肉体の悪魔/ラディゲ/新庄嘉章 訳/新潮文庫 感想
―緻密な心理描写が際立った作品―

概要


フランスのラディゲによる作品で、16歳から18歳の間に書かれた本作。第一次大戦期のフランスを舞台に、人妻との恋に落ちていく少年の物語。他にも戯曲「ペリカン家の人々」、「ドニーズ」が収録されている。

感想のまとめ


主人公の緻密な心情描写が凄まじい作品。矛盾だらけで理屈では説明つかないような言動や思考すら、見事に描写していて圧巻。
ただ情熱的だが暴力的でエゴイズムに満ちている恋愛なので、美しさを楽しむ作品ではなかった。主人公の心情を追うことを楽しめるかが、この作品を楽しめるかの分かれ道だと感じた。個人的には、凄いとは思うけれど好きではない作品。

以下ネタバレ注意

感想


率直な感想は、凄いと思うけれど好きではない作品だった。凄いと思うことは確かで数回読み直したが、やはり好きではないというのが結論だった。

主人公の道ならぬ恋で揺れ動く心情を、これでもかと緻密に描写していくさまは凄まじい。矛盾だらけで理屈では説明つかないような言動や思考すら、見事に描写している。

その点では凄まじいのだが、肝心の話が好きではなかった。マルトとの恋愛は情熱的だが暴力的でエゴイズムに満ちているので、美しさを楽しむタイプの作品ではなかった。主人公の心情を追うことを楽しめるかが、この作品を楽しめるかの分かれ道だと感じた。

緻密な心理描写で綴られていく物語の結末も、あまりに出来すぎていて、ふと現実に戻される感覚があった。他の2作品でもそうだが、綺麗な落とし所へ向かう作風のようで、赤裸々にしていく作風とのギャップを感じてしまった。