1789―バスティーユの恋人たち―
―星組の充実ぶりが凄まじい―

概要


1789―バスティーユの恋人たち―はドーヴ・アチアとアルベール・コーエンによるミュージカル作品で、小池修一郎先生の演出・脚本。フランス革命直前のパリを舞台とした作品で、革命側と宮廷側との視点を織り交ぜながら描いた公演。

感想のまとめ


歌を楽しみたいなら必見の公演で、どの歌唱シーンも素晴らしかった。群像劇として楽しめる作品で、史実を覚えていても、あるいは忘れていても楽しめる作品に感じられた。舞台の上下・客席を利用した演出も効果的で、特に客席を利用した演出が印象的だった。
普通の一市民が革命に投じていく姿を自然に演じた礼さんのロナン、妖しく不敵で傲慢な姿で存在感を見せつけた瀬央さんのアルトワ、有終の美を飾るに相応しい有沙さんのマリー・アントワネット、抜群のカリスマ性と随所で見せる鋭い目つきが印象的な極美さんのロベスピエール、よく見ていると理知的な姿が見えてくる天華さんのダントンが特にお気に入り。

以下ネタバレ注意

感想


【全般】

  • 歌が素晴らしい
    礼さんや瀬央さん、暁さん、天華さん、有沙さん、小桜さんと抜群の歌唱力を誇る面々に加え、舞空さんと極美さんもきっちりと仕上げている。コーラスも大迫力で、歌を楽しみたいならば必見の公演。

  • 星組の充実ぶりを象徴する作品
    改めて星組の充実ぶりを目の当たりにした作品だった。歌も演技も抜群の安定感で、間違いなく礼さん・舞空さんのコンビ体制を代表する作品の一角となるだろう。この公演で瀬央さんが専科へ組替え、有沙さんが退団となることもあり、新たな体制へと移行する前の思い出として最高の作品だった。

  • 貴族と平民との二陣営が描かれた群像劇
    貴族側と平民側との両面から描かれているので、群像劇として楽しむことができる。ロナン・ソレーヌとデムーラン・ロベスピエール・ダントンとの対比によって第三身分内での違いも描きつつ、オランプを交えながら宮廷内の様子も描かれているので、全容を把握しやすい作品になっている。

  • 史実を覚えていても、忘れていても楽しめる作品
    群像劇として丁寧に描かれているので、フランス革命の内容を忘れていても楽しめる作品になっている。一方でバスティーユ襲撃後のフランス人権宣言までを描いた作品なので、史実を覚えているとその後の結末に思いを馳せる事ができる。

  • 切り抜き方が絶妙
    フランス革命の序盤で結末を迎えるが、絶妙な範囲を切り抜いている。これにより粛清による昏い未来ではなく、平等を掲げた明るい未来を思わせる結末となっている。フランス人権宣言の対象が狭い点が巧みにぼかされている。本来は女権宣言まで含んだほうが良いかもしれないが、時系列が飛ぶことによる混乱を避けたのだろう。

  • 舞台を巧みに活かした演出
    舞台の上下・奥行きを活かした演出が見事。身分の違いを舞台の上下方向で強調する演出も良かったが、客席から市民が飛び出していく演出が秀逸。観客側の視点から革命が進んでいくかのような演出で、特に印象的だった。

【個別】

  • ロナン (礼さん)
    いつもながら歌も演技も素晴らしかったが、今作は特に演技が素晴らしかった。特別ではない一人の青年が、一市民として革命に身を投じていく流れがとても自然で印象的だった。架空の人物なので歴史への影響は大きくないが、特別ではないからこそ悩み苦しみ、その中で自分の答えを見つけていく生き様は見事な主役ぶりだった。どこまでも伸びていく柔らかくも力強い歌声も素晴らしく、どの楽曲も非常に良かった。

  • オランプ (舞空さん)
    個人的には姫系の役者だと思うが、ブレない信念を持った姿が印象的で素敵だった。マリー・アントワネットとの会話シーンが印象的で、王妃の前でもブレない姿にオランプという人間の信念を感じた。

  • アルトワ (瀬央さん)
    振り返ってみると俗物で小者だが、それを全く感じさせない貫禄が見事だった。不敵で傲慢な態度が印象的で、妖しい色気がとても素敵だった。特にルイ16世を唆すシーンでの、国王のプライドを揺さぶるような声色がとても良かった。歌唱シーンも素晴らしく、妖しさと悪役ぶりを全面に押し出した活躍ぶりがとても素晴らしかった。良い人から悪役まで変幻自在なので、今後の専科としての出演がとても楽しみになる公演だった。

  • デムーラン (暁さん)
    歌・ダンス・演技どれも素敵で安定感があった。ロベスピエールやダントンと比べてアクがないからこその、親しみやすいリーダー像を感じた。歌声の力強さが特に素晴らしく、今回の革命家トリオだと中心人物がデムーランなのも納得の貫禄だった。

  • ロベスピエール (極美さん)
    登場時から目を引く華のある立ち姿を活かしたカリスマ性溢れるロベスピエールで素敵だった。歌がとても上手くなっていて、特に序盤のロナンとデムーランと歌うシーンでの堂々たる姿が素晴らしかった。随所で見せる、鋭い目つきで佇む姿も印象的で、後の恐怖政治を予感させる孤高さが見え隠れする役作りも素敵だった。

