劇場版BanG Dream! FILM LIVE感想
―個性豊かなバンドが織りなすライブ映画―

宝塚観劇の際に時間を取れたので、以前視聴したBanG Dream! (以下バンドリ) の劇場版を観てきた。アニメの感想はBanG Dream! (アニメ) に記載。

全編がライブシーンで構成された作品で、映画というよりライブを見に来た気分を味わえる面白い作品だった。作中に登場した5組のバンドが曲とMCを披露していく構成で、作中に登場するバンドの能力が高いからこそできる手法だと思う。本作は声優が演奏もするバンドもあるというのが特徴だが、今回はアニメ映画をとして見た感想を書いてみる。

全体の印象


  • 登場バンドが個性豊か
    アニメでも思っていたけれど、5組のバンドは個性豊か。ポップからクールな感じまで幅広いレパートリーを誇る “Poppin’Party”、ロックバンドに寄った “Afterglow”、格好良い系担当 “Roselia”の3組は正統派のイメージ。見ても聞いても面白い “ハロー、ハッピーワールド!”、アイドル系バンドの “Pastel*Palettes”は少し個性派。いろいろなタイプのバンドが映画に出てくるのはこの作品の強みだと思う。

  • 野外ライブの見せ方が面白い
    今回は野外ライブという設定で、昼間から夕方、夜と時が移ろいながら進行していく。明るく始まっていい感じの余韻で終わるライブと上手く合わせつつ、視覚的にも変化があって素敵な演出だった。観客がバンドに合わせた色のサイリウムを振ったり歓声を上げたりもしているので、ライブ会場にいる感覚も強くなっている。
  • 映像はキャラ重視
    映像はかなりの割合でキャラにズームしていた気がする。キャラの演奏ではなく、演奏するキャラを見やすくしているイメージ。個人的にはもう少し引いた映像の多いほうが好きだけど、コンテンツ的にはこっちのほうが合っている気がする。

  • ライト層にも配慮された作品
    MCでのメンバー紹介があったので、自分のようなライト層、それこそ初見でも楽しめる作品だったと思う。

個別の印象


  • Poppin’Party
    アニメで好きだったバンドの1つ。明るい曲からしんみりする曲まで揃えた豊富なレパートリーを誇り、歌も曲も安定している良いバンド。さすが主人公の所属するバンドという印象。香澄 (Vo.&Gt.) の歌が良くて、バンドらしい曲も良い。他のメンバーの歌も安定していて、特に沙綾 (Dr.) の歌うシーンが良かった。

  • Afterglow
    ロックバンド系の曲を聞いている、という感じが心地よいバンド。ギターがかっこよかった印象で、これがロックバンド感を出しているのかもしれない。蘭 (Vo.&Gt.) の歌い方は大人しめで、もう少し激しいほうが好みかも。

  • Pastel*Palettes
    この映画でかなり好きになったバンド。アイドルバンドらしく可愛い系の歌い方と彩 (Vo.) の振り付けが印象的。彩がよく動き回っていて、あのよくわからないけれどアイドル感を感じる振り付けが好き。カメラワークも良く、3曲目の1, 2, 3, 4のあたりが特に好き。曲も改めて聞くとボーカルと絶妙に合っていて、アニメのバンドらしい感じが心地よかった。

  • ハロー、ハッピーワールド!
    アニメで好きだったバンドの1つ。アニメらしく派手な演出と激しいダンス、聞いていて楽しくなってくるタイプの曲でアニメ映えするバンド。今回もとにかくよく動く。独特の曲と、こころ (Vo.) の歌と動きにグイグイと引き込まれていくので、映画で見られてよかったと思う。3曲目で飛ぶシーンが一番好き。

  • Roselia
    格好良い曲担当というイメージがあるバンド。他のバンドと比べると演奏が大人しめな印象で、格好良いけど少し地味な印象。声優が演奏する前提の曲にしている事が一因かもしれない。最後の曲で青い炎が上がるところなどMusic Video風で好き。友希那 (Vo.) は中低音域のパワフルさが良く、他にはあこ (Dr.) の歌が良かった印象。

BanG Dream! (アニメ)
―声優が演奏もする時代―

演じて歌って演奏する、そんな現在の声優の凄まじいマルチタレントぶりと新しい時代のメディア展開をBang Dream! で今更ながら体感したので、所感を書いてみる。

風邪で寝込んだ時期にYouTubeで期間限定されていた BanG Dream! (以下バンドリ) を視聴。主人公の戸山香澄がメンバーを巻き込んでいく形でガールズバンド Poppin’Party を結成し、成長していくストーリー。

安心感すら感じる普通なストーリーと演出で、作品の売りは各バンドへの曲の割り振りが良いという印象。主人公のバンドには王道な感じの曲、実力派を謳うバンドには格好良い感じの曲、「世界中を笑顔に」を謳うバンドには聞いていて楽しくなる曲が当てられていて、バンドごとの住み分けが上手いと思う。質も良くて、よくこれだけ歌える声優を集めたなぁ、と感心するレベル。普通に上手くて曲もバラエティに富んだ Poppin’Party と、愉快な曲調とアニメらしくぶっ飛んだギミックを活かしたハロー、ハッピーワールド! が見ていた中ではお気に入り。

ここで終われば普通の作品だけれど、作中に登場するバンド (Poppin’Party と Roselia) では、声優が自ら演奏しているということに驚いた。昔の作品では「歌手が声優を兼任」or「歌だけ歌手」という印象で、最近の作品だと「声優が歌う」ケースが多いのは知っていたけれど、「声優が演奏する」パターンの登場に時代の変化を感じた。演じて歌って演奏する。本作の声優のマルチタレントぶりは凄まじいと思う。

