概要
「黒い瞳」は柴田侑宏先生が脚本で、謝珠栄先生の演出・振り付けによる作品。ロシアの詩人であるプーシキンの「大尉の娘」をモチーフにした作品で、ロシアで起こったプガチョフの乱をテーマにした作品である。
「VIVA! FESTA! in HAKATA」は中村暁先生の作・演出によるショー作品。世界の祭りをテーマにした作品で、2017年に上演されたショー作品を博多座に合わせてアレンジしたもの。
感想のまとめ
黒い瞳は、名作であるモチーフをうまく舞台に落とし込んだ作品。ニコライとプガチョフとが語り合うソリのシーンや、随所のダンスシーンでの演出が芸術的。真風さんのニコライがはまり役であることに加え、愛月さんの貫禄あるプガチョフが公演の質を跳ね上げている。愛月さんのプガチョフはましくMVPだろう。
VIVA! FESTA! はソーラン節のシーンが最大の見せ場。爽やかかつ格好良いソーラン節は必見。
以下ネタバレ注意
【全般】
- モチーフの良さを活かした作品
冒険譚でもあり恋愛要素も含む名作を、うまく舞台に落とし込んでいる。モチーフである「大尉の娘」のファンも満足行く作品だろう。モチーフから省略したシーンは影響が少ない場所や惨たらしいシーンで、重要なシーンは繊細な演出で丁寧に描写されている。大きな違いは主人公の名前ぐらいだろう。 - 明快で面白いストーリー
モチーフが名作なので、ストーリーも面白い。プガチョフの乱に巻き込まれたニコライの成長と恋愛とを描いたストーリーは、爽快な冒険譚としての面白さが際立っている。そこにプガチョフとの数奇な縁が絡むことで、重さと余韻の良さが増している。 - 会心の演出
舞台機構が少ないことを全く感じさせない演出も素晴らしい。ニコライとプガチョフとがソリで語らうシーンの視覚的・聴覚的な美しさは秀逸。降り積もる雪の音とソリが駆けていく音の両方をタンバリンで演出し、白熱していく二人の対話に引き込ませていく演出は神懸かり的。 - ダンスが凄い
ハードなダンスを華麗に踊るので、大劇場公演にも引きを取らない見ごたえになっている。コサックの力強いダンスと、吹雪のシーンでの柔らかいダンスの対比も印象的。 - はまり役揃いの配役
再演とは思えないほどのはまり役ぶり。世間知らずな貴族だが実直で物語を通じて成長してくニコライ、貫禄溢れる男でありニコライと奇妙な交流を深めていくプガチョフ、皮肉屋で憎まれ役のシヴァーブリン、ニコライを常に案じるサヴェーリィチは完璧な配役。愛・勇気・祈りの語り部 (和希さん、秋音さん、優希さん) も、滑舌に優れたメンバーで聞きやすいのが良かった。 - おしゃれなソーラン節
VIVA! FESTA!ではソーラン節が印象的。歌謡ショーのような歌い方をする真風さんとの相性がバッチリ。泥臭さがなく爽やかな格好良さに満ちている点も面白いところ。
【個別】
- ニコライ (真風さん)
人を選ぶ役柄だが、イメージ通りで素晴らしかった。世間知らずな貴族のお坊っちゃまぶりを感じさせる態度や声色が、物語を通じて成長するに連れて立派な青年のそれに変わっていくのは見事。ビジュアル面でも軍服姿がとても映えていて、まさに冒険譚の主人公を飾るにふさわしい人物だった。 - マーシャ (星風さん)
登場シーンの可愛らしさと、随所でのダンスシーンの軽やかさが印象的。若さと純真さが強いタイプの演じ方で、畏れと決意の入り混じった女帝との謁見シーンよりも、自然体でいられるニコライとのシーンのほうが得意で合っているようだった。 - プガチョフ (愛月さん)
本公演のMVPだろう。プガチョフとしての貫禄が凄まじく、真風さんのニコライと相対することができるのはこの人だけだろう。髭の似合い方も素晴らしく、貫禄あるプガチョフぶりに拍車がかかっていた。演技も素晴らしく、ニコライの優しさに心打たれたときの表情や、ソリでニコライと語らう際の終わりを予感しながらも進み続ける決意を感じさせる表情がとても印象的だった。 - サヴェーリィチ (寿さん)
空気を壊さないコミカルさが絶妙。コミカルさの影に隠れているが歌もダンスも上手で、コミカルな老人のまま歌うシーンが印象的。 - シヴァーブリン (桜木さん)
登場してすぐに嫌な奴だと感じさせる、佇まいや表情の作り込みが素敵だった。ショーでの笑顔からは全くそんな印象を受けないので、シヴァーブリンとしての作り込みが巧みなのだろう。登場シーンでの小芝居が多くて情報量が多いので、見れば見るほどシヴァーブリンの解像度が上がるところも素晴らしかった。 - エカテリーナII世 (純矢さん)
冷徹さと迫力が強烈で、プガチョフたちへの敵意と女帝としての貫禄が素晴らしかった。衣装も映えていて、落ち着いた所作からの鋭い目つきと冷たい言葉が素敵だった。 - ミロノフ大尉 / レインスドルプ将軍 (松風さん)
軍人の一人二役だが、親しみを感じさせるミロノフ大尉と宮廷での強かさを感じさせるレインスドルプ将軍との演じ分けが印象的。 - 愛・勇気・祈り (和希さん、秋音さん、優希さん)
ダンスも歌も良かったが、何より滑舌の良さが際立っていて素晴らしかった。聞き取りやすい台詞で説明してくれるおかげで、背景や状況を理解しやすくなっていた。