彩風咲奈さんの退団発表

2023年12月26日に、彩風さんの退団予定が発表された。2024年10月13日のベルサイユのばら―フェルゼン編―の千秋楽が、彩風さんの退団日となった。

公式HPに記載された記者会見でのコメントは、ひたむきでありながらも細やかな配慮の行き届いたものであり、とても彩風さんらしく感じられた。この方のファンで良かった、そう思える会見内容だった。

私にとって彩風さんは所謂贔屓であり、初めて贔屓の退団となった。

私が彩風さんの魅力に惹かれたのは、忘れもしない「ファントム」のキャリエールだった。ビストロでクリスティーヌの歌声にベラドーヴァを思い起こされた時の表情や、エリックに向ける優しげな表情が素敵で、この公演から今日までずっと、彩風さんを中心に観てきた宝塚生活だった。

彩風さんはどの作品も素晴らしかったが、トップ就任後の役柄の幅広さは目を見張る物があった。次はどんな作品でどんな演技を観られるだろうか、そんな楽しみを与えてくれるトップスターだった。そんな彩風さんが最後に演じる役は、宝塚でも歴史のある「ベルサイユのばら」のフェルゼンとなった。彩風さんが宝塚を目指すきっかけとなった作品も「ベルサイユのばら」らしいので、退団への道筋としては完璧だろう。幅広い役柄を見事に演じてきた彩風さんが、最後に古典的な正統派をどう演じるか。寂しさもあるが期待に胸が高鳴るのも事実である。

個人的な持論だが、彩風さんはこれまでも代表作といえる作品に恵まれてきたので、退団公演は彩風さんご自身の思い出深い「ベルサイユのばら」が最適だろうと考えている。ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイルはまだ観劇できていないので除外するが、それでもつらつらと作品を挙げることができる。
クラシカルな作品は「ヴェネチアの紋章」、彩風さんにしか演じられない作品は「夢介千両みやげ」、大作は「蒼穹の昴」、ミュージカル作品は「BONNIE & CLYDE」、ショーは「Sensational!」と「ル・ポァゾン」。トップ就任後だけでもこれだけ素晴らしい作品に出会えたので、後はボーナスステージだと考えてる。

その時期が近づいたら寂しがるのだろうが、ファンにできることは日々を楽しむことだけなので、残りの公演を心のままに楽しんでいきたい。

フリューゲル / 万華鏡百景色 ―コンパクトなまとめ方が光る作品―

概要


フリューゲル―君がくれた翼―は齋藤吉正先生の作・演出による作品。東ドイツの軍人ヨナスと西ドイツの歌手ナディアを中心に、ベルリンの壁崩壊へ向かうドイツを描いた作品。
万華鏡百景色は栗田優香先生の作・演出による作品。江戸時代から現代まで移ろっていく東京を描いたショー作品。

感想のまとめ


フリューゲルは盛りだくさんの内容をコンパクトにまとめ上げた良作。シリアスなテーマに適度なコミカルさを交え、中だるみすることなくまとめられた脚本が素晴らしかった。歌と演技で引っ張る質実剛健な月城さんと海乃さんとのトップコンビ、所作の美しさが際立っている鳳月さんなど職人芸が見どころ。
万華鏡百景色はテーマの見せ方が上手で、その名の通り華やかなショーだった。冒頭のつかみと、地獄変のシーンが特に印象的。

以下ネタバレ注意

“フリューゲル / 万華鏡百景色 ―コンパクトなまとめ方が光る作品―” の続きを読む

愛するには短すぎる / ジュエル・ド・パリ!! ―自然で型を感じない芝居―

概要


「愛するには短すぎる」は小林公平氏原案、正塚晴彦先生脚本・演出の作品。ニューヨークへ向かう豪華客船での四日間を描いた作品。人間模様や宝石強盗事件など、複数の物語が展開されていく。
「ジュエル・ド・パリ!!」は藤井大介先生作・演出の作品。その名の通りパリと宝石をモチーフとしたショー作品。前回の大劇場公演でのショー作品を、全国ツアーに合わせて変更したショーとなっている。

