概要
フランスの劇作家であるロスタンによる同作品を映像化した作品。本作は1990年に映画化された作品。
シラノ・ド・ベルジュラックは理学者にして詩人、剣客、音楽家と多才だが、大きすぎる鼻のせいで従妹ロクサーヌへの恋心を隠している。そのロクサーヌは、美男のクリスチャンに想いを寄せていることをシラノに告げる。シラノは二人のために尽くそうとするが、クリスチャンに弁舌の才がないことを知る。ロクサーヌがこのことを知ったら、彼に幻滅してしまう。
その時、シラノはあることを思いつく。弁舌に恵まれたが容姿に恵まれなかったシラノと、容姿に恵まれたが弁舌に恵まれなかったクリスチャン。二人が手を組めば、ロクサーヌへの想いが届くかもしれない。シラノはクリスチャンに、自分の弁舌を使ってロクサーヌへの想いを伝えることを提案する。
感想のまとめ
ほぼ戯曲のイメージ通りで完成度の高い作品なので、内容が気になるといった人にもお勧め。主演が完璧で、ビジュアルも演技もまさに戯曲で読んだシラノそのもの。映画ならではのスケールで、自然や街並みも楽しめる作品で、本の世界へ入り込んでシラノの生き様を見ているかのような感覚を味わえる。
一部シーンのアレンジは残念だが、これだけ高いクオリティの作品はめったに見られない名作。何度も本で読んだあの物語を、まさにイメージ通りに再現してくれるという最高の作品。
以下ネタバレ注意
感想
- ほぼ戯曲のイメージ通りで高い完成度
登場人物、話の流れともに戯曲のイメージ通りで完成度が高い。お手軽に内容を知りたい人にもおすすめの作品。
戯曲から飛び出したかのようなシラノ、才色兼備のロクサーヌ、美男だが弁舌の立たないクリスチャン、後半になるほど魅力が増していくギッシュ伯爵と役者陣はビジュアルも演技も完璧。 - 原作重視でアレンジが少なめ
バルコニーのシーンや修道院でのクライマックスといった名シーンはもちろん、ラグノーの店での風景や修道院でのロクサーヌとギッシュ伯爵 (この時点では公爵) の会話など、見たいシーンが漏れなく収められている。 - 主演が完璧
シラノは本で読んだ彼そのもの。ビジュアル、弁舌、ロクサーヌへ向ける視線のすべてがイメージ通りという怪演ぶり。特にイメージ通りのビジュアルは完璧。演技も素晴らしく、最初の決闘シーン、死にゆくクリスチャンへ言葉をかけるシーン、14年前の手紙を読むシーンなど、激しくも繊細で、自己犠牲の愛に生きるシラノぶりがとても良い。 - バルコニーのシーンが凄い
バルコニーでシラノがロクサーヌと語らうシーンがとても良い。彼がロクサーヌに初めて自分の口で想いを告げるシーンでの躍動感、語らった後に見せる万感の思いが伝わってくる。至福の時を楽しむシラノ、語らいに陶酔するロクサーヌ、焦燥感を隠さないクリスチャンと三者三様な姿がまた良い。 - 修道院でのクライマックスが完璧
修道院でのシーンはすべてが完璧。14年前の手紙を昨日書いたかのように諳んじるシラノと、その様子からかつての相手がシラノだと確信するロクサーヌ。そこからの流れも完璧。シラノが死に対して、勝てないとわかっていても抗う勇姿が感動的で、空が暗いことも余韻を良くしている。 - 街並みや舞台のスケールが大きい
戯曲作品を映画化したこの作品。映画だからこそのスケール感で街並みや自然を楽しめる。映画だからこそできる昼や夜を使い分けたシーンでは、陽の光や陰りが柔らかで作風に合っている。本の世界へ入り込んでシラノの生き様を見ているかのような感覚を味わえる。
- 月旅行の話だけが残念
なぜかアレンジされた月旅行のシーン。大好きなシーンだっただけにここだけが残念。戯曲ではロクサーヌに会いに来たギッシュ伯爵が、シラノの話に夢中になってまんまと時間稼ぎをさせてしまうシーン。映画版のギッシュ伯爵は月旅行に興味を持っていないので、シラノの弁舌とギッシュ伯爵の人間味の両方が弱く見えてしまった。 - ギッシュ伯爵が良い
最初はシラノの敵役、中盤でガスコンらしさを見せ、最後は公爵に出世するギッシュ伯爵。変わっていく彼の表情がとても良かった。修道院での彼が見せる柔らかでとても良い表情は必見。シラノとは違った人生を歩んだからだからこその、シラノへの考えが伝わってくる名演技。