし方といった歌舞伎らしさもとても良い。
時に気弱で時にとても力強い耳男、無邪気さと狂気を合わせ持つ夜長姫の演技がとても素敵。クライマックスのシーンは幻想的で美しく、涙が止まらないほど美しい光景だった。
以下ネタバレ注意
感想
【親しみやすさを重視した脚本】
- 古すぎない口調なので内容が頭に入りやすく、とても親しみやすい。
- 言葉遊びのテンポがとても良い!特に序盤はずっと感心しっぱなし。
- コミカルな展開から夢か現かわからぬ幻想的な世界が広がり、国造りの物語へ展開していく。気づけば壮大な夢の世界に迷い込んだかのような素晴らしい構成。
- 終盤に姫が鬼を見つける度に鬼が斬られ、国の境界が決まっていく。あの姫の狂気と無邪気な声で作られる光景は幻想的で恐ろしくも、とても美しかった。
- クライマックスでの挿入歌は歌舞伎では…あまり見ないスタイル?和では無かったけれど、あの幻想的な光景にぴったりだった。
- 矢鱈と多い現代的なギャグは個人的にかなり苦手。個人的にはこれさえなければと言うぐらい苦手。好きな人は好きだろうけれど、せっかくあの世界に没入しているところなのに、現実に引き戻されてしまう感覚がするので残念。
【歌舞伎ならではの凄さ】
- 滑舌が凄い!捲し立てる早口も聞き取りやすく、言葉遊びが映える。
- 時にコミカルに、時に勇ましく見得を切る。あの切り替えが素敵。
無邪気と狂気、誠実と野心、弱い心と憤怒といった感情の切り替えにゾッとする。 - 無音や間の使い方が巧み。空気が張り詰めるあの静寂が心地よい。
- 桜がとても美しい。終盤の桜が舞い散る中での場面はとても幻想的。
思わず涙が止まらなくなるほどの美しさ。
【歌舞伎役者の演技が凄い】
- 耳男は変化が激しい役柄で、その演技がすごかった。気弱な青年、取り憑かれたかのように弥勒を掘る鬼のような形相、成功の夢に浸る様子といろいろな面をコミカルに、時に力強く演じていて凄い。見得を切るシーンの力強さがとても素敵。特に好きなのは終盤で、あれだけ姫を恐れていた彼が、あの素敵な表情で姫に手を差し出すシーンで涙が止まらなかった。姫を殺してしまった後の最期の会話、そしてあの慟哭も凄まじくて、後半は涙が止まらないほど素敵だった。
- 夜長姫は本当に凄かった。凄かったとしか言えないぐらい素敵な演技だった。無邪気さと狂気を合わせ持ち、一瞬で切り替わる恐ろしさ。何度ゾッとしたことかわからない。恐ろしさの中に妖艶さもあって、この世のものではない恐ろしくも美しい姫だった。満開の桜の下でのシーンはどれも印象的で、無邪気に「みーつけた」と死を楽しむ恐ろしさ、そして声のトーンが変わり鬼となる場面、最期の別れとどれも本当に素敵だった。
- オオアマも印象的。最初の優男な様子から、野望を成し遂げんとするあの力強い見得の切り方、その後の恐ろしさととても素敵だった。
- マナコは最初はコミカルな小悪党。その印象とのギャップが強いからか、見得を切るととても格好良い。見れば見るほど好きになっていく魅力的なキャラ。