ポーの一族 (花組) 感想 ―漫画の世界が現実に―

概要


ポーの一族は萩尾望都による漫画作品で、小池修一郎先生による脚本・演出。18世紀から近代までを舞台に、永遠の命を持つ吸血鬼 (バンパネラ) の一族を描いた大人気作品。余談になるが、小池先生はこの作品の文庫版に寄稿していて、縁の深い作品になっている。

感想のまとめ

ポーの一族の実写化としてこれ以上はないだろう、と確信する完璧なキャスティングが光る傑作。漫画の世界から抜け出したかのような明日海さんのエドガーと柚香さんのアラン、圧巻の演技力に裏打ちされた仙名さんのシーラは特筆すべき素晴らしさ。漫画作品も得意とする宝塚の作品群の中でも、間違いなく傑作として挙げられる作品だろう。脚本のまとめ方も素晴らしく、初見でもポーの一族を理解できるであろう脚本になっている。


以下ネタバレ注意

感想

原作は何年か前に読んでいる既読組。

【全般】

  • これ以上ない完璧なキャスティング
    ポーの一族の実写化として、これ以上はないだろうという完璧なキャスティング。漫画の世界から抜け出したかのような明日海さんのエドガーと柚香さんのアラン、圧巻の演技力に裏打ちされた仙名さんのシーラは特筆すべき素晴らしさ。特にカラコンを入れて現れた明日海さんのエドガーは息を呑む美しさ。漫画作品も得意とする宝塚の作品群の中でも、間違いなく傑作として挙げられる作品だろう。

  • 綺麗にまとめられた脚本
    大作に定評のある小池先生が思い入れのある作品を手掛けただけあって、脚本も素晴らしい。原作を2時間の公演にまとめつつ、随所で舞台映えする変更を加えている。特にまとめ方が素晴らしく、初見でもポーの一族を理解できるであろう脚本になっている。

  • 凄まじい演技力
    適材適所のキャスティングに加え、演技力が素晴らしい。特筆すべきは明日海さんのエドガーと仙名さんのシーラ。人間からバンパネラ、それも永遠の少年となったエドガーを演じた明日海さんが見せる、永遠の孤独や諦観が凄まじい。人でもなくバンパネラにもなりきれず、けれど時々見せるバンパネラの表情が最高だった。一方仙名さんのシーラは、幼さ残る女性がバンパネラの女性となり、年月を経て美しい貴婦人となる。誰もが称賛するのも納得の気品あふれる美しい仕草は必見。いつも穏やかさを崩さない彼女がクリフォードを襲う瞬間に見せた表情がまた素晴らしく、彼女もバンパネラであることを示す最高の演技だった。

  • 歌唱が良い
    圧倒的なビジュアルに目を奪われるが、歌唱シーンも素晴らしい。明日海さんと仙名さんのトップコンビの歌唱は抜群の安定感で、一樹さんや和海さんなど歌唱力に秀でた人たちも素晴らしい。エトワールの城妃さんをはじめ、娘役に歌上手さんが多かった印象。

  • 宝塚の世界観との調和が絶妙
    ポーの一族の世界観と宝塚の世界観との調和も素晴らしい。どこか幻想的で豪華絢爛な宝塚の世界観が作品と調和していて、宝塚らしくあればあるほど漫画の世界観と一致するという相乗効果になっていた。

  • 完璧すぎるエドガー故の弊害も
    本来起こり得ない出来事だが、明日海さんのエドガーが完璧すぎるが故の弊害も。エドガーの影が登場するシーンが、学友にしか見えず戸惑った。よく見るとたしかにエドガーの衣装とメイクなのだが、明日海さんのエドガーがあまりにもエドガーすぎて、ギャップが大きくなってしまっていた。

【個別】

  • エドガー (明日海さん)
    まさにエドガー、この人なくしてこの公演はありえない。漫画から飛び出したかのようなビジュアルと、まさにエドガーという演技力はまさに完璧。人でもなくバンパネラとしても孤独を抱える哀愁の見せ方や、アランを狙うバンパネラとしての凄みの見せ方は圧巻。抜群の歌唱力も彼の孤独を引き立てていて素晴らしい。演じ分けも素晴らしく、少年期とアランと出会った当初、アランを連れて永遠の旅に出るシーンで漂う雰囲気が全く異なっているのも必見。明日海さん以外で再演はあり得ないだろうと思うほど完璧だった。

