古色迷宮輪舞曲 感想
―シナリオとギミックが完璧なノベルゲーム―

概要


紅茶専門店「童話の森」でアルバイトをすることになった名波 行人 (ななみゆきと) 。アルバイト初日に店へ届いた不審な木箱を開けると、メルヘンな服に身を包んだサキという少女が現れる。サキは行人に、運命の輪が狂っていると告げる。運命の輪が狂ったままだと行人は一週間後に死ぬことになり、周囲の人物にも不幸が訪れるという。行人は半信半疑ながらも、運命の輪をもとに戻そうと奔走する。
Yatagarasuの18禁ノベルゲームで、ジャンルは「運命操作アドベンチャー」。プレイヤーが適した場面でキーワードを投げかけることで、物語を変化させていく独特のシステムが特徴。

感想のまとめ


ノベルゲーでしか出来ないギミックを活かした、非常に高い完成度のシナリオが素晴らしい作品。いくつもの結末を見た後にたどり着くGood Endは非常に感動的。ギミックをうまく使って描かれたテーマの描き方も完璧。 エロゲでこれほど素晴らしい作品に出会う機会はもうないかもしれないが、この作品に出会えて本当に良かったと思える。

良かった点


【シナリオ・システム】

  • ゲームシステム、フローチャート、シナリオの融合
    キーワードによって物語が変化し、点と点を結ぶように全容が明らかになる物語。ノベルゲーにしかできない、物語のIFを何パターンも体験できるシステムがとても良い。何パターンもの物語を見て、物語を理解していく作りが素晴らしい。

  • Good Endの素晴らしさ
    物語を読み進め、運命を操作してたどり着くGood End。それまでの物語の重さもあり、このゲームをプレイすることが出来て良かったと感動した。

  • テーマに対する答えが心に響く
    狂った運命の輪を戻すために、キーワードを投げかけて運命を変えていく。この「狂った運命の輪を戻す」というテーマに対して、最後に得られた答えが本当に素晴らしい。

  • 予想を遥かに超えていく物語
    キーワードによって物語を変化させていくことで、物語は予想と異なる方向へ変化してく。予想もしなかった展開へ進んでしまう物語を前に、この先どうなってしまうのだろうか、と思いながら読み進める感覚がとても良い。

  • 随所に張り巡らされた伏線
    何気ない日常シーンにも伏線が多く存在する。気づかなくても楽しめるし、気づけば後でそういうことかと納得する。日常シーンも飽きさせない良いシナリオ。

  • 作品の雰囲気
    狂った運命の輪を戻すというテーマなので、死の香りがそこはかとなく漂う。文章、音楽の両方で作られるこの独特の雰囲気が非常に良い。

  • 各章のタイトル
    フローをよく見ることになるため、各章のタイトルを見直すことが多い。ふと見たときにクスッと笑えるタイトルやなるほどと思うようなタイトルが多く、タイトル情報も楽しめる。

  • 紅茶の豆知識が豊富
    紅茶専門店を舞台にしているので、紅茶の入れ方など豆知識が豊富。プレイしていると紅茶を飲みたくなる作品。

【キャラクター】

  • 魅力的なキャラクター
    読み進めていく中キャラクターの魅力がどんどん増してくる。クリアする頃には幸せになってほしいと思える良いキャラクターたちだと思う。

  • 可愛い店長
    童話の森の店長・古宮舞 (まい) が本当に可愛い。重いシナリオの中で、彼女の存在が救いだった。

【絵】

  • 所々で印象的なイラスト
    イラストが売りの作品とは思わないが、所々で印象的でイラストがあるのが良い。サキの服のデザインや、ゾッとするシーンのイラストが特に好き。

【音楽】

  • 聞き心地の良い音楽
    落ち着いているけれどどこか寂しい音楽が多く、聞いていて心地よい。何回も耳にする音楽も多いが、物語の雰囲気と凄く合っていると思う。

人を選ぶ点


【シナリオ・システム】

  • キーワードがわかりにくい
    キーワードは名詞の割合が高く、ピンとこないものも多かった。キーワードをぼかした例だと、パスタを食べる場面で「パスタ」を選ぶ必要があり、「食べる」がキーワードにないことがある。難しくはないが、若干のやりにくさを感じる。

  • ノベルゲームに慣れていないと大変かも
    システムが独特なので、ノベルゲームというシステム自体に慣れていないと二重の苦しみを背負うリスクがある。何作かノベルゲーをプレイした後がオススメ。

  • 独自性や目新しさを重視する人とは相性が悪いかも
    最大の強みはシステム・シナリオ全体の完成度なので、システムの独自性や目新しさを重視する人とは相性が悪いかもしれない。他でも存在するシステムもあるようだが、それらをうまく昇華させたのがこの作品の売りだと思う。

【キャラクター】

  • 共感することが難しそうなキャラクター
    これは好みの問題。私は共感できることを重視せず、理解できるかが重要というスタンス。ただキャラクターに共感してなんぼという人とは相性が悪いと思う。良くも悪くも極端な思考のキャラクターが多く、どれだけ心情を描写されても理解はできても共感はできないかもしれない。

