RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~ / VIOLETOPIA ―良作と意欲作―

概要

RRRは2022年に公開されたインド映画を元とした作品で、谷貴矢先生による脚本・演出。イギリス占領下のインドを舞台とした作品で、総督に攫われた少女を助け出そうと画策するビームと、イギリス警察に所属するインド人のラーマとを中心とした物語。
VIOLETOPIAは指田珠子先生による作・演出のショー作品。

感想のまとめ

RRRはダンスシーンの見応え抜群。綺麗にまとまったストーリーも強みで、ショーと芝居との中間に位置するようなバランスの作品だった。
VIOLEATOPIAは芸術性重視のショーで、普段の宝塚というよりも美術館の企画展示のような作品。幻想的で美しいシーンが多く、不気味なシーンが強烈なアクセントになっていた。個人的には初見では合わなかったが、この意思は尊重したい作品。

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1789―バスティーユの恋人たち―
―星組の充実ぶりが凄まじい―

概要


1789―バスティーユの恋人たち―はドーヴ・アチアとアルベール・コーエンによるミュージカル作品で、小池修一郎先生の演出・脚本。フランス革命直前のパリを舞台とした作品で、革命側と宮廷側との視点を織り交ぜながら描いた公演。

感想のまとめ


歌を楽しみたいなら必見の公演で、どの歌唱シーンも素晴らしかった。群像劇として楽しめる作品で、史実を覚えていても、あるいは忘れていても楽しめる作品に感じられた。舞台の上下・客席を利用した演出も効果的で、特に客席を利用した演出が印象的だった。
普通の一市民が革命に投じていく姿を自然に演じた礼さんのロナン、妖しく不敵で傲慢な姿で存在感を見せつけた瀬央さんのアルトワ、有終の美を飾るに相応しい有沙さんのマリー・アントワネット、抜群のカリスマ性と随所で見せる鋭い目つきが印象的な極美さんのロベスピエール、よく見ていると理知的な姿が見えてくる天華さんのダントンが特にお気に入り。

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感想


【全般】

  • 歌が素晴らしい
    礼さんや瀬央さん、暁さん、天華さん、有沙さん、小桜さんと抜群の歌唱力を誇る面々に加え、舞空さんと極美さんもきっちりと仕上げている。コーラスも大迫力で、歌を楽しみたいならば必見の公演。

  • 星組の充実ぶりを象徴する作品
    改めて星組の充実ぶりを目の当たりにした作品だった。歌も演技も抜群の安定感で、間違いなく礼さん・舞空さんのコンビ体制を代表する作品の一角となるだろう。この公演で瀬央さんが専科へ組替え、有沙さんが退団となることもあり、新たな体制へと移行する前の思い出として最高の作品だった。

  • 貴族と平民との二陣営が描かれた群像劇
    貴族側と平民側との両面から描かれているので、群像劇として楽しむことができる。ロナン・ソレーヌとデムーラン・ロベスピエール・ダントンとの対比によって第三身分内での違いも描きつつ、オランプを交えながら宮廷内の様子も描かれているので、全容を把握しやすい作品になっている。

  • 史実を覚えていても、忘れていても楽しめる作品
    群像劇として丁寧に描かれているので、フランス革命の内容を忘れていても楽しめる作品になっている。一方でバスティーユ襲撃後のフランス人権宣言までを描いた作品なので、史実を覚えているとその後の結末に思いを馳せる事ができる。

  • 切り抜き方が絶妙
    フランス革命の序盤で結末を迎えるが、絶妙な範囲を切り抜いている。これにより粛清による昏い未来ではなく、平等を掲げた明るい未来を思わせる結末となっている。フランス人権宣言の対象が狭い点が巧みにぼかされている。本来は女権宣言まで含んだほうが良いかもしれないが、時系列が飛ぶことによる混乱を避けたのだろう。

  • 舞台を巧みに活かした演出
    舞台の上下・奥行きを活かした演出が見事。身分の違いを舞台の上下方向で強調する演出も良かったが、客席から市民が飛び出していく演出が秀逸。観客側の視点から革命が進んでいくかのような演出で、特に印象的だった。

【個別】

  • ロナン (礼さん)
    いつもながら歌も演技も素晴らしかったが、今作は特に演技が素晴らしかった。特別ではない一人の青年が、一市民として革命に身を投じていく流れがとても自然で印象的だった。架空の人物なので歴史への影響は大きくないが、特別ではないからこそ悩み苦しみ、その中で自分の答えを見つけていく生き様は見事な主役ぶりだった。どこまでも伸びていく柔らかくも力強い歌声も素晴らしく、どの楽曲も非常に良かった。

  • オランプ (舞空さん)
    個人的には姫系の役者だと思うが、ブレない信念を持った姿が印象的で素敵だった。マリー・アントワネットとの会話シーンが印象的で、王妃の前でもブレない姿にオランプという人間の信念を感じた。

  • アルトワ (瀬央さん)
    振り返ってみると俗物で小者だが、それを全く感じさせない貫禄が見事だった。不敵で傲慢な態度が印象的で、妖しい色気がとても素敵だった。特にルイ16世を唆すシーンでの、国王のプライドを揺さぶるような声色がとても良かった。歌唱シーンも素晴らしく、妖しさと悪役ぶりを全面に押し出した活躍ぶりがとても素晴らしかった。良い人から悪役まで変幻自在なので、今後の専科としての出演がとても楽しみになる公演だった。

