概要
宝塚の凱旋門の初演版と再演版とを見比べた際に、色々と異なる点が気になったので記事に起こした。
まとめ
初演と再演では随所に違いが見られるが、最大の違いは物語の結末。絵面が美しい初演版と凱旋門が象徴的な再演との間で好みが分かれる要素になっている。個人的には再演版のほうが好み。演じ方も変わっていて、ラヴィックの変化が作品の雰囲気に与える影響力は必見。
以下ネタバレ注意
再演での変化
- 大きく異なる結末
最大の違いは結末だろう。初演では終戦を喜ぶボリスたちをラヴィックが見守るシーンで幕が下りる。一方再演では一つ手前の、ラヴィックが収容所へ向かうシーンで幕が下りる。
初演ではラヴィックが旅券を託したハイネたちが終戦を迎えることで、ラヴィックの意思が未来に繋がる明るい結末になっている。
一方再演では、ラヴィックとジョアンの関係を象徴する凱旋門が灯火管制の闇に消え、復讐も恋も終えたラヴィックが収容所へ向かう。ラヴィックの物語が終わりを告げ、暗く先の見えない未来を思わせる結末になっている。
二人の象徴だった凱旋門が灯火管制で見えなくなる意味を考えると、再演版のほうが自然な結末に感じられた。ただ初演版が悪いというわけではなく、映画の結末のような美しいシーンも素晴らしかった。 - 消えたラヴィックの影
初演では復讐シーンなどでラヴィックの影が現れ、ラヴィックの心情をその動きで代弁していた。再演ではラヴィックの影は現れず、ラヴィックの表情や仕草でカバーされた。再演での表情は鬼気迫るものがあり、轟さんの演技を見やすくしてくれたのかもしれない。 - 番手のバランス
再演版ではボリスの出番が増え、ベーヴェルの出番が減っている。雪組トップスターの望海さんの比重を増やすための調整だろう。ボリスがジョアンの死に立ち会うのでベーヴェルの見せ場が減っているのは残念だが、ここでのボリスの気遣いがとても素敵で、さすが望海さんというシーンになっている。 - ラヴィック (轟さん)
唯一の同一キャストだが、一番印象が異なるのはラヴィック。
初演では鋭い男で、ジョアンに対しても時折呆れるなど価値観は合わなそうな演じ方に感じた。合わないからこそジョアンの最期に愛し合うシーンが感動的で、男女の恋愛としては初演のほうが美しく感じた。初演ではまだ立ち直れる可能性が僅かながらありそうで、終戦のシーンで生きていますと言われても納得はできそうな生き様に思えた。
再演では余裕と温かみのある男で、ジョアンの俗なところも愛する溺愛ぶりが印象的な演じ方だった。その分復讐を遂げる際のギャップが強烈で、フーケでシュナイダーと話すシーンの緊迫感が凄まじい。顔を隠している帽子の下から見える鋭い眼光、シュナイダーを誘い出した際に力強く握った拳は特に印象的で、ここで絶対に仕留めるという執念を感じた。燃え尽きる前の蝋燭のように激しく恋と復讐に生きた男という印象なので、ここで彼の物語は終わりだろうという予感を感じる結末だった。 - ジョアン (月影さん / 真彩さん)
初演ではまさしく一人では生きられない女性で、男に縋って甘えてしまう性質を持った女性という演じ方だった。何をするにも全力で、絶望するときも愛するときも心の底から全力な彼女の生き方は苦手な人も多そうだが、不思議と納得できる魅力のある女性だった。
再演での真彩さんは初演を徹底的に研究している印象で、特に序盤は声の出し方すら似ているように感じられた。中盤以降は印象が変わってきて、幼さから男に甘えるタイプに感じた。 - ボリス (香寿さん / 望海さん)
実はボリスの印象はほぼ同じで、望海さんが香寿さんに少し寄せているのかもしれない。強いてあげれば初演の香寿さんはリアリスト気味で、再演の望海さんはなんだかんだ言いつつもラヴィックに感化されてロマンティスト気味かも知れない。
歌も演技も滑舌も良いという点でも共通点のある二人なので、再演する時にはハードルの高い役かもしれない。 - アンリ (立樹さん / 彩風さん)
個人的にはラヴィックの次に変化の大きかったのがアンリ。初演の立樹さんは嫉妬を激しく顔に出すタイプで、嫉妬に駆られてジョアンを撃つのも納得の印象だった。再演の彩風さんはあまり顔に出さない分、衝動的にジョアンを撃って動転している印象が強かった。同じ行動でもそこに至る過程に違いが感じられて、余白があるからこその面白い役に感じた。 - シュナイダー (一樹さん / 奏乃さん)
初演の一樹さんはゲシュタポの恐ろしさが強く、ラヴィックの誘いに乗るシーンも羽目を外しすぎないタイプの怖さがあった。再演の奏乃さんは下衆っぽさが増していて、人の弱さに付け込んで亡命者の情報を集めつつ女を漁る嫌な男ぶりだった。