ドン・ジュアン 感想
―赤いバラの花が印象的―

概要


モリエールの戯曲「ドン・ジュアン」をミュージカル化した作品を、宝塚で上演した作品。酒と女に溺れ、快楽を追い続けるドン・ジュアン。ある日ドン・ジュアンは騎士団長と決闘をして、騎士団長を殺害してしまう。すると彼の前に騎士団長の亡霊が現れて「いずれ愛によって死ぬ」と宣告される。全く意に介さなかったドン・ジュアンだったが、やがて彼は亡霊に導かれて、彫刻家の娘マリアと出会う。そこで彼は愛を知り、騎士団長の呪いに身を苛まれていくことになる。
脚本・演出は後に「ひかりふる路」、「CASANOVA」などを手がける生田大和先生。

感想のまとめ


ドン・ジュアンという愛を知らなかった男が愛を知って変わっていく生き様を、フラメンコとともに情熱的に描いた作品。演出がとても素敵で、クライマックスでの花の使い方はとても感動的。
CASANOVAが光の中を進むならば、ドン・ジュアンは闇に差した光を目指す作品。僧思うほどアプローチが違っていて面白い。
女性を嘲笑う前半、愛を知って愛に生きる後半と劇的に変化するドン・ジュアンを演じる望海さんの演技が凄まじい。同じ笑顔でも前半と後半で大きく印象が変わるので、ぜひ見比べて欲しい。出てくるシーンで心をがっしり掴んでいく歌と演技でイザベルを演じる美穂さん、無機質な表情・動きと軍靴を高らかに鳴らすタップダンスでまさに亡霊という騎士団長を演じる香綾さん、全身から良い人オーラが溢れ出ているドン・カルロを演じる彩風さん、幸せそうな表情がとても素敵なマリアを演じる彩さんも印象的。

観劇日


2019年6月2日 DVD

2019年花組公演「CASANOVA」で触れられていて気になったので視聴。

以下ネタバレ注意

感想


全般

  • 演出がとても素敵。フラメンコのタップとともに盛り上がっていく物語、クライマックスでドン・ジュアンに赤いバラが手向けられるシーンが印象的。ひかりふる路、CASANOVAで予感していたけれど、生田大和先生の演出が大好きなんだと思う。ガシッと心をつかんでくる演出がとても良い。

  • 一番好きなシーンはクライマックスでドン・ジュアンに赤いバラが手向けられていくシーン。誰にも悲しんでもらえないと言われた彼にバラが手向けられていき、彼がそれをかき集めるシーンは切なくてすごく好き。胸元の鮮やかなバラの花が、まるで咲き誇った愛のようでとても印象的。そして最後に騎士団長の亡霊からバラを渡された時に、ドン・ジュアンの愛が肯定されたような感覚がしてとても素敵。愛を知らなかった彼が、人から手向けられた花で愛を咲かせているようで大好きなシーン。

  • 先に花組のCASANOVAで明るい話を見ていただけに、ドン・ジュアンの影がとても印象的だった。光り輝く道を歩いていくカサノヴァと、闇に差した一筋の光を追い求めるドン・ジュアン。プレイボーイでもぜんぜん違う印象で面白かった。

  • 望海さん、美穂さん、舞咲さん、有沙さんをはじめとして歌がすごく良い。ときに激しく、ときに命を燃やすように、ときに厳かに歌われていくシーンはどれも素敵。

  • ドン・ジュアンに焦点を絞ると激しく変化していく物語がとても良い。愛を知らず、びっくりするような酷い男だったドンジュアン。そんな彼がマリアと出会って愛を知り、まるで別人のように変わっていく。ラファエルが現れたことで憎しみに駆られるも、最後に愛を選んで死んでいく。激しく、情熱的でどこか悲しいとても魅力的な物語だったと思う。

  • 逆に全体を見ようとすると、個人的には好きなストーリーではなかった。ドン・カルロ以外のほぼ全員にう~んと思うところがあってなんとも。束縛的だったとはいえラファエルが余りに報われなかったり、エルヴィラの愛に盲目な感じは結構苦手。特にエルヴィラは有沙さんの演技が良くて、愛で周りが見えなくなっている感じがとても良く出ているだけに……。

