概要
人が人を殺しすぎると「玄冬 (くろと)」が生まれ、世界は雪に覆われて滅んでしまう。滅びを回避して再び春を迎えるために、救世主が玄冬を倒さなければならない。そんなおとぎ話が伝わる世界を舞台に、記憶をなくした青年・玄冬と旅の同行者を名乗る少年・花白 (はなしろ) を中心に描かれる物語。
HaccaWorksの初作品でPC版に始まりPS2、PSP (PlayStation Store) へ移植された人気作品。PC版はWindows10でも動作可能 (2018年12月確認)。
感想のまとめ
一つの世界をこれほどまでに描いてくれる作品に出会うことはもうないと思える、私にとっての最高傑作。世界観・キャラの心情を完璧に描ききったシナリオ、すべての結末で完成度が凄まじいEnd、世界観とキャラを余すところなく描いたからこそ感動できるGood End、完璧なBGMを誇る傑作。
作品との出会い
Vectorゲームで乙女ゲーを探しているときに見つけた体験版 (リンク) に一目惚れ。PS2、PC、Plus Disc、ドラマCDにのめり込んで早幾年。
10年以上経った今でも、私にとっての最高傑作。
良かった点
【シナリオ・システム】
- 繊細かつ完成された世界観・シナリオ
人が人を殺しすぎると「玄冬」が生まれ、世界は滅びてしまう。
それを回避するためには、救世主が玄冬を倒さなければならない。
このテーマで描かれる物語は繊細で、いつまでも浸りたくなる世界観。
この世界観で、物語を完璧に描ききってくれたことに感謝したくなる。 - テーマに対する答えが素晴らしい
上でも書いたテーマの描き方は完璧としか言いようがない。
全14種もの結末はどれも美しい終わり方で、すべてがテーマに対して違った答えを見せてくれる。作品のテーマを真摯にそして美しく描いてくれるシナリオが本当に素晴らしい。 - 全てのEndにおける完成度の高さ
全てのEndが刺さり得る、凄まじいとしか言えないEndの完成度。
全14種のEndがあり、この世界観を心ゆくまで堪能できる。
最初に見たBAD系のEndは、あまりの完成度にTRUEかと思ったほど。
プレイすればGood End以外にも心に残るEndが多数あるはず。
お気に入りは後述のED1、4、6、7、10。 - ちょうどよい長さのシナリオ
スキップなしでも2~3時間程度で各Endに到達できるボリューム。
あのEnd見たいな、と思ったときに再プレイしやすいボリューム。
各ルートのボリュームが少ないからといって、決して薄くはない。
各Endを使って世界観を描いたからこその、ボリューム以上の満足感。
- 会話文だけで描かれる物語
地の文を使わないで会話だけで進む、戯曲のようなスタイル。
キャラの心情を追いやすく、世界観にのめり込みやすい。
地の文はないが、会話や背景から情景は補完できるので安心。
【キャラクター】
- 登場人物の心情描写が秀逸
登場人物を絞ったことで、キャラの心情を完璧に描いてくれている。
堂々巡りも多いが、それが心情描写に一役買っている。
全てのEndで完成度が高いこともあり、プレイしていく中でキャラの心情を理解していき、全Endを通じて彼らの生き方に感動する。そして彼らの想いを知った上で再プレイすると、前より深く感動することができる。
【音楽】
- 見ただけで買いたくなるOP
今見ると技術的に凄くはないが、歌と完璧に調和したOPは凄まじい。
プレイしなくても一見の価値あり。
【絵】
- 終わる頃には癖になる絵
上手くはないが、終わる頃にはこの絵じゃないと駄目だ、思える絵。
繊細な世界観とものすごく調和した絵だと思う。
その他好きなシーンやキャラクター、テーマの描き方について語り出すと止まれないので、また別の機会に。
人を選ぶ点
特徴の裏返しとも言えるが、人を選ぶ作品ではあると思う。
【シナリオ・システム】
- 重いシナリオ
テーマがテーマなので、シナリオが重い。
明るくみんなで大団円を望む人とは相性が悪い。
【絵】
- 癖の強い絵
作風とは合っているが、「絵こそ命」という人とも相性が悪いかも。
以下各Endの感想。ネタバレ注意。
各Endの感想
