概要
「サンセット大通り」は、同名の映画を、アンドリュー・ロイド・ウェバーがミュージカル化した作品。ハリウッドを舞台に、売れない脚本家ジョー・ギリスが往年の名女優であるノーマ・デスモンドの邸宅に迷い込むことから物語が始まる。銀幕への帰還を目論む彼女に脚本の編集を命じられたジョーは、彼女の執念や狂気に巻き込まれていくことになる。
今回の東急シアターオーブでの公演では、30年ぶりにミュージカルへ復帰したサラ・ブライトマンが主演となったことで話題になっている。
感想のまとめ
楽曲、歌、セット、シナリオ、演出のすべてが一級品の公演。ノーマを演じるサラ・ブライトマンが見せる、過去に生きる往年の大女優が抱えるアンバランスさが絶妙。キャスト全員の歌が素晴らしく、印象的な曲をさらに忘れ難い思い出にしてくれた。
本作で最も感動したのは、芸術的なラストシーンだった。すべてはこの場面のために積み重ねられたと感じさせる、美しくもやるせないものだった。
以下ネタバレ注意
感想
- サラ・ブライトマンが見せる圧巻の演技
サラ・ブライトマンが30年ぶりにミュージカル復帰を選んだことに思わず納得するほど、圧巻のノーマだった。過去の栄華にすがる往年の大女優であり、surrender することができなかった女性。ある時期で人生が止まったような幼さと、大女優の貫禄や気品が共存するアンバランスさが絶妙に表現されていた。
未来への接点であるジョーに執着し、彼を失って過去に取り残されることを恐れるが、最後にすべてを失って破滅へ至るまでの生き様がとても繊細に演じられていた。ビブラートの美しい、どことなくクラシカルな歌からも彼女の孤独がひしひしと伝わってきた。 - 楽曲が素晴らしい
Overture から一気に引き込まれた。格調高く、どこか物寂しく、そして活気を失った退廃的なメロディが素晴らしかった。
歌う人物によって、楽曲の雰囲気が大きく異なっていたのも印象に残った。クラシカルに孤独を歌うノーマや輝かしい未来を見据えるベティなど、人生の視座の違いが伝わってくる楽曲だった。 - 全員の歌が上手い
誰か一人が突出しているわけではなく、キャスト全員の歌唱力が高かった。単に歌が上手いだけでなく、演技と歌がシームレスで繋がっていて、ミュージカルとしての一体感が素晴らしかった。
特にジョー役のティム・ドラクスルの歌が圧巻で、彼の歌う “Sunset Boulevard” とそのリプライズがとても印象的だった。 - 豪華で退廃的なセット
豪華で美しいけれど、ひと目見て時が止まっていると伝わるノーマの邸宅が素晴らしかった。かつての栄華と、手入れされていても活気を失った退廃的な現状が伝わってきて、ノーマの悲哀が引き立っていた。 - 残酷なまでに対比される過去と未来
ジョーがノーマから去るまでの過程で描かれる、過去と未来の対比が残酷で美しかった。
ノーマは過去に生きていて、彼女が執念を燃やす「サロメ」もかつての栄華を取り戻すための作品。一方、ベティは未来へ純粋な夢を抱き、ジョーと紡ぐ作品は新しい未来を掴むためのもの。ハリウッドで過ごすうちにシニカルになり、ノーマと過ごすことで停滞しているジョーにとって、あまりにも眩しいであろう夢が伝わってきた。 - ジョーが見せる最後の選択
物語を通じてノーマやベティに振り回されていた彼が、最期に見せた人生の選択がいびつだが尊いものだった。
ジョーはノーマの邸宅にやってきたベティに対して露悪的に振る舞い、彼女と決別した。ベティと過ごして純粋な未来の夢を見たからこそ、露悪的に振る舞うことでベティをノーマから守ると同時に、ハリウッドに毒された自分からも遠ざけたように感じられた。
ジョーは直後にノーマにも別れを告げて去ろうとした。ノーマとの、過去に囚われ続ける共依存を解消し、ノーマに真実を告げ、すべてを清算して新たな人生へ進もうとした。ノーマへの完全な拒絶が決め手となり、ジョーはノーマに撃たれてしまうことになった。
自己犠牲をもってベティを守り、最後に自らの人生の尊厳を取り戻すという尊い決断と、ノーマを拒絶して破滅のトリガーを引いた残酷な決断を見て、ジョーの不完全だが美しい生き様に感動した。 - すべてが帰着する芸術的なラストシーン
本作で最も感動したのは、芸術的なラストシーンだった。すべてはこの場面のために積み重ねられたと感じさせる、美しくもやるせないものだった。
未来とのただ一つの接点だったジョーに拒絶され、彼を撃ち殺してしまう。邸宅に集まったマスコミの前に、正気を失ったノーマが現れる。そして、かつて彼女を支え、今も彼女を支えるマックスの合図で最後の幕が上がる。ノーマの破滅を彩る最後の舞台は、彼女が渇望し続けた「サロメ」。正気を失ったノーマとサロメの狂気が重なり合い、幻想的で恐ろしくも美しい空間を作り出していた。サラ・ブライトマンの演技も素晴らしく、この作品で一番感動した場面だった。
