概要
オーストリアで上演されていたミュージカルで、潤色・演出は小池修一郎先生。オーストリア・ハプスブルグ家の皇后になるエリザベートと、死の象徴でもある黄泉の帝王トートが織りなす愛と死を描いた作品。
感想のまとめ
脚本・演出・演技・歌のすべてが凄まじい作品。歌はこれまで見た中で一番凄いかもしれない。トートの一路さんを始めとしてどの人も凄まじく歌が上手で、「闇が広がる」が一番のお気に入り。
冷たく無機質で、人の傍らにあり続ける死を象徴するトートがとても素敵で、まさに死そのものというトート像があってこその作品だと思う。
どの人も凄まじいけれど、冷たく無機質な死を象徴するトートを演じた一路さん、オーストリア皇帝として年月を重ねていくフランツを演じた高嶺さん、鏡の間で凄まじい美しさを見せるエリザベートを演じた花總さん、ひと目見てヤバいと感じるルキーニを演じた轟さんが特に印象的。
視聴日
2019/9/23 (Blu-ray)
以下ネタバレ注意
感想
【全体】
- 脚本・演出・演技・歌のすべてが凄い
どこをとってもハイレベルで、大人気作品になったことも頷ける素晴らしさ。すべてにおいて圧倒的なクオリティで、初演版を買ったのは大正解だった。 - 歌が凄い
どの人も歌が凄まじく上手で、すべての曲が聞き惚れるような素晴らしさ。ソロでも上手いのに声の相性も抜群で、コーラスも大迫力。ビブラートとリズムのとり方に癖があるが、重厚感を出していてとても良い。一番好きな歌は「闇が広がる」で、歌の上手い人同士で相性が良いと、これだけ凄まじい歌になるのかと感動した。今まで見た作品の中で、歌に関しては一番かも知れない。 - 死のイメージが完璧
死のイメージが自分の思い描くものとぴったりと重なったので、この作品が大好きなんだと思う。常に傍らにあるけれど決して埋まらない溝があり、魅力的に感じることもあるが、あくまで冷たくて無機質。そんな死をトートから感じる作品だった。
常に無表情で人々の傍らにあり続ける姿は、まさに死そのものだった。「闇が広がる」でも歌とは裏腹に無表情で、本質的には冷たい死というのがひしひしと伝わってきて素敵だった。
あくまで物語を動かすのは人間で、トートは無機質な死として振る舞う点も良かった。常に傍らにある冷たい死を象徴するトートだからこその傑作だと思う。 - 物語が綺麗にまとまっている
トートは死の象徴であり、要所に存在することが重要な役割。トートのために物語が進むわけではなく、物語が進むところにトートがいる。その分エリザベートやフランツ、ルドルフにフォーカスできるので、物語が綺麗にまとまっている。
【個別】
- トート (一路さん)
一路さんのトートだからこその傑作。独特で凄まじく上手な歌、すべてを持っていくような存在感。そして死を体現するかのような無表情で冷たい役作りがとても素敵。
兎にも角にも歌が凄い。ガンガンに効かせたビブラートと独特のリズムによる歌い方が癖になる素晴らしさ。独特かつとても上手な歌で、今まで聞いた中で一、二を争うぐらい好きかも知れない。
小さな動きをダイナミックかつ美しく見せる手の動きも凄かった。ダンスシーンは少ないけれど、ちょっとした動きすらも惚れ惚れするような美しさだった。 - エリザベート (花總さん)
鏡の間でのシーンがとても美しかった。それまでの宮廷に馴染めない姿から一転して気品ある皇后になったので、ギャップも合わせて凄まじい美しさだった。歌もこのシーンが一番素敵で、エリザベートの登場シーンで一番印象的。
キャラクター的には無責任すぎる気もするが、当時の時代柄からも人気が出るだろうな、という印象。 - フランツ (高嶺さん)
青年期から壮年期、老年期と歳を重ねていく役作りがとても良い。ゾフィーの言いなりから威厳ある皇帝になり、最後は老いていく。そんな年のとり方だからこそ、夜のボートですれ違い続けた人生に涙が出た。
歌も凄まじく上手。若々しく優しい青年期、威厳が出たが疲れの見える壮年期、以前の強さはないが優しい老年期と、年齢に合わせて歌い方まで変わっていく所も凄い。エリザベートを愛している優しい人なのに、価値観の違いが会話の節々に出ていて、それに気づかない演技もとても素敵。個人である前にオーストリアの皇帝である、ということがひしひしと伝わってきた。 - ルキーニ (轟さん)
ひと目見てヤバイやつだとわかる、ギラついた目が印象的。狂気のオンオフがはっきりしていて、理性的に狂っている様子がとても不気味で良かった。男役というよりも男のようなビジュアルも少し異質で、ルキーニの不気味さの一因かも知れない。
低音を存分に活かした力強い歌も素敵で、やっぱり轟さんは素敵だなぁ、と思った。
階段降りでは衣装が変わって、凄まじい格好良さだった。 - ルドルフ (香寿さん)
臆病で聡明、そして満たされない承認欲求を抱えている。そんなルドルフ像がとても素敵。「闇が広がる」ではトートの口づけを本能的に回避しつつも、徐々にトートに惹かれていく姿がとても印象的。最初はトートに引きずられていたのに、トートの甘言に一筋の光を見いだして最後はトートの手を自ら取る。覚悟を決めた時に表情がガラッと変わるところも印象的。歌もとても上手かつ一路さんと相性抜群で、作中屈指の好きなシーン。
現状の危うさも、独立運動へ協力するリスクも理解していて、それでも皆に愛される国王の座に惹かれてしまう姿は、悲しいけれど魅力的。
最後にエリザベートへすがるシーンは泣きたくなるほどの甘え下手。助けてとは言えず大義を語ってしまう不器用さと、希望が潰えた後の震え方がとても印象的。 - ルドルフ (少年期) (安蘭さん)
少年期の高めでクリアな歌声がとても綺麗。可愛らしい姿で不安げに歌う様子がとても印象的。この少年期ならあの青年期だよな、というルドルフで素敵だった。 - ゾフィー (朱さん)
宮中で一番強い人だとひと目で分かるメイクがとても印象的。エトワールだと優しい印象だったので、このメイクは大正解だと思う。気品と厳しさを前面に押し出す演技や歌声がとても素敵で、エトワールの歌声もとても素敵。 - マダムヴォルフ (美穂さん)
娼館から派遣されたやり手。歌を聞くだけでそんな情報が伝わってくる歌い方がとても素敵。