  • デムーラン (暁さん)
    歌・ダンス・演技どれも素敵で安定感があった。ロベスピエールやダントンと比べてアクがないからこその、親しみやすいリーダー像を感じた。歌声の力強さが特に素晴らしく、今回の革命家トリオだと中心人物がデムーランなのも納得の貫禄だった。

  • ロベスピエール (極美さん)
    登場時から目を引く華のある立ち姿を活かしたカリスマ性溢れるロベスピエールで素敵だった。歌がとても上手くなっていて、特に序盤のロナンとデムーランと歌うシーンでの堂々たる姿が素晴らしかった。随所で見せる、鋭い目つきで佇む姿も印象的で、後の恐怖政治を予感させる孤高さが見え隠れする役作りも素敵だった。

  • ダントン (天華さん)
    革命家トリオの明るいムードメーカー。基本的には熱い男で軽いタイプだが、随所に見られる理知的な姿がとても格好良くて素敵だった。さり気なく周囲を俯瞰している姿や、ショックを受けてもすぐに表情を切り替えて周りを鼓舞する姿などを見ていると、周囲の期待を理解してそれに応えているような人物像が見えてきて面白かった。ダンスも格好良く、腰の落とし方やリズムの取り方が力強くて印象的。

  • マリー・アントワネット (有沙さん)
    退団公演として、有終の美を飾るに相応しい素晴らしさだった。歌唱シーンも素晴らしかったが、特に第二幕が素晴らしかった。フランス王妃としての覚悟を決めた後の毅然とした態度が印象的で、第一幕との対比も相まってとても美しかった。

  • ペイロール (輝月さん)
    憎まれ役ぶりが見事だった。貫禄ある立ち姿やロナンをいたぶる時の自然かつ慣れた動作、軍を指揮する時の毅然たる態度と大物ぶりを見事に発揮していた。特に殴る蹴るといった動作がとても自然で巧みの技だった。

  • ネッケル (輝咲さん)
    星組公演で格好良い人がいる!と見ると輝咲さんのパターンが多いので、個人的に好きなのかもしれない。よく通る声と理性的な格好良さが印象的。客観的な事実をもとにルイ16世へ譲歩を迫る諭し方が印象的で、王権神授説と感情で揺さぶるアルトワと好対照になっていて良かった。

  • ルイ16世 (ひろ香さん)
    常に優雅で柔らかい物腰と、国難を前に悩みつつも最適解を出せない苦難ぶりの見せ方が素敵だった。アルトワとネッケルとの会話で揺れ動く表情が印象的で、三人の掛け合いがとても素敵だった。

  • ソレーヌ (小桜さん)
    歌唱シーンで娘役らしくないタイプの力強い歌を見事に歌っていて、癖のある役を見事に演じていた。娼婦に身をやつしても染まり切っていないような演じ方だったからこそ、現状に苦悩している歌唱シーンが印象的だった。

  • ラマール (碧海さん)
    箸休め的なコメディリリーフぶりが巧みで良かった。役職の中で最大限オランプをかばう態度が印象的で、アルトワたちが立ち回りを繰り広げるシーンでも目立たないようにしながらオランプを助けようとするシーンが絶妙な塩梅で面白かった。

VERDAD!!―礼さんの変幻自在な歌唱力―

概要


VERDAD!! は藤井大介先生による作・演出のコンサート公演。第一幕は星組による宝塚公演作品を中心に、第二幕はJ-popや宝塚以外でのミュージカル作品などを盛り込んだ構成になっている。

感想のまとめ


トップスターの公演を芝居ではなくコンサートに割り当てる、それだけの価値があるコンサート。古典的で力強い男役の曲や抜け感あるJ-pop、高音が綺麗に響く女性キーと礼さんの変幻自在な歌唱力が活かされたコンサートだった。抜け感ある歌い方 “も” 得意としている礼さんだからこそ、J-popがとても自然で素晴らしかった。
小芝居が蛇足なのと宝塚の楽曲は公演で見たくなるのが玉に瑕。

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Stella voice―前途有望な星組―

概要


Stella voiceは中村一徳先生による構成・演出の作品。星組の若手を中心とした歌とダンスで構成されたワークショップ。

感想のまとめ


星組の前途有望ぶりを発揮したワークショップ。
天華さんの貫禄あるセンターぶりが素晴らしく、柔らかい歌声としなやかなダンス、衣装の着こなしやダンスのキメ方など、経験に裏打ちされた技術力が素晴らしかった。
他のメンバーも今後が楽しみな歌唱力で、碧音さんや彩紋さん、鳳真さん、大希さんが特に印象的。

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『Le Rouge et le Noir~赤と黒~ ―圧倒的な歌と演技―

概要


「Le Rouge et le Noir~赤と黒~」はアルベール・コーエンによるロック・ミュージカル作品で、原作はスタンダールの赤と黒。2016年にパリで上演された作品だが、今回は谷貴矢先生の潤色・演出によって上演された。

感想のまとめ


歌と演技に特化した作品で、技術的な面では非の打ち所のない作品。ロック調で難しそうな曲を軽々と歌い上げる礼さんを筆頭に聞き応え十分な歌唱シーンと、脚本の不足を補えるだけの演技力が際立っていた。
衣装や舞台装置はお洒落だが、心情描写に乏しく余韻のない脚本が残念。点と点を最短距離で結ぶような脚本は不足こそないが情感に乏しかったのが惜しい。

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