アウグストゥス / Cool Beast!! 感想
―アントニウスとクレオパトラが魅力的な歴史ファンタジー―

概要


アウグストゥス―尊厳ある者―は田渕大輔先生の作・演出による作品。ジュリアス・シーザーの後継者であり、ローマ皇帝となったアウグストゥス。彼の歩んだ道程を、ブルートゥス、アントニウスたちとの対立を交えながら描いた作品。
Cool Beast!!は藤井大介先生の作・演出による作品。野獣の見る夢を描いたラテンショー。

 

感想のまとめ


アウグストゥスは歴史ファンタジーとして観るべき作品。アウグストゥスとポンペイアが心を通わせるシーンや、アントニウスとクレオパトラのシーンなど随所に魅力的なシーンが光る。その一方で、説明不足かつ登場人物が考えなしに見えてしまうのが惜しい。野心に満ちたアントニウスを力強く演じた瀬戸さん、ファラオとしての矜持と愛を選んだ女性を見せたクレオパトラを演じた凪七さん、愛憎入り交じったブルートゥスを演じた永久輝さんがお気に入り。
Cool Beast!!は花組のバラエティ豊かなダンサーを堪能できるショー。美穂さんの歌唱を心置きなく堪能できるショーで、美穂さんと歌う音さんの歌もとても素敵。

 

以下ネタバレ注意

感想


【アウグストゥス】

全体

  • 歴史ファンタジーとしての心構えが必要
    箇条書きレベルだと史実と同じだが、かなりアレンジされている。結末だけ同じファンタジー作品として観る心構えが吉。

  • アントニウスとクレオパトラがとても魅力的
    「アントニーとクレオパトラ」を観に来たのかな?と思うほどにアントニウスとクレオパトラが魅力的に描かれている。愛も名誉も夢も諦められない野心に満ちたアントニウスと、本当の愛を知ってしまったクレオパトラ。二人の生き様がとても魅力だった。

  • アウグストゥスとポンペイアはとても難しい役柄
    アントニウスとクレオパトラが魅力的に描かれている一方で、主役の二人が大変そうだった。出番も少なく、二人の交流が歴史に与える影響は大きくない。二人が心を通わせるシーンが感動的で、偉大な人物としてではなく等身大の人物としての魅力にすべてを注いだ脚本。そんな役柄を華のあるカリスマ性で主役に引き上げる柚香さんと、台詞が心の残るように場面場面で印象をガラッと変えてくる華さんの良さが光っていた。さすがトップコンビ。

  • 起承は大作、転結で明後日の方向へ
    最初は歴史物として大作を予感させて非常に面白い。しかし気がつけばヒューマンドラマに舵を切り、明後日の方向へ全力疾走していった作品。歴史物をするにはファンタジー過ぎて説明不足、ヒューマンドラマをするには描写が足りない。そんなどっちつかずの残念さがある。前半はとても面白いので惜しい。

  • 美しい理想が裏目に出た、おバカ揃いのローマ史状態
    打算や計略ではなく、心に従って生きる姿を描きたかったんだろうという作品。そこに悪意はなくて美しい理想だとは思うが、それがかなり裏目に出ている印象。登場人物が考えなしに動いては失策を重ねて失脚していき、アウグストゥスが棚ぼたを得たかのような脚本。この時代は考えなししかいないのかな?という展開が惜しい。
    描こうとした理想はとても美しく、登場人物も人間味を持って描こうと攻めに攻めて書かれた脚本なので、その方針はとても素敵。

  • 拾わない史実ネタが勿体ない
    シナリオに合わせて史実から随所で変更が見られるが、勿体ない点も多い。ブルートゥスの死はアントニウスを台頭させるために、クレオパトラの死はファラオの矜持よりも愛を選んだことを強調するためか、有名なエピソードから大きく変更されている。二人にとって見せ場になるシーンを削ってしまっていて、非常に口惜しい。

  • 説明不足なストーリー
    歴史物は史実をフォローすれば史実通りを理由に説明を省略できるが、ここまでファンタジーだと流石に説明不足が目立つ。カエサルはなぜアウグストゥスを後継者にしたか位は描いておくべきだった。

個別

  • アウグストゥス (柚香さん)
    これを主役にするのは大変だっただろうけれど、さすが柚香さん。とても華のあるカリスマ性の高い人なので、とにかく目立って格好良い。そして意外と等身大の人物像がとても素敵で、不安を抱えて悩みながら進んでいくアウグストゥスがとても魅力的だった。

