デパートメント・ストア/凱旋門 感想 ―初観劇の初演版―

概要


デパートメント・ストアは正塚晴彦先生による作品で、老舗百貨店がリニューアルシていくさまを描いたショー作品。凱旋門はレマルクの小説を原作とした作品。脚本は柴田侑宏先生、演出は謝珠栄先生。第二次大戦が近いパリを舞台に、亡命者の医師ラヴィックと女優ジョアンの生き様を描いた作品。

感想のまとめ


デパートメント・ストアは華やかな衣装が印象的なショー作品で、抜群の安定感を誇る轟さん・月影さんと香寿さんを中心にトップ付近の誰が歌って誰が踊ってもクオリティの高さが特長。
凱旋門は重厚なストーリーと映画のような美しさが特長の作品。どこを切り取っても絵になるラヴィックとジョアンのラブシーンやクライマックスシーンがとても綺麗で、ぜひ見てほしい作品。終わり方に違和感があるものの落ち着いたムードがとても心地よく、何度も見返したくなる。

以下ネタバレ注意

デパートメント・ストア


  • 華やかなショー作品
    華やかな衣装が印象的なショー作品。フロアごとに店舗が変わるデパートのように、場面ごとにテーマがガラッと変わるのも特徴。

  • 抜群の安定感を誇るトップコンビと香寿さん
    轟さんと月影さん、香寿さんは演技、歌にダンスと全てにおいてハイレベル。トップ付近が抜群の安定感なので、誰が歌って誰が踊ってもクオリティの高いシーンだった。

  • 主要メンバーの歌が良い
    轟さん、香寿さん、安蘭さん、矢代さんの歌唱が特に素敵だった。轟さんの力強く響く低音、香寿さんの抜群の安定感、安蘭さんのとても良い滑舌、矢代さんの惚れ惚れするような歌唱力が素晴らしかった。

  • ダンスも良い
    「忠臣蔵」と「エリザベート」で歌のイメージが強い昔の雪組だったが、ガツガツ踊る。轟さんと香寿さんを中心に、ダンスの見ごたえもあって良かった。轟さんは力強くも綺麗に踊るタイプで、香寿さんは頼りなさを出すときはオーバーアクションで、そうでないときはキレの良いダンスで素敵だった。

凱旋門


  • 重厚なストーリーを誇る名作
    再演で宝塚に出会ったので後出しだが、再演されるのも納得の作品。重厚なストーリーと人々の生きざまを堪能できる素晴らしい作品だった。

  • 大人の雰囲気がある作品
    大人の男女がとても似合う轟さん・月影さんに包容力のある香寿さん、シャンソン系の音楽、記憶に残りやすい台詞回しによる落ち着いたムードが素晴らしい。しっとりとしつつも情熱的な作品な、何度も見返したくなるタイプの良さがある。

  • 映画のような美しさ
    ビジュアルや所作、舞台背景がとても綺麗で映画のような美しさ。ラヴィックの端正で鋭い美貌とジョアンの映画女優っぽい雰囲気が特に綺麗で、どこを切り取っても絵になる美男美女ぶり。
    クライマックスの終戦シーンも芸術的で、終戦を喜ぶスローモーションのシーンはスタッフロールに繋がりそうな美しさで、ぜひ見てほしいシーン。

  • 終わり方には違和感
    最後は戦争が終わり、ボリスやハイメたちをラヴィックが見守る形で幕が下りる。原作と同じかは知らないが、違和感のある結末だった。
    ラヴィックとジョアンの関係を象徴する凱旋門が灯火管制の闇に紛れ、復讐も恋も終えたラヴィックは収容所へ向かう。ラヴィックの物語は終わりを告げ、暗く先の見えない未来を思わせるシーンに感じたが、そのすぐ後に終戦を迎えた。ラヴィックの託した未来は確かに繋がったが、あの凱旋門は何を示していたのかという違和感があった。トップコンビの二人が不在だと幕を下ろせなかったのかもしれないが、いつか原作を読んで確認したいところ。

  • テンポの速い作品
    台詞も曲もテンポが速く、激動の時代を駆け抜けていった作品だった。個人的にはもう少しじっくりと時間をかけて、先が見えない戦争の時代へ進んでいく雰囲気が好みだった。

個別

  • ラヴィック (轟さん)
    彫刻のように端正な顔立ちに鋭い目つきで見惚れるような格好良さだった。完璧なビジュアル、恋と復讐がこの上なく似合う演技力、低音が力強い歌声とまさに轟さんの実力をいかんなく発揮している役だった。恋に溺れるには鋭すぎてジョアンとの溝を時折感じたが、その分ジョアンの最期のシーンで心が一つになる感動が強かった。

  • ジョアン (月影さん)
    男性に縋って生きるタイプで、一人では生きられない女性。幼さではなく彼女の性質がそうさせているのがとても良く理解できる役作りが素敵だった。何をするにも全力で、絶望するときも愛するときも心の底から全力な彼女の生き方は苦手な人も多そうだが、不思議と納得できるのは月影さんの演じ方が上手だからだろう。ビジュアルも大人の女性で、ラヴィックとのラブシーンはまさに映画のような美しさ。

  • ボリス (香寿さん)
    歌もダンスも上手ければ演技も上手。ラヴィックの友人として見せる包容力が素敵で、専科からの出演らしいが納得の人選だった。印象的なのがジョアンの死をラヴィックから聞かされるシーンで、あの一言でラヴィックの考えを理解してしまった表情が特に素敵だった。

  • ヴェーベル (汐風さん)
    ラヴィックとの距離感の見せ方が上手かった。ボリスとは違って医者仲間でもあるので、ボリスとの時とは違ったラヴィックの一面を感じさせる雰囲気が印象的だった。

  • アンリ (立樹さん)
    ラヴィックに嫉妬しているときの剣幕が印象的。彼は嫉妬に駆られてジョアンを撃つだろうなという説得力が凄まじかった。

  • シュナイダー (一樹さん)
    ナチスのゲシュタポ。悪い意味で仕事人という印象で、ラヴィックの誘いに乗っても羽目を外しすぎないタイプの怖さがある悪役だった。