アルカンシェル―見事な当て書き―

概要

アルカンシェルは小池修一郎先生による作・演出の作品。
ナチス占領下のアルカンシェル劇場のダンサー・マルセルと看板歌手・カトリーヌとが、レヴューを続けるために奮闘する物語。
トップスターコンビである柚香光さんと星風まどかさんとの退団公演でもある作品。

感想のまとめ

一つの作品としても面白く、当て書きとしても巧みな作品。
柚香さんは常に完璧なビジュアル、自然なマルセルとしての振る舞い、綺麗で目を奪うダンスとまさしく男役の集大成。
星風さんも歌、演技、ダンスとどれも素晴らしくこちらも有終の美を飾っていた。
一樹さんもはどのシーンでも演技が素晴らしく、すべての登場シーンが見どころ。

以下ネタバレ注意

感想

  • 柚香さんへの見事な当て書き
    一つの作品としても面白い一方で、柚香さんたちへの当て書きも巧み。パリのレヴューを守るために耐え忍ぶマルセルやカトリーヌは、コロナなどによって公演中止を経験してきた柚香さんたちを反映してきたものだろう。

  • レヴューシーンが盛り沢山
    劇団をモチーフにしたおかげで、レヴューシーンが多い。ダンスを得意とする柚香さんの退団公演にはうってつけで、ショーがなくてもダンスシーンを多く楽しめる作品。

  • 掛け合いを楽しむ作品
    時系列を飛ばして語り部のセリフで補う傾向があり、場面ごとの掛け合いに集中しやすい。柚香さんや一樹さんのとても自然な会話ぶりなど、演者が没入感を生み出す作品だった。

  • 有終の美を飾る柚香さん
    いつどの角度からでも完璧なビジュアル、演じていることを感じさせないほど自然なマルセルとしての振る舞い、とても綺麗で目を奪うダンスとまさしく男役の集大成。特に感動したのが演技で、最初のピリピリした雰囲気から徐々に角が取れ、穏やかになっていく演じ方の自然さがとても素敵だった。穏やかになっても熱意はそのままで、マルセルという人物の成長を感じさせる演技がとても素敵だった。

  • 万能ぶりを最後にもみせる星風さん
    星風さんも本公演で退団だが、こちらも集大成にふさわしい姿だった。高らかに歌い、柚香さんとの自然な会話も息があっていて、フィナーレのデュエットダンスも息があっていて美しい。全方面に強い星風さんらしい、とても素敵な舞台だった。

  • 準備万端な永久輝さんと星空さん
    次期トップスターの永久輝さんは準備万端。大きくよく響く歌声とキレの良いダンスは仕上がり万全。振り返るとどうなんだろうと思える言動もあるが、それを感じさせない熱演ぶり。
    星空さんもすでに準備は万全で、特に歌が素敵だった。芝居での歌も素晴らしかったがエトワールも素晴らしく、トップ娘役として歌っていく姿も楽しみ。

  • 一樹さんが凄い
    一樹さんはフルフルの歌も素敵だったが、演技が素晴らしかった。思想犯として連行されるときの悲壮感に満ちた表情がとても印象的。第二幕でイヴたちが慰安に訪れた時の必死に見守る表情も素敵で、一樹さんが舞台にいるシーンはすべて見どころと言っても過言ではない。

  • 貫禄ある羽立さんと輝月さん
    二人は悪役側として、貫禄を発揮していた。
    羽立さんは悪辣な言動が少なくても貫禄があり、上層部としての貫禄と余裕を感じさせる雰囲気が素敵だった。
    輝月さんのコンラートは鋭い眼光で睨みをきかせる姿と、カトリーヌの歌声に心酔しているときとのギャップが印象的で、心酔しても下品にならない演じ方が素敵だった。

  • 存在感抜群な聖乃さん
    ストーリーテラーとしてありがたい朗々とした声、地味な衣装でも登場した時に目を引く華、力強いダンスで歌も上手で抜群の存在感だった。場面によってはすっと周囲に溶け込み、時代を追体験しているかのような演じ方も素敵だった。

  • 最後のシーンへのつなぎ方が上手な綺城さん
    綺城さん演じるジョルジュは中々な転落ぶりだが、印象的なのが2回の射殺シーン。1回目で悩み苦しみながらも引き金を引いたがゆえに、2回目はとっさに引き金を引いてしまい、その後に慟哭する姿に因果を感じた。1回目があったから2回目があったのだろうな、と思わせるような彼の慟哭がとても印象的だった。