チェ・ゲバラ (月組) 感想
―力強さと完成度の高さが素晴らしい―

概要


キューバ革命の立役者であるエルネスト・ゲバラ、通称チェ・ゲバラの半生を描いた作品。作・演出は原田諒先生で、ゲバラの半生をキューバ革命、フィデル・カストロとの友情などと織り交ぜて描かれた作品。事前知識がなくても理解できるように、丁寧に脚本が描かれている作品。

感想のまとめ


脚本・演出・演技のすべてが凄くて、完成度は今年見た中で一番。ゲバラの理想や信念を描いた泥臭さと重厚さ、そして力強さを描いた脚本、随所で思わず唸りたくなる印象的な演出、ゲバラとフィデルという二人のカリスマに代表される雰囲気の作り込み、ひと目で練度がわかる銃さばきまで素晴らしい演技、そして革命の力強さが表れている歌声で、どこを見ても素晴らしい。
誰もが素晴らしい演技だった中でも、圧倒的なカリスマ性と演技力で作品に重みを持たせるゲバラを演じた轟さん、そのゲバラと対等に並び立つフィデルを演じた風間さん、影の主役とも言えるルイスを軍人らしく、セリフのないシーンでも僅かな仕草で演じた礼華さんが特に印象的。

観劇日


2019/8/13 (梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)
宝塚大劇場、バウホールに続いて、初めての梅田芸術劇場公演も轟さんが主演。

以下ネタバレ注意

感想


【全般】

  • 脚本・演出・演技のすべてが凄い
    脚本・演出・演技のどれもが素晴らしく、しかもそれらが完璧に噛み合っている。ゲバラのカリスマ性に説得力を持たせる轟さんの演技、若いメンバーによる革命の熱量、要所を締める光月さんたちベテランの演技、細かな仕草まで素晴らしい演技、要所で印象に残る演出によって重厚感ある、凄まじい完成度の公演になっている。完成度の高さは今年一番かもしれない。

  • ひたすらにテーマに向かい合う脚本が良い
    ひたすらにゲバラの理想や信念を描いた脚本は、重厚で男くさいけれどとても良い。無駄なところがなく、ひたすらにテーマを突き進む脚本だからこそ、安心して世界観にのめり込むことができ、その力強さに感動した。ゲバラを軸に描かれた脚本だけれど、フィデルやルイス、パトホを始め多くの人物のドラマが繰り広げられる点もとても良い。宝塚らしからぬ泥臭さかもしれないけれど、そこから逃げずに向かい合ったからこその凄まじいクオリティ。

  • 印象に残る演出が良い
    嵐の中の船出、光の漏れ具合で表現されたジャングル、革命成功を祝う中で息絶えるルイス、国連演説、ゲバラが銃殺されるシーン、ゲバラが扉を開けて光が降り注ぐ中で終わる演出と、随所の演出がとても良い。
    第一幕最後、革命の裏にあるルイスの犠牲により、革命の裏側や体制側の物語を描いた演出がとても良い。革命の華々しさだけでなく、その影にあるものも見えてくる点が素晴らしい。
    ゲバラの国連演説は、観客に向けて演説するという演出と轟さんの力強さによって凄まじい緊張感。舞台でしか、そして轟さんでしかできないとても素敵な表現だったと思う。
    扉の向こうから光が降り注ぐ中で終わる演出はこの作品一番の演出で、希望に満ちたあの終わり方が神がかり的な美しさ。このシーンのためにこの公演すべてがあると言わんばかりのの晴らしさで、思わず嘆声が漏れかけるほど素敵だった。

  • 演技が良い
    メンバーの演技がとても良い。銃を持てばその重さが、撃てばその振動が伝わってくる演技が作品のクオリティを跳ね上げている。特に轟さんのゲバラと風間さんのフィデルが見せる銃さばきは必見。セリフがなくとも仕草で語る人達が多く、見ているだけでその人物の気持ちが伝わってくる点も良い。

【個別】

  • エルネスト・ゲバラ (轟さん)
    轟さんでなければここまでの傑作にはならない、そう思えるほど作品のクオリティを跳ね上げる似合い方。この作品は轟さんなしではありえないし、間違いなくMVPの一人。理想を目指して輝く目、人を引きつけるカリスマ性、革命の力強さを象徴するような歌声、観客を引き込む演説、重みが伝わってくる銃さばきで、いるだけで舞台を引き締める素晴らしさ。髭を撫でる手付きや歩き方、ぜんそくの咳き込み方など細かな演技もとても自然。髭もバッチリ決まっていて、ビジュアル・演技・声・歌とすべてで作品の重厚さを担っている。

  • フィデル・カストロ (風間さん)
    ゲバラが表のMVPならば、カストロを演じる風間さんは影のMVP。ゲバラのカリスマ性に呑まれずに対等に渡り合う風間さんのカストロだったからこそ、この公演は大成功だったと思う。ゲバラに勝るとも劣らないカリスマ性、夢だけではなく現実を見なければならない苦悩を抱えた表情がとても素敵で、射撃シーンでの銃口の振動もまるで映画のようにリアルで素晴らしい。これだけ素晴らしい演技をする人なので、今後の活躍がとても楽しみ。

  • フルヘンシオ・バティスタ (光月さん)
    人格者ではなく倒される敵役。敵役とはかくあるべき、と言わんばかりの雰囲気がとても良い。嫌な男なんだけれどとても良い。決して小者ではなく、海千山千の役柄がとても良く似合う。革命側とは雰囲気が異なる緊張感を出す演技がとても素敵。

  • エル・パトホ (千海さん)
    飄々として明るく、ゲリラ訓練でも不慣れながらも一生懸命で、ゲバラの理想に共感して戦いに身を投じて行く青年。明るすぎない明るさ、段々と戦う男になっていく変化の演技が良い。

  • ルイス・ベルグネス (礼華さん)
    個人的には影の主役。革命の裏側で体制派として苦悩し、正義とレイナのためにバティスタを糾弾し、愛する人の腕の中で死んでいく。第一幕に奥行きをもたせるとても素敵な演技で、意見を堪えるときの手の握り方、正規の軍人らしい身のこなし、レイナへ心惹かれていく様子とどのシーンでもとても良かった。フィナーレでレイナと幸せそうに登場するシーンも素敵で、輝く笑顔がとても眩しい。

  • アレイダ・マルチ (天紫さん)
    凛々しく、聡明な感じがとても良い。女性として凛々しく美しいからこそ、この脚本でもヒロイン不在にならなかったと思う。ゲバラといるときの凛々しさと、レイラにルイスのことを教える優しさの演じ分けもとても素敵。