感想のまとめ


「愛するには短すぎる」は自然で宝塚らしい型を感じさせない作品だった。物語を展開する前半にコメディを多く含み、物語をたたむ終盤は丁寧に描いている。そのおかげで前半は飽きにくく、後半は良い作品を観たという感覚を得やすい作品に感じられた。彩風さんと夢白さん、朝美さんの相性の良さを改めて感じさせる作品だった。

以下ネタバレ注意

“愛するには短すぎる / ジュエル・ド・パリ!! ―自然で型を感じない芝居―” の続きを読む

1789―バスティーユの恋人たち―
―星組の充実ぶりが凄まじい―

概要


1789―バスティーユの恋人たち―はドーヴ・アチアとアルベール・コーエンによるミュージカル作品で、小池修一郎先生の演出・脚本。フランス革命直前のパリを舞台とした作品で、革命側と宮廷側との視点を織り交ぜながら描いた公演。

感想のまとめ


歌を楽しみたいなら必見の公演で、どの歌唱シーンも素晴らしかった。群像劇として楽しめる作品で、史実を覚えていても、あるいは忘れていても楽しめる作品に感じられた。舞台の上下・客席を利用した演出も効果的で、特に客席を利用した演出が印象的だった。
普通の一市民が革命に投じていく姿を自然に演じた礼さんのロナン、妖しく不敵で傲慢な姿で存在感を見せつけた瀬央さんのアルトワ、有終の美を飾るに相応しい有沙さんのマリー・アントワネット、抜群のカリスマ性と随所で見せる鋭い目つきが印象的な極美さんのロベスピエール、よく見ていると理知的な姿が見えてくる天華さんのダントンが特にお気に入り。

以下ネタバレ注意

感想


【全般】

  • 歌が素晴らしい
    礼さんや瀬央さん、暁さん、天華さん、有沙さん、小桜さんと抜群の歌唱力を誇る面々に加え、舞空さんと極美さんもきっちりと仕上げている。コーラスも大迫力で、歌を楽しみたいならば必見の公演。

  • 星組の充実ぶりを象徴する作品
    改めて星組の充実ぶりを目の当たりにした作品だった。歌も演技も抜群の安定感で、間違いなく礼さん・舞空さんのコンビ体制を代表する作品の一角となるだろう。この公演で瀬央さんが専科へ組替え、有沙さんが退団となることもあり、新たな体制へと移行する前の思い出として最高の作品だった。

  • 貴族と平民との二陣営が描かれた群像劇
    貴族側と平民側との両面から描かれているので、群像劇として楽しむことができる。ロナン・ソレーヌとデムーラン・ロベスピエール・ダントンとの対比によって第三身分内での違いも描きつつ、オランプを交えながら宮廷内の様子も描かれているので、全容を把握しやすい作品になっている。

  • 史実を覚えていても、忘れていても楽しめる作品
    群像劇として丁寧に描かれているので、フランス革命の内容を忘れていても楽しめる作品になっている。一方でバスティーユ襲撃後のフランス人権宣言までを描いた作品なので、史実を覚えているとその後の結末に思いを馳せる事ができる。

  • 切り抜き方が絶妙
    フランス革命の序盤で結末を迎えるが、絶妙な範囲を切り抜いている。これにより粛清による昏い未来ではなく、平等を掲げた明るい未来を思わせる結末となっている。フランス人権宣言の対象が狭い点が巧みにぼかされている。本来は女権宣言まで含んだほうが良いかもしれないが、時系列が飛ぶことによる混乱を避けたのだろう。

  • 舞台を巧みに活かした演出
    舞台の上下・奥行きを活かした演出が見事。身分の違いを舞台の上下方向で強調する演出も良かったが、客席から市民が飛び出していく演出が秀逸。観客側の視点から革命が進んでいくかのような演出で、特に印象的だった。

