ロミオとジュリエット (2013年星組) ―恋愛作品としての完成形―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。宝塚では3回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


初演と同じ配役のメンバーの完成度が高く、物語をグイグイ引っ張っていく公演。歌と上品さがパワーアップした夢咲さんのジュリエットが完璧で、柚木さんのロミオとの情熱的な恋愛はまさに二人だけの世界。恋愛作品としてはロミオとジュリエットの公演でもピカイチ。ただしトップコンビのパワーアップなど見どころも多いが、全体的に見るとハマり役揃いの初演版が原作のイメージに近いかもしれない。

以下ネタバレ注意

感想

原作を何回も読んでいる視点での感想。ミュージカル版に伴う変更点などは ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想 に記載しているので割愛。

今回は役替わりAの感想

【全般】

  • 同役組がやはりハマり役
    初回公演と同じ配役のメンバーの完成度が凄まじい。物語をグイグイ引っ張ってくれているが、再演だからこその強みだろう。

  • 再演で完璧になったジュリエット
    初演でのヒロインぶりが素敵な夢咲さんの成長が凄まじかった。抜群のヒロインぶりに加え、初演での弱点だった歌と上品さが改善されてまさに理想のジュリエット。彼女のジュリエットを見られただけでも再演の価値があっただろう。

  • 二人だけの世界ぶりが随一のトップコンビ
    主演の二人が同役での再演なこともあり、完璧な仕上がり。互いに向ける視線の熱さからして、二人だけの世界に生きている。多くの再演の中でも柚希さんと夢咲さんのロミジュリが一番恋愛をしているので、恋愛作品としておすすめの公演。

  • 柚希さんと礼さんのダンスが凄い
    ダンスシーンで目を引くのが柚希さんのロミオと礼さんのベンヴォーリオ。ふたりともキレが良く、振り付けに余裕を感じさせるダンスが素晴らしかった。特にロミオのダンスシーンは必見で、仮面舞踏会のシーンでジュリエットから全く視線を外さないダンスがとても印象的。

  • 全体的には初演のほうがイメージ通り
    トップコンビのパワーアップなど見どころも多いが、全体的に見るとハマり役揃いの初演版が原作のイメージに近いかもしれない。初演がなければ気にもならないほど完成度が高いが、初演のすべてのピースが綺麗に揃った公演が印象的だったからかもしれない。

【個別】

  • ロミオ (柚希さん)
    初演もそうだがとにかく格好良い。カリスマ性の強い男らしい格好良さが素晴らしかった。感情表現が初演よりも激しくなっていて、より情熱的な生き方をしているのが印象的。特筆すべきは舞踏会でのダンスシーンで、ずっとジュリエットを見つめながら踊るのが素敵だった。ジュリエットにどれほど心を奪われているかが伝わってきて、一番好きなシーン。

  • ジュリエット (夢咲さん)
    今回の再演は完成された夢咲さんのジュリエットが一番の見所。ロミオと恋に落ちてからの一途さはそのままに、歌唱力と品の良さが向上した完璧なジュリエットで素晴らしかった。特にロミオに向ける表情が素敵で、まさに二人だけの世界だった。

  • キャピュレット卿 (一樹さん)
    娘を思う親心が強く出ていて、独り歌うシーンが感動的だった。父娘が解かりあえないことを知っていることもあり、キャピュレット卿の不器用な親心が泣けるシーンだった。
  • ロレンス神父 (英真さん)
    抜群の安定感と包容力、そして歌唱力。一樹さんもそうだが、出ていると場面が引き締まって素晴らしかった。

  • モンタギュー卿 (美稀さん)
    両家が並んだときのキャピュレット卿と相対する貫禄が素敵。ロミオたちの死を目の当たりにした際の、悔恨の表情が印象的。

  • 乳母 (美城さん)
    歌唱シーンが素晴らしく、とてもクリアで安定した低音を活かしたハーモニーが綺麗だった。ジュリエットを大切に思っていることも痛いほど伝わってきて、演技も歌も素晴らしかった。

  • キャピュレット夫人 (音花さん)
    感情の押し出しが強めで、彼女の生き方がわかりやすくて好みだった。ティボルトへの愛情がかなり強いので、ジュリエットにロミオを忘れてパリス伯爵と結婚するように迫るシーンの親心と私心がわかりやすかった。

  • 愛 (鶴美さん)
    しなやかながらもキレの良いダンスが綺麗で、死とのバランスも良く美しかった。

  • 死 (真風さん)
    初演でも思ったがやはりハマり役。強烈な存在感と不敵な笑みが印象的で、両家の争いを楽しんでいるかのような死だった。個人的には冷たく無機質な死が好みだが、意思を持ったキャラクター性の強い死の完成形だろう。ロミオが毒薬を求めるシーンで満を持して物語に介入する流れが特に素晴らしく、死が不可避となる絶望感を与えてくるのが素敵だった。

  • ティボルト (紅さん)
    個人的にはマーキューシオがハマり役だと想うが、想像以上に良かった。体格が良いのでモンタギューの3人組と並んだ際のバランスが良く、抑え気味な演技がかえって迫力を増していて素敵だった。

  • マーキューシオ (壱城さん)
    死ぬシーンに役のピークが来る、新鮮なマーキューシオだった。狂気に囚われたわけでもなく、死に魅入られた様子もない普通の青年。だからこそ彼が死んだことに突然の喪失感があり、物語が急転していくように感じられた。

  • パリス (天寿さん)
    ジュリエットが嫌がって拒否する間抜けな男、そんな要素の出し方が上手。言動から漂う間抜けぶりに、舞踏会でジュリエットに迫る際の気持ち悪さとまさに完璧。天寿さん本来の格好良さを全く感じさせない演技力が素晴らしかった。

  • ベンヴォーリオ (礼さん)
    改めて感じるが、やはり礼さんは上手い。集団の中でも余裕を感じさせるキレの良いダンスと、ベンヴォーリオの苦悩が伝わってくる歌唱シーンが素晴らしい。