- ED 1: 花に捧ぐ
主の作った箱庭が玄冬システムから解放され、自分たちで歩むようになるEnd。
全員が最善を尽くしたEndで、まさに花帰葬の集大成といえるGood End。
他の13個のEndを見ると感動も更に深くなる。何度プレイしても色褪せることのない感動のEnd。
玄冬と花白がともに生きる未来を掴み、二人で春を迎えるという結末は涙なしには見られない。
花白の「生まれたことに感謝だってできる」という言葉がすごく好きで、ずっと救世主であることを呪ってきた彼が、最後の最後にこの言葉を口にできた結末は本当に尊いと思う。
玄冬と花白が玄冬システムから解放されるために、育ての親である鳥を消すことになるという仕組みは辛いけど凄く好き。二組がぜんぜん違う構図で別れるのがたまらなく好き。今まで執着が多くて決断できなかったが、玄冬のために消滅することを選んだ黒鷹。最後まで箱庭の存続を願い、これ以上従えないと花白に殺された白梟。過程は違うけれど、どちらも笑顔で最後を迎えた事実が凄く好き。
花白が白梟への想いと自分の名前の由来を語る最後のシーンも凄く良い。白梟が花白を大切に思っていたことがはっきりとわかるこのシーンが凄く好き。花白も白梟を好きだったからこそ、玄冬を殺せという白梟を殺すしか無かったと思うと、上手くは行かなかったけれど二人の絆を感じられて凄く良い。
Endingも本当に素晴らしくて、Se l’aura spiraが凄く良い。どの曲も場面に合った名曲揃いなのに、最後にこの曲を持ってこれるのだから、本当に音楽も優秀な作品だと思う。 - ED 2: 銀の螺旋
花白が救世主の役目を果たした (であろう) End。
玄冬の記憶は戻らなかったが、玄冬は満足して逝けたと思う。
燃え盛る炎の中での告白はすごく好きなシーン。花白の「本当に君のことが好きだった」に、玄冬が「わかってる」って返しが最高に好き。
玄冬がいればそれで良い花白と、また花白に会いたい玄冬。この結末になるのは本当に悲しいけど綺麗な終わり方だと思う。 - ED 3: 春告げの鳥
世界を続けるために、玄冬が生まれる度に救世主に殺されるEnd。
涙腺を完璧に破壊してくるシナリオで、涙が止まらなくなる。玄冬が黒鷹に頼んだこの約束は、もはや呪いとしか思えない。
玄冬が生まれる度に愛して育て、世界のリミットを迎えたら救世主に殺させる。その約束を違えない黒鷹も、城に幽閉されて外の世界も知らない未来の玄冬も悲しいし、それでも二人の間に確かな絆があることに泣けてくる。
未来の玄冬が、狂い咲きの桜を黒鷹に渡して欲しいと最後の願いを口にするところは、読んでいて辛くなる。玄冬が死ぬと春を迎えて、満開に咲き誇る花なのがまた悲しい。
白梟の「世界に平和が訪れたのです」がこんなに虚しく響く世界はやるせないし、白梟ですら玄冬を哀れに思うのだから本当に救われない。
未来の玄冬が幼いうちに処刑されたことを鑑みると、人が人を殺すペースは以前より早くなっていそうで、白梟の努力も実っていないことがまたやるせない。 - ED 4: 無為の咎人
何もわからず、何もしないまま世界が雪に覆われて滅びを迎えるEnd。
初プレイでのEnd。美しい終わり方と余韻が素晴らしい。
世界が雪に覆われて滅びを迎える中、花白の温もりを感じつつ、穏やかな気持ちで終末を迎える。TRUEではないかと思うぐらい美しい。
世界が雪に覆われて滅んでいく冷たさを感じつつ、互いの温もりを感じながら終りを迎えていく構図がすごく好きで、こんなに美しい結末をGood End以外で持ってこれるHaccaWorksを凄いと思う。 - ED 5: 羊水のひかり
多分誰もが認めるであろうBAD End。
何もわからない初回では白梟に恐怖したけれど、再プレイでは白梟が不憫に思えてしまう悲しいEnd。白梟は主が箱庭を去った理由も、戻らないであろうことも理解していても、箱庭を去ることはできない。そんな中、玄冬の中に主の名残を見つけたら、これは不可避だと思う。
恐らくこのEndの後で箱庭は滅び、白梟は全てを失ってしまうことが予想できるだけに、やるせない。 - ED 6: 白花埋葬
玄冬システムを、玄冬と花白が否定するEnd。