  • ポンペイア (華さん)
    登場シーンごとにガラッと印象の変わる人だと思ったら、すべて重要な意味があるのだから凄い。アウグストゥスと心を通わせたシーンの憑き物が落ちたような様子がとても印象的で、死によって憎しみから解放されたのがとてもわかり易くて素敵だった。

  • アントニウス (瀬戸さん)
    一挙一動がとても格好良くて素敵だった。野心を秘めた目つきに、それを抑えきれない力強い動きにセリフ、そしてクレオパトラへの熱い愛。どのシーンも本当に素敵で視線が釘付けになる素晴らしさ。クレオパトラを妻に迎えてエジプト王になった時の満たされた表情や、ローマが自分を捕らえに来たと知った時に握りしめた拳、衣装のはためかせ方や殺陣など、セリフ以外も印象的。研ぎ澄まされた技術の粋を見た気分で、とても幸せだった。クレオパトラとの並びもとても美しく、思わずため息が出るような美男美女ぶりなのも良い。

  • カエサル (夏美さん)
    柚香さん、瀬戸さん、永久輝さんたちを従える事のできるカエサルはこの人しかいなかった!凄まじい貫禄と随所で見える甘さ、民衆の前で見せる力強さとまさにカエサルのイメージにピッタリ。クレオパトラやブルートゥスを気にかけてはいるけれど、相手からは心が離れていると思われるのも納得できてしまう絶妙な距離感も素敵だった。

  • クレオパトラ (凪七さん)
    凄まじい気品と美女ぶりで、専科の男役である凪七さんをわざわざこの役で起用したの納得の素晴らしさだった。矜持を感じさせる力強い歌に立ち振る舞いも素敵で、この気高いクレオパトラとアントニウスとの切ない愛が、とても美しくて素敵だった。

  • アグリッパ (水美さん)
    アウグストゥスの親友兼腹心という美味しい役のはずが、本作ではかなり不遇。それでも冒頭での綺麗な殺陣や力強い歌唱など、少ないシーンをビシッと決めてくるのがとても素敵。

  • ブルートゥス (永久輝さん)
    本当に愛憎入り混じった役がとても似合う。カエサルへの愛は確かにあるし、立場的に彼を排除しなければならないのも確か。けれど最後は彼への憎しみが決め手になったと思わせるような、悩み抜いた果ての力強い殺意がとても印象的。アントニウスやアウグストゥスへの冷たい目つきも印象的で、孤独で悩み続けた彼の悲劇ぶりが際立っていた。

【Cool Beast!!】

  • バラエティ豊かなダンサー揃い
    ダンスの上手い人、それも毛色の違った人が揃っている印象。独特のしなやかさと癖のある柚香さん、ビシッと決めてくる瀬戸さん、力強さと躍動感に満ちている水美さん、キレの良さが光る永久輝さん。右を見ても左を見てもダンサー揃いなので、視覚的にとても派手になっている。

  • 美穂さんの歌が凄い
    ありがたいことに、専科の美穂さんがフル稼働で歌ってくれている。いま宝塚で一番歌の上手であろう美穂さんが、劇場中に歌を響かせてくれる。美穂さんの歌を心ゆくまで堪能できるショーになっていて、とても幸せ。

  • 音さんの歌も凄い
    美穂さんの歌唱を堪能した後に、音さんの歌うシーンがまた凄かった。とても綺麗に力強く高音が響く歌声で、美穂さんと並んで凄まじい歌唱力でビックリした。

  • 瀬戸さんの白スーツがとても格好良い
    終盤に瀬戸さんが白スーツで登場するシーンがとても格好良い。一挙一動がとても綺麗で、男役の格好良さの醍醐味を楽しめた。

  • 柚香さんと瀬戸さんのダンスが綺麗
    柚香さんと瀬戸さんのダンスシーンが凄い。柚香さんが中性的ないし女性的に、瀬戸さんが力強く男性的に踊っていてとても美しい。最後のリフトも綺麗で大迫力だった。

  • 水美さんの躍動感に溢れたダンスが凄い
    水美さんのダンスが躍動感に満ちている。力強く頭上まで振り上げられる足、高い跳躍、速くてぶれない回転とどれをとっても美しい。キレの良い、というよりは力強さを感じるダンスは今まで見たことがなかったので、異質でとても素敵だった。