以下個別

  • ドン・ジュアン (望海さん)
    愛を知って変化していく彼の演じ分けがとても凄い。まず序盤の酷い男っぷりが衝撃的。エルヴィラが娼婦紛いのことをしてでも気を惹こうとしているのに、それをせせら笑うあの笑顔。序盤は嘲るような笑顔を浮かべる彼だけど、マリアと出会った後の第二幕では笑顔の印象がガラッと変わって穏やかな笑顔になるので、笑顔の演じ分けがとても印象的。傍若無人で無神経なように見えるが、イライラすると爪を噛んだり亡霊を気にして神経質になっている姿も印象的。そんな何気ないところから性格が見えてくるシーンが好き。
    歌も前半と後半でだいぶ印象が変わっていて、快楽を貪る力強さで歌う前半と、愛に命を燃やしていくかのような後半。どちらもすごく魅力的で、愛を知って歌い方まで変わっていくのが素敵。
    殺陣のシーンもすごく速くて印象的。かなりの速さで剣を振るうので迫力が凄い。殺陣の最中に浮かべるサディスティックな笑顔がすごく嫌な男で素敵。

  • ドン・ルイ (英真さん)
    息子のことを想っているけれど、上手くいかない感じが素敵だった。歌も演技も上手で、不器用な父親と威厳ある貴族の演じ分けが印象的。エルヴィラを脅すシーンでの、対外的にはこういう振る舞いをしている人なのかと思わせる演技が好き。

  • イザベル (美穂さん)
    出てくるシーンは多くないけれど、出てくると印象に残る演技が素敵。上手で艶やかだけれど、どこかドン・ジュアンを遠く感じる歌がすごく好き。うまく表現はできないけれど、ドン・ジュアンへの割り切れない想いを感じさせる演技が素敵だった。

  • 騎士団長 (香綾さん)
    亡霊姿がとても印象的。無機質な表情と動き、軍靴を響かせるタップダンス、時々見せる笑顔の不気味さ。まさに亡霊といった演技がとても素敵。そんな恐ろしさのある彼が、憑き物の取れたような様子でドン・ジュアンへ花を渡す最後のシーンがとても良かった。

  • ドン・カルロ (彩風さん)
    作中一人浮いている位いい人。もう全身からいい人オーラが溢れ出ているのが素敵。ドン・ジュアンを心配し、エルヴィラも気にかける。優柔不断な優しさが表情や仕草にも出ていてすごく素敵だった。ドン・ジュアンの素行に呆れ、苦言を呈し、無下にされても諦めずに説得しようとする。そんな不器用な友人像がとても似合う。物怖じせずに行動できて、気配りもできて剣も達者だけど、彼を救うことはできない。そんな悲哀を抱える彼が好き。

  • ラファエル (永久輝さん)
    永久輝さんは闇のある男が似合うだけに、彼が不憫で仕方なかった。束縛するタイプの彼はマリアとは上手く行かなかっただろうけれど、余りに報われない彼がとても不憫。マリアへの帰還報告があんなに悲しい形で行われるとは思わなかった。ドン・ジュアンとの決闘でも、マリアへの愛で立ち上がるけれど、マリアの中では終わった愛。考えれば考えるほど報われない彼が悲しい。

  • エルヴィラ (有沙さん)
    有沙さんの演技がすごく良い。修道院にいた彼女は恐らく、ドン・ジュアンを選ぶために他のすべてを捨てたのだろう。そう思わせるような一心不乱ぶりで、彼の気を惹くためなら娼婦紛いのことまでする。その痛々しいまでの一途な演技がとても素敵。ただエルヴィラというキャラクターが個人的には苦手なので、いつか好きなキャラクターでもう一度見てみたい。

  • マリア (彩さん)
    プラスの感情を出している時の演技や表情がとても素敵。石像を作っているシーンでの生き生きとした表情や、ドン・ジュアンと語らうシーンの幸せそうな表情がとても素敵。他の作品でも思っていたけれど、男役の人と一緒にいると輝きが増すタイプの、素敵な娘役さんだと思う。