「声優が演奏する」ということに関しては、演奏が微妙だと曲目が制限される上にライブシーンが映えない。演奏が上手でもアニメでは誰が演奏しているかは見えず、クロスメディア展開しやすくなるメリットしかなく、声優の負荷は激増する。そんなハイリスクローリターンな勝負に出たブシロードは面白い会社だし、それに応えた声優陣も凄いと思う

アニメで終わらず、アニメと実際のライブを絡めて展開していくプロジェクト。特に Poppin’Party の演奏に、新しい時代のメディア展開手法を見た気がする。声優の負荷は凄まじいだろうが、これだけのバンドを作りあげたこのプロジェクトは大成功だと思う。

バンドリはこの手法が大正解だと思うけれど、個人的にはライブシーンに歌手を使う手法も廃れずに残ってほしいと思う。「歌手が声優をする」だと「満月をさがして」など少女漫画で一時期流行ったイメージ、「歌だけ歌手が担当」だと「Gravitation」や映画のイメージ。特に「Gravitation」は浅倉大介カラー全開で、なぜBLアニメでここまで本気を出したんだろうか、と思うほどに名曲揃い。そんな作品もまた出てきてほしい。

春の雪 (月組) 感想
―不可能への挑戦―

概要


原作はあの三島由紀夫による作品で、「豊饒の海」四部作の第一部。美しい文章・情景を書かせたら右に出る者はいない三島由紀夫が最後に書いた長編小説。生田大和先生が脚本・演出を手掛けた作品。

感想のまとめ


三島由紀夫作品が持つ雰囲気を見事に表現している素晴らしい作品。清顕を演じる明日海さん、聡子を演じる咲妃さん、蓼科を演じる美穂さんを始めイメージ通りの配役で演技派揃い、歌も上手い完璧な配役。清顕と聡子のビジュアルに惚れ惚れするし、蓼科の老獪さ、奔馬を思わせる飯沼の力強さ、本田の実直さなどそれぞれの人物がとても魅力的。脚本も原作の良さが出ている場所が多く、観ていて美しさに感動する素晴らしさ。
ただオリジナル要素は軒並み微妙で、特にがっかりな2箇所さえ無ければ不世出の作品になっていたのに、と歯噛みしたくなる。
まさに清顕という美しさで作品に引き込むような清顕を演じた明日海さん (青年期) と海乃さん (少年期)、その美しい清顕と並ぶ美しさと素敵な歌声で聡子を演じた咲妃さん、美しい歌声と作品のクオリティを上げる演技力で蓼科を演じた美穂さんが一押し。

観劇日


2019/08/31 (ブルーレイ)

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―不可能への挑戦―” の
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シジミ少年の秀逸な死
―「死ぬなら今日、ということか。」―

概要


「Nightmare Syndrome」 (以下NS) の作品で、臨死体験ADV。
自動車が現れ始め、土葬から火葬へ移りつつある時代の田舎を舞台とした作品。
主人公・しじみの通う学級では、「死にたいから死にます。許してください。許さないで下さい。」と書き残し突然自殺した生徒をきっかけに、同級生たち、さらには先生まで自殺してしまう。死が伝染してしまったこの学級は、明日から学級閉鎖することが決められた。「死ぬなら今日、ということか。」そんなことを呟く親友・団八たちと過ごす、学級閉鎖前の最後の一日を描いた作品。

感想のまとめ


人を選ぶ作品の極致。作品に漂う死の香りに魅入られると抜けられなくなる雰囲気が素晴らしく、10年以上経った今でも抜け出せない魅力がある。
救い、憧れ、恐怖など様々な側面を持ち、常に傍らにあるけれど隔たりがあり、どこか冷たい死のイメージが絶妙。
団八ルートでの会話シーンからクライマックスへ向かう激しい流れは、NS作品でも屈指の素晴らしさ。

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―「死ぬなら今日、ということか。」―” の
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チェ・ゲバラ (月組) 感想
―力強さと完成度の高さが素晴らしい―

概要


キューバ革命の立役者であるエルネスト・ゲバラ、通称チェ・ゲバラの半生を描いた作品。作・演出は原田諒先生で、ゲバラの半生をキューバ革命、フィデル・カストロとの友情などと織り交ぜて描かれた作品。事前知識がなくても理解できるように、丁寧に脚本が描かれている作品。

感想のまとめ


脚本・演出・演技のすべてが凄くて、完成度は今年見た中で一番。ゲバラの理想や信念を描いた泥臭さと重厚さ、そして力強さを描いた脚本、随所で思わず唸りたくなる印象的な演出、ゲバラとフィデルという二人のカリスマに代表される雰囲気の作り込み、ひと目で練度がわかる銃さばきまで素晴らしい演技、そして革命の力強さが表れている歌声で、どこを見ても素晴らしい。
誰もが素晴らしい演技だった中でも、圧倒的なカリスマ性と演技力で作品に重みを持たせるゲバラを演じた轟さん、そのゲバラと対等に並び立つフィデルを演じた風間さん、影の主役とも言えるルイスを軍人らしく、セリフのないシーンでも僅かな仕草で演じた礼華さんが特に印象的。

観劇日


2019/8/13 (梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)
宝塚大劇場、バウホールに続いて、初めての梅田芸術劇場公演も轟さんが主演。

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―力強さと完成度の高さが素晴らしい―” の
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