【個別】

  • ロナン (礼さん)
    いつもながら歌も演技も素晴らしかったが、今作は特に演技が素晴らしかった。特別ではない一人の青年が、一市民として革命に身を投じていく流れがとても自然で印象的だった。架空の人物なので歴史への影響は大きくないが、特別ではないからこそ悩み苦しみ、その中で自分の答えを見つけていく生き様は見事な主役ぶりだった。どこまでも伸びていく柔らかくも力強い歌声も素晴らしく、どの楽曲も非常に良かった。

  • オランプ (舞空さん)
    個人的には姫系の役者だと思うが、ブレない信念を持った姿が印象的で素敵だった。マリー・アントワネットとの会話シーンが印象的で、王妃の前でもブレない姿にオランプという人間の信念を感じた。

  • アルトワ (瀬央さん)
    振り返ってみると俗物で小者だが、それを全く感じさせない貫禄が見事だった。不敵で傲慢な態度が印象的で、妖しい色気がとても素敵だった。特にルイ16世を唆すシーンでの、国王のプライドを揺さぶるような声色がとても良かった。歌唱シーンも素晴らしく、妖しさと悪役ぶりを全面に押し出した活躍ぶりがとても素晴らしかった。良い人から悪役まで変幻自在なので、今後の専科としての出演がとても楽しみになる公演だった。

  • デムーラン (暁さん)
    歌・ダンス・演技どれも素敵で安定感があった。ロベスピエールやダントンと比べてアクがないからこその、親しみやすいリーダー像を感じた。歌声の力強さが特に素晴らしく、今回の革命家トリオだと中心人物がデムーランなのも納得の貫禄だった。

  • ロベスピエール (極美さん)
    登場時から目を引く華のある立ち姿を活かしたカリスマ性溢れるロベスピエールで素敵だった。歌がとても上手くなっていて、特に序盤のロナンとデムーランと歌うシーンでの堂々たる姿が素晴らしかった。随所で見せる、鋭い目つきで佇む姿も印象的で、後の恐怖政治を予感させる孤高さが見え隠れする役作りも素敵だった。

  • ダントン (天華さん)
    革命家トリオの明るいムードメーカー。基本的には熱い男で軽いタイプだが、随所に見られる理知的な姿がとても格好良くて素敵だった。さり気なく周囲を俯瞰している姿や、ショックを受けてもすぐに表情を切り替えて周りを鼓舞する姿などを見ていると、周囲の期待を理解してそれに応えているような人物像が見えてきて面白かった。ダンスも格好良く、腰の落とし方やリズムの取り方が力強くて印象的。

  • マリー・アントワネット (有沙さん)
    退団公演として、有終の美を飾るに相応しい素晴らしさだった。歌唱シーンも素晴らしかったが、特に第二幕が素晴らしかった。フランス王妃としての覚悟を決めた後の毅然とした態度が印象的で、第一幕との対比も相まってとても美しかった。

  • ペイロール (輝月さん)
    憎まれ役ぶりが見事だった。貫禄ある立ち姿やロナンをいたぶる時の自然かつ慣れた動作、軍を指揮する時の毅然たる態度と大物ぶりを見事に発揮していた。特に殴る蹴るといった動作がとても自然で巧みの技だった。

  • ネッケル (輝咲さん)
    星組公演で格好良い人がいる!と見ると輝咲さんのパターンが多いので、個人的に好きなのかもしれない。よく通る声と理性的な格好良さが印象的。客観的な事実をもとにルイ16世へ譲歩を迫る諭し方が印象的で、王権神授説と感情で揺さぶるアルトワと好対照になっていて良かった。

  • ルイ16世 (ひろ香さん)
    常に優雅で柔らかい物腰と、国難を前に悩みつつも最適解を出せない苦難ぶりの見せ方が素敵だった。アルトワとネッケルとの会話で揺れ動く表情が印象的で、三人の掛け合いがとても素敵だった。