  • ダントン (天華さん)
    革命家トリオの明るいムードメーカー。基本的には熱い男で軽いタイプだが、随所に見られる理知的な姿がとても格好良くて素敵だった。さり気なく周囲を俯瞰している姿や、ショックを受けてもすぐに表情を切り替えて周りを鼓舞する姿などを見ていると、周囲の期待を理解してそれに応えているような人物像が見えてきて面白かった。ダンスも格好良く、腰の落とし方やリズムの取り方が力強くて印象的。

  • マリー・アントワネット (有沙さん)
    退団公演として、有終の美を飾るに相応しい素晴らしさだった。歌唱シーンも素晴らしかったが、特に第二幕が素晴らしかった。フランス王妃としての覚悟を決めた後の毅然とした態度が印象的で、第一幕との対比も相まってとても美しかった。

  • ペイロール (輝月さん)
    憎まれ役ぶりが見事だった。貫禄ある立ち姿やロナンをいたぶる時の自然かつ慣れた動作、軍を指揮する時の毅然たる態度と大物ぶりを見事に発揮していた。特に殴る蹴るといった動作がとても自然で巧みの技だった。

  • ネッケル (輝咲さん)
    星組公演で格好良い人がいる!と見ると輝咲さんのパターンが多いので、個人的に好きなのかもしれない。よく通る声と理性的な格好良さが印象的。客観的な事実をもとにルイ16世へ譲歩を迫る諭し方が印象的で、王権神授説と感情で揺さぶるアルトワと好対照になっていて良かった。

  • ルイ16世 (ひろ香さん)
    常に優雅で柔らかい物腰と、国難を前に悩みつつも最適解を出せない苦難ぶりの見せ方が素敵だった。アルトワとネッケルとの会話で揺れ動く表情が印象的で、三人の掛け合いがとても素敵だった。

  • ソレーヌ (小桜さん)
    歌唱シーンで娘役らしくないタイプの力強い歌を見事に歌っていて、癖のある役を見事に演じていた。娼婦に身をやつしても染まり切っていないような演じ方だったからこそ、現状に苦悩している歌唱シーンが印象的だった。

  • ラマール (碧海さん)
    箸休め的なコメディリリーフぶりが巧みで良かった。役職の中で最大限オランプをかばう態度が印象的で、アルトワたちが立ち回りを繰り広げるシーンでも目立たないようにしながらオランプを助けようとするシーンが絶妙な塩梅で面白かった。

カジノ・ロワイヤル ―ジェームズ・ボンドの格好良さを楽しむ作品―

概要


カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~は小池修一郎先生の脚本・演出による作品。イアン・フレミングの「007/カジノ・ロワイヤル」を原作とした本作は、イギリスの秘密情報部MI6に所属するジェームズ・ボンドの活躍を描いたスパイ小説の初作品。

感想のまとめ


退団公演に特化した身内向けの作品という印象。既視感のあるような得意分野に寄せた配役なので、退団者の晴れ姿を楽しむことに特化した作品だろう。特にジェームズ・ボンドの格好良さが素晴らしく、そういった楽しみ方が向いている作品だろう。
作品単体としては脚本や演出、バカラのシーンといった肝となる要素がこぞって微妙なのが残念。

以下ネタバレ注意

“カジノ・ロワイヤル ―ジェームズ・ボンドの格好良さを楽しむ作品―” の続きを読む

ロミオとジュリエット (2013年星組) 役替わり
―あえてのチャレンジ配役―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。宝塚では3回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


個人的には、初演 > 役替わりA > 役替わりBの順で役が合っている印象。初演はまさにイメージ通りのロミオとジュリエットで、今回の役替わりAは悪くはないが初演ほどのハマり方を感じなかった。この役替わりBはあえてチャレンジしたというイメージが強かった。
天寿さんのマーキューシオがピカイチのはまり役で、ティボルトとの掛け合いが素晴らしかった。

役替わりの記事は別 (リンク) に記載。

以下ネタバレ注意

“ロミオとジュリエット (2013年星組) 役替わり
―あえてのチャレンジ配役―” の
続きを読む

ロミオとジュリエット (2013年星組) ―恋愛作品としての完成形―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。宝塚では3回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


初演と同じ配役のメンバーの完成度が高く、物語をグイグイ引っ張っていく公演。歌と上品さがパワーアップした夢咲さんのジュリエットが完璧で、柚木さんのロミオとの情熱的な恋愛はまさに二人だけの世界。恋愛作品としてはロミオとジュリエットの公演でもピカイチ。ただしトップコンビのパワーアップなど見どころも多いが、全体的に見るとハマり役揃いの初演版が原作のイメージに近いかもしれない。

以下ネタバレ注意

“ロミオとジュリエット (2013年星組) ―恋愛作品としての完成形―” の続きを読む

ポーの一族 (花組) 感想 ―漫画の世界が現実に―

概要


ポーの一族は萩尾望都による漫画作品で、小池修一郎先生による脚本・演出。18世紀から近代までを舞台に、永遠の命を持つ吸血鬼 (バンパネラ) の一族を描いた大人気作品。余談になるが、小池先生はこの作品の文庫版に寄稿していて、縁の深い作品になっている。

感想のまとめ

ポーの一族の実写化としてこれ以上はないだろう、と確信する完璧なキャスティングが光る傑作。漫画の世界から抜け出したかのような明日海さんのエドガーと柚香さんのアラン、圧巻の演技力に裏打ちされた仙名さんのシーラは特筆すべき素晴らしさ。漫画作品も得意とする宝塚の作品群の中でも、間違いなく傑作として挙げられる作品だろう。脚本のまとめ方も素晴らしく、初見でもポーの一族を理解できるであろう脚本になっている。


以下ネタバレ注意

“ポーの一族 (花組) 感想 ―漫画の世界が現実に―” の続きを読む