概要
激情は「カルメン」を原作とした作品で、柴田侑宏先生による作、謝珠栄先生による演出の作品。メリメによる小説とビゼーによるオペラ版がミックスされている作品。
衛兵の伍長であるドン・ホセが、ジプシーの女であるカルメンの虜となり、犯罪に手を染めた末に破滅していく物語。
感想のまとめ
高音から低音まで抜群の歌唱力を誇る姿月さんの歌唱力が素晴らしい作品。花總さんの一癖あるカルメン像は独特で魔性の女タイプ。情熱的に始まった恋がすれ違いに繋がり、最後は破滅に至る悲劇性がとても素敵だった。真っ直ぐすぎるドン・ホセがカルメンに惹かれて転落していく際に、頭では解っていても止められない苦悩がとても良かった。
以下ネタバレ注意
感想
【全般】
- ドン・ホセの歌が凄い
ドン・ホセを演じる姿月さんの歌唱力が凄まじかった。普段は男らしい低音だが、歌うと一転して別人のようにクリアな高音に変化する。とても綺麗で伸びやかな歌声が素敵で、影コーラスかと勘違いするほどの化けっぷり。かと思えば低音での力強い歌唱も素晴らしく、どの音域でも声が全くこもらずにクリアなのも素晴らしかった。多分ドン・ホセの歌は難しいのだろうが、どの歌もとても簡単そうに軽々と歌っているのも印象的。 - 要所での歌が良い
どの曲も抜群に上手な姿月さん、冒頭の歌がとても良かった樹里さん、中盤での歌が素敵な出雲さん、随所で安定して上手な和央さんと歌を引っ張るメンバーが揃っているので歌唱シーンがとても良かった。 - 一癖あるカルメン像
花總さんの演じるカルメンは一癖ある独特のカルメン像。ジプシーと言うには気品がありすぎて高級娼婦のようだが、その違和感が多くの男を虜にする魔性になっている印象だった。 - 美しい悲劇性
原作があのカルメンなので、ストーリーはピカイチ。ドン・ホセがカルメンの虜となり、破滅へひた走ってしまうドン・ホセとカルメンの悲劇性が非常に良い作品だった。頭ではカルメンを縛り付けることができないと解っていたはずなのに彼女を束縛してしまうドン・ホセと、何にも縛られずに生きるカルメンのすれ違いが悲しくもとても素敵。あんなに情熱的に始まった恋なのに、途中から二人共が価値観の違いから破滅を予感していて、それでも止まれない悲劇ぶりがとても好みだった。 - 随所で印象に残る舞台装置
ド派手!というわけではないが、随所の舞台装置がとても綺麗。クライマックスの階段と布で象られた太陽?のモチーフや、母の死を悼むシーンでの十字架にも見える階段がとても印象的。カルメンの運命を暗示する占いのシーンも印象的で、破滅が見えても自分の生き方を貫くカルメンの強さが光っていた。
【個別】
- ドン・ホセ (姿月さん)
高音から低音までどんな音域まで歌い上げる驚異の歌唱力だった。男らしい低音ボイスでありながら、まったくこもらずに聞き取りやすい声質が素晴らしい。歌い出すと一転して、別人のような高音までとてもクリアに歌い上げるのでびっくり。低音の歌が苦手というわけでもなく、むしろここ一番での絶唱はとてもパワフル。
作中のセリフにもあったが、真っ直ぐすぎて破滅してしまうドン・ホセの一直線ぶりもとても素敵で、頭では解っているはずなのにカルメンを束縛してしまう苦悩が良かった。ミカエラとそのまま結婚していれば平和に暮らせたような善良な人柄がとても良く出ているからこそ、カルメンと出会ったことで悲劇が確定してしまう悲しみに繋がっていて素敵だった。 - カルメン (花總さん)
個人的にはかなり変化球なカルメンだった。佇まいや仕草に気品がありすぎて、まるで高級娼婦のよう。けれど喋りだすと情熱的なジプシーで、このギャップがカルメンの魔性ぶりにつながっている印象だった。得意な役柄ではないのだろうけれど、自分の色を出しつつもこなしていく演技力が凄かった。 - メリメ/ガルシア (和央さん)
ストーリーテラーとジブシーのボスで一人二役。滑舌が良く落ち着いたストーリーテラーぶりが良く、浮きすぎず沈み過ぎずにすっと作品に溶け込む絶妙な存在感だった。ガルシアとしては一転してで、ドン・ホセとのダンスが綺麗で素敵だった。 - ミカエラ (陵さん)
ドン・ホセを案じるシーンが多いからか温和な印象が強く、ドン・ホセとは相性が良いだろうなと感じた。ミカエラが良い人だからこそ、ドン・ホセがカルメンの眩しい生き方に惹かれて転がり落ちていくのも納得できるので芝居上手だと感じた。 - エスカミリオ (湖月さん)
ダンスがとても格好良くて素敵だった。カルメンと出会ったシーンでのダンスのキレがとても良くて、流石大人気のマタドールという格好良さだった。 - スニーガ (真中さん)
カルメンと絡んでいる時にドン・ホセに見つかった時の演技がとても素敵だった。体面を保とうと居丈高な振る舞いをする小物ぶりがとても人間的で、ドン・ホセが反発を強めるのも納得な人間性が印象的だった。