概要
春雷はゲーテの「若きウェルテルの悩み」をモチーフとした、原田諒先生による脚本・演出の作品。主人公のゲーテが若きウェルテルの悩みを書き上げた時代を舞台に、ゲーテと若きウェルテルの悩みの物語を交差させた構成。若きウェルテルの悩みは解説も不要な有名作品。主人公のウェルテルが婚約者のいるロッテに恋し、叶わぬ恋に絶望して死に至るまでの物語。
感想のまとめ
圧倒的なビジュアルや繊細な演技、舞台機構や演出の巧みさによって視覚的に堪能できる作品。「若きウェルテルの悩み」とは別作品なのが難点で、安直な三角関係にされてしまった点が残念。圧倒的なビジュアルとキラキラ感を誇る彩凪さんのウェルテル/ゲーテ、美人ぶりが際立っているせしるさんのロッテ、最大の見せ場で一番映える役作りをしてくれた鳳翔さんのアルベルトがお気に入り。
以下ネタバレ注意
感想
U-NEXTによる配信で視聴。若きウェルテルの悩みは好きな作品という視点での感想。
【全般】
- 圧倒的なビジュアル
圧巻のビジュアルで、見目麗しいとはまさにこの事。ウェルテル、ロッテともに美人で、アルベルトも美形。宝塚でもなかなか見られないレベルのビジュアルで、この作品の強みになっている。 - 舞台の使い方が巧み
バウホール公演なので制約は多いが、舞台の使い方で見事にカバーされている。原作からして場面転換の少ない作品だが、菩提樹や宮廷の舞台セットがとても綺麗。さらに第一幕の終わりでウェルテルを客席降りで退場させたり、ウェルテルの自殺するシーンでの光が差すシーンなど印象的な見せ方も光る。 - ビジュアルと演技力が強みの公演
ずば抜けたビジュアルの良さと、繊細な演技を楽しめる作品だった。勿論随所で歌もあるが、歌よりも芝居を楽しむタイプの作品という印象が強かった。 - 「若きウェルテルの悩み」とは別作品
「若きウェルテルの悩み」は難しい作品だったのか、別物になっている。ウェルテルの神経が衰弱して妄想に囚われていく様は舞台映えしないと判断されたのか、安直な三角関係に改悪されてしまった点は非常に残念。改変された部分にウェルテルの苦悩が詰まっているがゆえに、物語が唐突で薄くなってしまった印象。ピガール狂騒曲ではモチーフの活かし方が巧みになっていたので、原田先生の成長を感じる作品でもある。
【個別】
- ゲーテ/ウェルテル (彩凪さん)
圧倒的なビジュアルとキラキラ感。恋に心が弾み、それが叶わぬと知ると絶望に染まる。そんなウェルテルの心情がとても伝わりやすく、まさに彩凪さんのための作品と配役。ロッテへの恋に燃える強い瞳と、アルベルトに銃口を向けたときの冷たい目のギャップが印象的。ロルフに自分の夢を託すときの表情も素敵で、それ故に彼の死刑で心が折れてしまう見せ方も良く、希望と絶望の入れ替わる瞬間の演技が素晴らしかった。 - ロッテ (せしるさん)
観るたびに思うが本当に美人で、ウェルテルが道を踏み外すのも納得の美しさ。 - アルベルト (鳳翔さん)
損な役回りだけれど格好良い。ロッテとウェルテルを見るときの猜疑心に満ちた表情が印象的で、二人の前ではそれを見せない大物ぶりがまた良い。そんな大物ぶりがあるからこそ「こんな愛し方しかできない」と呟くシーンでの哀愁が増していて、最大の見せ場で一番映える役作りが素敵だった。 - マックス (汝鳥さん)
善良な判事ぶりがとても似合っていて、劇中の騒動に全く気が付かない様子も納得のおおらかさ。判事としての堂々たる姿も素敵で、家庭と仕事を分ける判事としての矜持が見えた。 - ロルフ (真那さん)
美味しい役を見事にこなしていて流石だった。貴族の面々にはない力強さでサビーネとの駆け落ちを選ぶ生き様が素敵で、ウェルテルが自分の夢を託すのも納得の人物像だった。 - サビーネ (沙月さん)
第二のヒロインポジションだったが、ヒロインぶりが素敵。ロルフを信じつつもアルベルトの言葉に迷う幸薄い女性ぶりがとても魅力的だった。 - ヴェラ (舞咲さん)
ロッテやロッテの家を慮る気持ちの見せ方が素敵だった。ロッテには言葉を選んでためらいつつ、ウェルテルには少し強めに言う姿が印象的で、それだけ彼女が憂いていた気持ちが強く伝わってきた。 - ウィルヘルム (帆風さん)
ウェルテルの友人ながら、うまく世渡りできる人。不満はあれども軽くいなしている飄々とした態度が素敵で、コメディ的な立ち回りが巧みな印象だった。 - グレゴール (久城さん)
老執事の役がとても上手で、若くない動きの見せ方が巧み。声だけは流石に若いけれど、仕草や喋り方でそれをカバーしてしまう技術力が素敵。