システムを否定した先に待っているのは、世界が雪に覆われても、一人で玄冬が生きていくという残酷すぎる結末。残酷すぎる結末だけれど、システムを否定するという、二人が選びそうな結末を入れてくれるところがHaccaWorksの凄さだと思う。 - ED 7: 約束
花白が救世主としての役目を果たすEnd。個人的にはBAD End。
玄冬との悲しい約束と、白梟の無自覚な残酷さが好き。
玄冬本人に二人の関係を否定され、それでもまた玄冬に巡り会えることを期待して、「また会おうね」で締めくくる花白はすごく不憫。
白梟が花白に「次から」の貴方にはこんな思いをさせない、というのがまた残酷で救われない。白梟にとっては次の救世主はいるけれど、花白にとっては今しかないという違いがもう…。 - ED 8: てのひらの先に
玄冬が箱庭から永久に去り、黒鷹と箱庭を見守り続けるEnd。
初回では箱庭を去っても見守り続ける玄冬を見て、どれだけ彼はこの世界を愛しているのだろうかと思って涙が出た。
再プレイでは、この結末を玄冬に選ばせた黒鷹を思って泣いた。執着が多すぎて、選べなかった黒鷹の生き方が詰まっていると思う。
黒鷹が消滅すれば玄冬システムが停止して、玄冬は自由の身になる。黒鷹はそれを言い出せず、玄冬が箱庭で生きる権利を奪ってしまった。そのことに罪悪感を抱えつつも、それでも玄冬と一緒に入られることに幸せを感じてしまう黒鷹が凄く好き。
白梟も死んでしまい、黒鷹にとって玄冬は全てといえる状態で、玄冬も黒鷹に救われたと言ってくれた。それだけで凄く救われたし、とても綺麗なEndだと思う。
- ED 9: 勝者の烙印
玄冬が世界を滅ぼす前に、自らの手で世界を滅ぼそうとする花白を銀朱が止めるEnd。
「玄冬を殺せ」ではなく、民を見捨てないでくれって言い方ができるのが銀朱の良いところ。花白が何をさせられてきたかをよく知っている銀朱は、花白に対して強く言わないし、頼むことしか出来ないというのが彼の性格の良さ。
初代救世主の血筋を誇りとし、かつては玄冬を倒すことに憧れた銀朱が、玄冬ではなく救世主を殺す皮肉が凄く好き。 - ED 10: 赦しの墓標
玄冬システムから解き放たれて、1回きりの人生になった矢先に花白が死んでしまうEnd。
これがあってこその「花に捧ぐ」で、花帰葬を象徴するEndだと思う。結末は悲劇だけど、互いの思いを理解できた主観は尊くて大好き。今まで玄冬が死ぬか否かでずっと平行線を歩んできた二人にとって、花白が死を迎えたことで逆の立場となり、互いの想いを知るという構図は美しさすら感じるし、作品のテーマ的にも素晴らしいEndだと思う。 - ED 11: ゆきの灯り
黒鷹と滅びゆく世界を旅していくEnd。
旅の相手が違うという点では「最果ての街」と対になるEndかも。
黒鷹からしたら、玄冬が自分の存在を否定し続けるのは辛いだろう。流されて逃げる形でも、玄冬が黒鷹を選んでくれてよかったと思う。きっと楽しい旅になるだろうし、旅の中で玄冬も自分が望むよう生きられるようになるだろうな、と思わせる黒鷹の愛を感じるEnd。 - ED 12: 最果ての街
花白が玄冬よりも世界を選べるようにするために、二人で旅に出るEnd。
二人で終わらない旅をするってすごく爽やかなEndだと思う二人で旅をして、人の良い所も悪い所もたくさん見て、最後に決断する。世界を知った花白が、それでも世界よりも玄冬を選べたならば、そんな終わり方は悪くないと思う。 - ED 13: a vicious circle
文字通りのいたちごっこEnd。
途中で切られているけれど、まずこのまま世界は滅ぶだろう。殺される側の玄冬が殺す側の花白を説得できるかに、人類の存亡がかかっている皮肉な構図。 - ED 14: やさしい君へ
玄冬を殺さないで済むように、花白が死を選ぶEnd。
花白らしさがたっぷり詰まったEnd。玄冬を殺さないという意思を誰にも (訝しんでいた銀朱は例外) 信じてもらえず、玄冬にも受け入れてもらえず、それでも玄冬を殺さないために死を選んだ花白の信念が凄く好き。雪が主要なテーマである花帰葬で、燃え盛る炎で終わるというのもまた好き。