朝月希和さん退団に寄せて
―プロフェッショナルな仕事人―

雪組トップ娘役の朝月希和さんが昨日退団となった。トップ娘役としての朝月さんはまさにプロフェッショナルで、大変な時期の雪組で難しい役柄を見事に演じきり、体制が落ち着いた頃に退団していく姿はまさに仕事人だった。

お披露目公演「ヴェネチアの紋章」のリヴィアは見事なドレスさばきを活かしたハマり役だが、大劇場公演は難役続き。CITY HUNTERの香、夢介千両みやげのお銀、蒼穹の昴の玲玲と個性豊かな役が続いた。地味で難しいという美味しくない役柄が続いたが、役柄の広さと彩風さんと抜群のコンビネーションで雪組を引っ張っていた。ダンス・歌・演技と何でもできる強みを活かし、彩風さん・朝美さんと3人でフル稼働していたのも懐かしい。

得意分野はショーで活きることが多く、男役を引き連れてドレス姿で踊る姿は華やか。特筆すべきはフィナーレで、スライドするかのように動いていくドレスさばきがとても印象的。彩風さんとの息の合ったデュエットダンスも美しく、Sensetional!では二人にしかできない大人の情愛を描いたダンスだった。任期後半で増やした反りを活かしたダンスも綺麗で、涼しい顔で凄まじい角度で体を反らす姿も美しかった。

主要メンバーがガラッと入れ替わった新生雪組の大変な時期を支え、地味で難しい役柄を見事にこなし、後任に安定期の雪組と華やかな役柄を残して去っていく。そんなトップ娘役である朝月希和さんを見ることができて幸せだった。

蒼穹の昴―豪華絢爛な超大作―

概要


蒼穹の昴は浅田次郎による長編小説で、原田諒先生による脚本・演出作品。西太后の君臨する清国を舞台とした時代小説で、李春雲と梁文秀という架空の人物たちを中心に描かれた物語。原作では春雲が主役だが、宝塚版は文秀が主役となっている。

感想のまとめ


全4巻もの超大作を2時間という枠にうまく収めた大作。原作のイメージを尊重した配役、雪組と専科による重厚な演技、豪華絢爛な衣装や舞台を大きく見せる巧みな演出が素晴らしかった。削られた要素や改変された要素に不満がなくはないが、これだけうまくまとめられるのは原田先生だけだろうという会心の作品だった。
はまり役が多すぎるが、目を中心とした表情や仕草で機微を見せてくる彩風さんの梁文秀、全身全てでコンプレックスを表現している真那さんの袁世凱、宮中での振る舞いと内に秘めた思いの演じ分けがとても素敵だった一樹さんの西太后、宦官の存在を強烈に印象付けた透真さんの李蓮英が特にお気に入り。

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ODYSSEY 感想―公演中止を乗り越えて出港―

概要


ODYSSEYは野口幸作先生の作・演出による作品。ODYSSEY号を率いる海賊船の船長ブルームが、月の女神セレネと太陽の神アポロンに誘われて世界を巡っていくレビュー作品。
同年上旬に予定されていた公演だったが、コロナによる中止を受けてこの時期へ変更となった作品。

感想のまとめ


バリエーション豊かな衣装が売りのショー作品で、様々な衣装と衣装が映えるダンスを楽しむタイプの作品。抜群の着こなしや、眉を主体とした表情で心情を見せる彩風さんの強みを活かした構成で、叶さんや眞ノ宮さん、音彩さん、華世さんといったメンバーの活躍が光る公演だった。一番のお気に入りはカルメンのシーンで、彩風さんの表情は必見。

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夢介千両みやげ/Sensational! 感想 ―平和な王道時代劇―

概要


夢介千両みやげは山手樹一郎による時代小説で、石田昌也先生の脚本・演出による作品。小田原の庄屋の息子である夢介が、千両を使って江戸での道楽修行に勤しむ時代小説。「桃太郎侍」や「遠山の金さん」といった有名作品を手掛けた山手樹一郎の王道物語。
Sensational!は中村一徳先生によるショー作品で、愛や夢、そして希望をテーマにした作品。

感想のまとめ


夢介千両みやげは肩の力を抜いて楽しめる、王道の娯楽系時代劇。物腰の柔らかいお人好しで、人のために生きる夢介の良さがとても良く表現されていた。登場人物が多く、エピソードや小芝居が多い点も素晴らしい。歌唱シーンも華やかで、キャッチーなフレーズと演出が素晴らしかった。脚本のアレンジが残念なのが玉に瑕。

Sensational!は歌もダンスも激しく、めるくめくように場面が変わるショー。ダンサー揃いの雪組での激しいダンスやふんだんに盛り込まれた銀橋渡り、手厚い餞別が光る素晴らしいショー。

お気に入りは、絶妙な掛け合いと間延びした声で夢介の器の大きさと人柄の良さを上手く見せてくれた彩風さんの夢介、チャキチャキしていて美しい所作とヤキモチ焼きな押しかけ女房ぶりがとても素敵だった朝月さん、素晴らしい歌唱力とダンスが素晴らしかった和希さん、歌って良し演じて良し踊っても良しな久城さん、地味な田舎娘ぶりの仕上げ方が素晴らしかった野々花さんのお松、オーロラの場面での歌唱力の飛躍が目覚ましかった縣さん。

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CITY HUNTER / Fire Fever! 感想
―名前の通り激しいダンスショー―

概要


CITY HUNTER―盗まれたXYZ ― は齋藤吉正先生による脚本・演出による公演。原作は北条司先生によって週刊少年ジャンプで連載されていた漫画作品。1980年代の新宿を舞台に、探偵・暗殺・要人警護などを請け負うスイーパー・冴羽獠を描いたハードボイルド・コメディ。
Fire Fever!は稲葉太地先生による作・演出による作品。

感想のまとめ


CITY HUNTERは原作や当時の東京への深い愛が特長の脚本で、散らかり気味のストーリーや微妙すぎる時事ネタを愛で許せるかで好き嫌いの分かれる作品。ビジュアルや動きの再現度の高さ、詰めに詰めたエピソード、生オケでのGet Wildなどが見せ場。特に限界まで低音で、色気を漂わせながら歌う彩風さんのGet Wildが好きなシーン。
Fire Feverは激しいダンスショーで衣装をバンバン変えながら大人数で踊っていく派手な演目。その中でも彩風さんが終始出ずっぱりで歌って踊ってトップとして引っ張る姿が凄まじい。歌唱シーンも様変わりし、彩風さんと朝美さんの癖のある歌唱、奏乃さんや久城さんの綺麗な歌唱を堪能できる。
徹底して研究されたコミカルな動きやハードボイルドな格好良さに加えて低音での色気を漂わる歌唱が凄い彩風さん、歌・演技・ダンスの全てで万能ぶりと男役を輝かせる技術をいかんなく発揮した朝月さん、堂々たる二番手としてすべてのシーンで安定感のある朝美さん、巨漢の海坊主を見事に再現した縣さん、悪役で見たい要素をすべて見せてくれてFire Fever!での歌唱も素晴らしい久城さんがお気に入り。

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―名前の通り激しいダンスショー―” の
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