概要
ロシアのプーシキンによる作品で、韻文小説。池田健太郎先生による翻訳は、韻文ではなく散文形式。
プーシキンを思わせる作者が、読者へ語りかけながら進んでいく独特の形式。オネーギンはタチヤーナの恋心を無下に断るが、何年か後に再会した際に彼は恋に落ちてしまう。情熱的にのめり込んでいくオネーギンだが、彼の恋は実ること無く終わりを迎えてしまう。
感想のまとめ
綺麗な情景の作品で、めぐる季節にロシアの文化、人々の心情の描き方が美しくて心地よかった。派手な物語がなくても引き込まれる、そんな素敵な作品。散文形式の翻訳は情景に浸りやすく、自分好みの翻訳だった。一気に読むよりも、じっくりと味わいながら楽しみたくなる作品。
タチヤーナがとても魅力的に書かれていて、彼女の変化していく描写がとても良かった。
オネーギンは前半の塞ぎがちで冷たい美青年ぶりと、後半での縋るように情熱的な愛を見せる姿のギャップがとても素敵だった。
以下ネタバレ注意
感想
綺麗な情景の作品で、めぐる季節にロシアの文化、人々の心情の描き方が美しくて心地よかった。派手な物語がなくても引き込まれる、そんな素敵な作品。散文形式の翻訳は情景に浸りやすく、自分好みの翻訳だった。一気に読むよりも、じっくりと味わいながら楽しみたくなる作品。
タチヤーナの手紙で始まった二人の物語は、オネーギン手紙によって終わりを迎える。かつてとは逆の立場で、愛が報われないという同じ結末を迎える皮肉な構図が素敵。あのオネーギンが情熱的にタチヤーナを愛し、それでもタチヤーナは彼の愛を受け入れない。動きはないけれど劇的で美しい終わり方だった。
語り手の贔屓もあるが、タチヤーナがとても魅力的な女性だった。前半は内気ながら情熱的に恋にのめり込む少女。そんな彼女が恋に破れて塞ぎ込んでしまうも、後半では毅然たる態度でオネーギンに接する。彼女の変化していく描写がとても良かった。恋に破れた後にオネーギンの屋敷で、彼の書物を読みながら想いを馳せる場面は劇中で一番好きなシーン。
タチヤーナとレンスキー、うまくいく道もあったのにふたりとも失ってしまう。その原因はオネーギンにあるとはいえ、とてもやるせない。そのやるせなさが良い余韻だった。
オネーギンは余計者として描かれていて、何事にも秀でているが塞ぎがちで無気力。そんな彼が初めて情熱的になったのがタチヤーナへの愛で、それに気づいたときには既に詰んでいるのだから悲しい。彼の自業自得ではあるが、オネーギンに冷たすぎる語り手は少し可笑しかった。
オネーギンはそれほど魅力的な人物として描かれていないかも知れないが、前半の塞ぎがちで冷たい美青年ぶりと、後半での縋るように情熱的な愛を見せる姿のギャップがとても素敵だった。
語り手による雄弁な語りは物語から現実に引き戻すどころか、かえってそれが小説の世界に引き込んでいく絶妙な語り口。語りかけられていることで物語に没入できる、良い語り手ぶりだった。