  • ソレーヌ (小桜さん)
    歌唱シーンで娘役らしくないタイプの力強い歌を見事に歌っていて、癖のある役を見事に演じていた。娼婦に身をやつしても染まり切っていないような演じ方だったからこそ、現状に苦悩している歌唱シーンが印象的だった。

  • ラマール (碧海さん)
    箸休め的なコメディリリーフぶりが巧みで良かった。役職の中で最大限オランプをかばう態度が印象的で、アルトワたちが立ち回りを繰り広げるシーンでも目立たないようにしながらオランプを助けようとするシーンが絶妙な塩梅で面白かった。

V-TUNE2―ファンにも初見にもおすすめのコンピレーションアルバム―

前回はVTuber ラティオ・ユィリスさんについての記事を書いた。今回はラティオ・ユィリスさんの参加するコンピレーションCDであるV-TUNE2についての記事を書く。

ラティオ・ユィリスさんの配信をそれなりに見ていたので軽い気持ちで手に取ったが、他のメンバーも含めて満足度の高いアルバムだった。

V-TUNE2

V-TUNE2はアニソンをカバーしたコンピレーションアルバムで、ラティオ・ユィリスさんを含む8名のVTuber/VSingerによるCDである。

余談になるが、私が普段購入するCDや楽曲は例えばアーティストのCDや作品のサウンドトラック、宝塚歌劇団の公演実況CDなどである。一組のアーティストや一つの作品をテーマにしているので、内容は統一感あるものである。

一方、今回購入したのは異なる組織 / 個人8名のメンバーによるコンピレーションアルバム。そのため曲も歌い方もメンバーによってガラッと変化していて、個性の違いを楽しめるタイプのアルバムになっていた。ファンの人はきっと買いだろうし、初見で手にとっても満足できそうなアルバムだった。有名な曲をピックアップしているので、初見でも手に取るハードルは低いのも嬉しいところ。

ラティオ・ユィリスさん参加曲

ラティオ・ユィリスさんのソロ曲はunravel。ウィスパーボイス、がなり、シャウトに裏声を駆使して、高低や強弱を変幻自在に歌い上げていて素晴らしかった。特にサビの盛り上がりとシャウトの格好良さが素敵で、持ち味を存分に活かした曲だった。

ソロ曲では押し出しの強めなラティオ・ユィリスさんだが、コラボ曲だと一味違った印象だった。圧が弱めで意外なほどバランスが良かった。ソロ活動が中心でコラボレーション曲を聞く機会はそれほど多くない印象があるので、ファンの方は買いだろう。

他のメンバーの曲

他のメンバーは初見だったが、想像よりも遥かに上手なメンバーが揃っていた。参加者のファンなら買いだろうし、知らなくても外れはない印象だった。個人的にはFigaloさんとはちやえいとさんとがお気に入り。

Figaloさんはアルバム一曲目から掴みがバッチリになる上手さ。クリアな声質で癖のない正統派な歌い方で、聞いていて心地よいタイプの歌だった。

ChumuNoteさんは母音を少しだけ伸ばしながら跳ねるような歌い終わりが印象的で、疾走感ある歌だった。

稀羽すうさんは息漏れの少なく呟くようなウィスパーボイスから、そのままサビへ繋がっていくシームレスさが印象的だった。

桃園りえるさんは記憶に残りやすい個性的な声だと思って聞き始めたら、そのまま低音から高音まで全くブレない安定感が印象的だった。声質の安定感がピカイチだった。

空閑環さんは宇多田ヒカルの雰囲気を残しつつ、原曲よりも少しだけ柔らかい歌い方が心地よかった。

わたあめさんは (おそらく) 参加者で唯一の男性で、清涼感ある爽やかな歌い方が印象的。圧がなくて柔らかいタイプの歌い方で、女性メンバーの多いコラボ曲でもすっと溶け込む自然さも良かった。

はちやえいとさんは最近デビューした (らしい) 人だが、癖のある曲を原曲に寄せつつ見事に歌っていた。