【絵】

  • 絵が不安定
    複数担当なのか絵がかなり不安定。絵が命という人にはネックかも知れない。

以下はネタバレを含むので注意

感想


【システム・シナリオ】

  • Good Endの素晴らしさ
    Bad Endで様々な悲劇を見て、その果てにこの幸せにたどり着けたと思うと本当に感慨深い。幾重もの結末を見たこのゲームだからこその、感動できる結末だと思う。たった一度しか見られない「運命の輪V」であの瞬間にたどり着けたサキと行人のシーンは、見返せないのが勿体無いほどの名シーンだった。

  • Bad Endが秀逸
    運命を変えられるという希望が、どうしようもないという絶望へ変わっていく流れがとても良い。すべてを犠牲にしてでもサキを取り戻そうと運命を廻り続け、辿り着いた「ロストIII」で本当にどうしようもなくなってしまう展開がとても良い。この救いの無さとやるせなさ、辿り着いてはいけない所へ辿り着いてしまった感覚を味わえて本当に良かった。このEndがあるからこそ、Good Endが煌めいていると思う。

  • テーマに対する答えが非常に良い
    終盤にサキが消えるまでのシナリオと、そこで得られるテーマに対する答えは完璧としか言いようがない。サキが咲へクオリアを託して消滅するが、サキのクオリアは咲の中に残る。サキがサキであった証は確かに残り、託された咲は自分で生きるという運命を選ぶ。運命を変えていった物語の果てに、クオリアを託す。物語のテーマにふさわしい、これ以上ないほどの完璧なシナリオだと思う。

  • これしかないというキャラEndの発生条件
    このゲームで1、2を争うぐらい好きなポイント。運命の輪を元に戻したことで初めて、和奏や一葉のEndが生まれるシステムがとても良い。他のEndを挟む余地のなかった完璧なシナリオを損なわず、他のキャラEndも入れる。個別エンドを軽視せず、これしかないという形で加える完璧なシステムだと思う。

  • プレイヤーを物語に介入させるシステム
    プレイヤーに何度も運命を変えさせた上で、プレイヤーを外部の人間として巻き込む設定はとても良かったと思う。完璧に詰んだあのタイミングで初めてプレイヤーを巻き込む演出はとても好き。

  • 途中で行人に声がつく演出
    こういう作品はプレイしたことはないが、行人に声がついた瞬間その意図は正直丸わかりだった。ベタでお約束かもしれないが、それでもお約束を踏襲するために大事な演出だったのかなと思う。

  • 何処か懐かしいおまけの「古宮迷宮輪舞曲」
    今となってはどことなく懐かしさすら感じる、舞とお話するおまけモード。何気ない会話から、物語のその後を知ることができる演出が凄く好き。

【キャラクター】

  • 名波行人
    共感はしないけれどすごく好きな主人公。帽子屋として外道な行為へ突き進んでいくのが恐ろしくもあり凄く好き。一葉の死を目撃し、致命傷を負った和奏へトドメを刺す。これによって彼の中の何かが壊れてしまう演出もすごく好きだし、彼の性格も災いして突き進むしかなくなる流れが本当に恐ろしい。
    後半は物語の主人公として駆け抜けてくれるのがまた格好良くて、本当に良いキャラだったと思う。

  • サキ
    メルヘンを全身で体現しているのが凄く好き。素直ではないけれど物語が進むにつれて魅力が増して、最初に消えてしまうシーンの頃には行人の決意も納得できる、本当に素晴らしいキャラだった。もう一度出会うシーンも凄く良かった。最後に行人と消えていくシーンでみせた、あの一瞬の幸せが本当に素敵だった。

  • 名波咲
    サキが魅力的であればあるほど逆に咲は印象が悪くなりがちだけど、性格の違いが絶妙で凄く可愛いヒロインだと思う。行人がサキと咲のどちらを取るかで葛藤するのにふさわしい、とても良いキャラ。最後に紅茶を飲んだときに一瞬だけ見せる、サキの面影が見える表情がすごく好き。

  • 相葉和奏
    悲惨な死を担当することが多かった子。健気で行人のことを大切に思っているのが伝わってくる感じが凄く好き。刺殺、転落死、射殺と死んでしまうシーンが印象的だったので、最後に幸せそうな笑顔で終わるEndがあって本当に良かった。帽子屋としての行人に恐ろしさを感じたのは、和奏のキャラが凄く良かったからという点が大きいと思う。

  • 桐原一葉
    序盤は明るく、後半は一途な子。始まりから作為的な恋だったけれど恋の終わらせ方もすごく好きだし、約束を思い出した後の一葉も凄く魅力的だったと思う。一葉Endを見ると、改めて笑顔の似合う子だったなぁ、としみじみ思う。

  • 姫野美月/美星
    とんでもなかった二人。美月は終盤までプレイヤーのヘイトを一身に背負う悪役だったが、最後に印象が大きく変わった。三月ウサギの行動は常軌を逸していたけれど、美月は影の主人公として、美星は影のヒロインとして、最後にあの結末にたどり着けて良かったという気持ちになる。

  • 古宮舞
    序盤は数少ない癒しになる可愛い店長さん、途中からは最重要人物。何かしらの役割はあるだろうと思ったら、想像以上に重い役割だった。物語的にもプレイヤーのメンタル的にも最重要なキャラだったと思う。個人的には美月にイジられているときが一番好き。