ODYSSEY 感想―公演中止を乗り越えて出港―

概要


ODYSSEYは野口幸作先生の作・演出による作品。ODYSSEY号を率いる海賊船の船長ブルームが、月の女神セレネと太陽の神アポロンに誘われて世界を巡っていくレビュー作品。
同年上旬に予定されていた公演だったが、コロナによる中止を受けてこの時期へ変更となった作品。

感想のまとめ


バリエーション豊かな衣装が売りのショー作品で、様々な衣装と衣装が映えるダンスを楽しむタイプの作品。抜群の着こなしや、眉を主体とした表情で心情を見せる彩風さんの強みを活かした構成で、叶さんや眞ノ宮さん、音彩さん、華世さんといったメンバーの活躍が光る公演だった。一番のお気に入りはカルメンのシーンで、彩風さんの表情は必見。

以下ネタバレ注意

感想


【全般】

  • バリエーション豊かな衣装が売りののショー作品
    世界を巡っていくというコンセプトもあり、衣装のバリエーションが非常に豊富。スーツに軍服、民族衣装に海賊衣装と古今東西なんでもあり。どの衣装も抜群に映える彩風さんの着こなしと、雪組メンバーの早着替えが光るショー作品。

  • 歌よりもダンスが中心
    観た印象だと、衣装 > ダンス > 歌 > ストーリー性というイメージ。踊りまくるというよりは衣装が映えるダンスが多く、直近だとSensational!よりもFire fever!に近いタイプ。

  • 彩風さんの良さを前面に出す構成
    彩風さんの良さを出すことに注力した構成だった。抜群の着こなしの良さを活かすための様々な衣装、種類を問わずに綺麗に踊る強みを活かしたダンスシーン、表情で役を演じる強みを活かしたカルメンやジェラール・フィリップのシーン。良いところを全部見せようという気概を感じる作品だった。

  • 抜群のインパクトを誇るカルメンのシーン
    縣さんの女装で話題になっているカルメンのシーンが素晴らしかった。生命力に満ち溢れた縣さんのカルメンと、彼女に見捨てられて運命が狂っていく彩風さんのドン・ホセとがとても合っていた。あのカルメンを目にしたらドン・ホセは破滅まで止まれないだろうし、最後にドン・ホセが見せる愛憎の表情がとても素敵。野々花さんのミカエラや眞ノ宮さんのエスカミーリヨも似合っていて、屈指の見せ場になっていて、ショーのワンシーンで使い切るには勿体ないほどに良いシーンだった。余談だが、カルメンは娘役だと別公演に出演中の夢白さんあたりが似合いそうな印象。

  • 一作品にできそうなジェラール・フィリップのシーン
    上記のカルメンの他にも、ファウスト博士がメフィストフェレスと契約してジェラール・フィリップとなる数奇な半生を追ったシーンも面白かった。これだけで一つの脚本ができそうな設定で、テンポ良く様々な役を通じて彼の生き様を見せるシーンが印象的だった。

  • 下級生が躍動
    別箱公演らしく、下級生の躍動が光っていた。美穂さんのパートを一人で演じていた音彩さんの抜群の歌唱力、堂々たるダンサーぶりを発揮していた眞ノ宮さん、推されるのも納得の万能ぶりを見せる華世さんなどが大活躍。脇を固める叶さんの歌唱力も素晴らしく、雪組の明るい未来を感じた。

  • 振り幅の大きなショー作品
    カルメンやジェラール・フィリップなどのシリアスなシーンや、どっせいオデッセイやお祭りマンボといった軽いシーン、NYのコメディからスタイリッシュに変化するシーンなどかなり振り幅が大きい。どれかしらツボに入るであろうレパートリーの広さも特徴だった。

  • ごった煮感が強い
    良く言えば見せ場が多くてバラエティに富んでいるショーだが、悪く言えばストーリー性がなくて散らかった印象。テーマに基づいたレビュー作品というよりは、ファッション&ダンスショーというイメージだった。

  • 男役の女装が多すぎる
    男役の女装が非常に多く、覚えているだけでも彩風さん、縣さん、久城さん、眞ノ宮さん、華世さんと朝美さん以外の主要メンバーは全員女装シーンがある。わざわざ男役に女装をさせる必要性を感じないシーンも多く、娘役の見せ場が少なくなっている点も合わせて残念。

【個別】

  • 彩風さん
    抜群のスタイルの良さを活かした着こなしの良さ、どんな種類のダンスも綺麗に踊れる安定感、セリフのない小芝居でも可動域の広い眉や表情で雄弁に語る演技力と強みがとても良く出ていて素敵だった。一番良かったのはカルメンのシーンで、破滅へ向かって進み続けてしまうドン・ホセの心情の見せ方や最後の愛憎入り交じった表情がとても素敵だった。眉を主体とした表情で心情を見せてくる、彩風さんが得意とする演技が素晴らしかった。目まぐるしく変わる場面の変わっていくダンスシーンでも、一つ一つの動作が綺麗で素敵だった。

  • 朝月さん
    ショー作品としてはこれが最後の朝月さん。やはりダンスが綺麗で、彩風さんとの息の合ったデュエットダンスがとても美しかった。この公演では少し割りを食っていた気もするが、やはり彩風さんと一番ダンスが合うのは朝月さん。一糸乱れぬダンスがとても素敵だった。今回は体の反りが一際大きく、あれだけの角度を涼しい顔でピタッと止まる職人ぶりも印象的。

  • 朝美さん
    何でもできるタイプだからこその見せ方が上手で良かった。ダンスより歌や芝居を得意とするタイプだろうけれど、丁寧に踊って歌でシーンを作っていくのでダンスショーでも十分な二番手ぶりが光っていた。

  • 久城さん
    今作では少し出番が抑えめで、目立つシーンは予想外の女装シーン。発声や仕草を可愛くなるように変えているのはさすがの芸達者ぶり。

  • 叶さん
    自慢の歌唱力を遺憾なく発揮していて良かった。今回は小芝居での見せ場も多く、胡散臭くてどこかコミカルな商人、厭世的で疲れを感じさせる老ファウスト博士とインパクトのある役柄も素敵だった。

  • 縣さん
    堂々たる三番手ぶりが光っていた。スケールが大きくて躍動感のあるダンスと着実に成長している歌唱力で、抜群の華を活かしたダンサーぶりが素晴らしかった。目を引くタイプのダンサーなので、実際よりもセンターで踊っている印象を受けた。カルメンのシーンは女装感が拭えない感じだったが、生命力に満ち溢れた華のあるカルメンぶりは素敵だった。

  • 眞ノ宮さん
    元々ダンスの上手な眞ノ宮さんなので、第一幕での抜擢された姿はまさに水を得た魚のよう。格好良く、そして女装をすればしなやかに、どちらのパターンも綺麗なダンスが素晴らしかった。

  • 音彩さん
    この公演では影のMVPだろう。おそらくブルーレイ集録は美穂さんバージョンだと思うが、音彩さんの勇姿も残して欲しいと思う素晴らしさ。伸びやかに、速いテンポでも堂々と歌い上げる歌唱力と舞台度胸が素晴らしく、雪組にはまだこんなに歌えるメンバーがいたのかと衝撃的だった。

  • 華世さん
    歌もダンスもバランス良く、早くも推されているのがよく分かる実力派。華のあるタイプで歌もダンスも上手なので、今後もグイグイ伸びてくるのが楽しみな人。