  • シーラ (仙名さん)
    最初はトップ娘役の演じる役ではないと思ったが、仙名さんにかかればトップ娘役にふわしい役になるから驚き。一族に加わる前の少し幼さを残した少女がバンパネラとなり、年月を経て美しい貴婦人に変わる様が素晴らしい。特に所作振る舞いが美しく、誰もが称賛するのも納得の美しさ。常の穏やかさを崩さないシーラだが、クリフォードを襲うときに見せる冷たい表情も最高だった。彼女も紛うことなきバンパネラだ、と思わせる表情が良い。歌唱力も抜群で、すべての音域が得意音域と言わんばかりの歌唱シーンも素晴らしい。本編ではないが、デュエットダンスでのスカートさばきも美しいので必見。

  • アラン (柚香さん)
    明日海さんのエドガーと並んで完璧なビジュアル、この二人がいたからゴーサインが出ただろうと思わせる素晴らしさ。純粋すぎるアランが、ボロボロになっていく家庭の中で見せる悲痛な表情がとても素敵で、繊細な柚香さんの演技がとても光っていた。

  • ポーツネル伯爵 (瀬戸さん)
    髭がとても似合っていて素敵。家族を守るという使命感故か誰よりも周囲を警戒していて、エドガーは反発するが客席には伝わる愛情の見せ方がとても良い。シーラと共に灰になるシーンでの表情が素晴らしかった。

  • 大老ポー (一樹さん)
    キングポーとして威厳あふれる立ち姿、重厚感に溢れた話し方がとても素敵。図抜けて低音の歌唱も素晴らしく、ポーツネル伯爵たちが灰となるシーンの歌唱が特に印象的。

  • 老ハンナ (高翔さん)
    前半の育ての親としての善良さと、エドガーに正体を知られてからの豹変ぶりとの演じ分けがとても素敵。前半の善良さが特に素敵で、打算だけでなく愛情もあったんだろうと確かに思わせる塩梅が良い。

  • クリフォード (鳳月さん)
    どう考えても酷い人だけど、それでもモテるのも納得な色男ぶり。シーラの正体を知ってからの彼が素敵で、人ならざるものを見たが故の必死さだが、ジェインから見たらむしろメリーベルを庇いたくなる恐ろしさなのが良い。

  • ジェイン (桜咲さん)
    ある意味シーラと対極の素朴な女性。素朴な様子の見せ方が上手で、シーラと違ったタイプの田舎のお嬢様ぶりがとても良かった。

  • ビル/ハロルド (天真さん)
    タイプは異なるが、物語のキーパーソンである二人の中年の演じ分けが良かった。復讐に燃える力強いビルと、アランの遺産を狙う小悪党のハロルドでガラッと印象が違って凄い。

  • ブラウン (水美さん)
    イメージよりもストーリーテラーぶりが良く合っていた。聞き取りやすい滑舌と気さくな態度が印象的。

  • マーゴット (城妃さん)
    少しひねた性格の見せ方・喋り方がとても上手。アランとはわかり合えないのがよく分かる演技がとても好みだった。最後のエトワールでの歌唱もとてもきれいな歌声で、、演技力と歌唱力のどちらも素晴らしかった。

  • メリーベル (華さん)
    登場シーンが完璧で、まさに皆から愛されるのも納得の可愛らしさ。前半が完璧すぎたのか、後半は儚さが少し控えめすぎた印象。退団公演のアウグストゥスを先に見ていることもあり、ここから上手くなったんだなぁ、としみじみ思った。

  • アボット支配人 (和海さん)
    歌唱シーンがとても素晴らしい。長い歌唱シーンで状況説明をするシーンだが、すっと頭に入ってくる滑舌と聞き心地の良い歌唱力が素晴らしかった。