夢現無双 / クルンテープ (月組) 感想
―武蔵と小次郎の対比が美しい―

概要


原作は吉川英治の小説。脚本・演出は齋藤吉正先生。
夢現無双は天下無双としてその名を轟かせた宮本武蔵の半生を描いた物語。宮本武蔵と彼を慕うお通、宮本武蔵と長馴染みの青年である又八、天下無双として知られる佐々木小次郎を中心に描かれた物語。
クルンテープはタイをテーマに演じられたエキゾチックなショー。

感想のまとめ


  • 夢現無双
    武蔵の成長や各登場人物の生き様と成長を見ていく作品。人を選ぶ脚本ではあると思う。雄々しくも荒々しい武蔵が成長していく様や、優雅で華麗な小次郎、武芸から遠ざかる又八の生き方の対比がとても素敵。殺陣のシーンは格好良いし、武蔵と小次郎で違った個性があるのが見どころ。人との出会いで成長して印象すら変化していく武蔵を演じる珠城さん、優雅で華麗な小次郎を演じる美弥さん、気品と艶やかさと掴みどころのなさでまさに太夫という海乃さんが一押し。

  • クルンテープ
    キラキラしてエキゾチックな熱量溢れるショー。まさに宝塚の男役と思わせる歌・踊り・燕尾姿の全てが美しい美弥さん、珠城さんと美弥さんの美しいダンスシーン、緑と白の衣装で歌う女性 (輝月さん?) の低音から高音まで歌い上げる素敵な歌、ダイナミックと美しさを兼ね備えたデュエダンが特に見どころ。

観劇日


2019/4/6 (宝塚大劇場)
記念すべき月組初観劇。カンパニーのブルーレイで気になっていた美弥るりかさんの退団公演。最初で最後の美弥るりかさんを見るチャンスと思い観劇。

以下ネタバレ注意

感想 (夢現無双)


全般

  • 私は嫌いではないけれど、結構人を選ぶ脚本。切った張ったの爽快さは薄く、強さとは何かを追い求め続ける武蔵の果てのない旅を描いた作品。単純なエンターテインメント性を求める人とは相性が悪いと思う。多くの失敗から学んでいく武蔵の成長や、彼とは対極で孤高を極めた佐々木小次郎、武芸の道を捨てる代わりに平穏を手に入れた又八、お通や太夫といった女性の生き方の違いを楽しむ作品という印象。
  • 脚本は時間を飛ばしたり欲しい情報を後出しするところが何箇所かあったので、自分で情報を補完しながら見ないと情報不足な印象を持つかもしれない。
  • 演技がすごく光る作品だったと思う。月日とともに人物の心が変わっていく様子が伝わってきくるのが良かった。これは脚本よりも月組メンバーの演技力のおかげかも。
  • 雄々しい武蔵と優雅な小次郎の対比がとても素敵だった。立ち居振る舞いだけではなく、殺陣でも二人の違いが出ていて凄かった。後半になるにつれて武蔵が洗練されていくのに対して、小次郎は優雅で美しいままの完成された姿という対比もとても印象的。
  • 巌流島の戦いをあっさりと終えるのが非常に印象的。小次郎との戦いで手にした無双の虚しさが伝わってくるような演出と、あの瞬間の武蔵の表情がとても良かった。
  • 太夫の出てくるシーンがとても良かった。出てきた瞬間に最高級の人だとわかる太夫の貫禄に美しくも掴みどころのない演技に上手な歌でとても好き。上演後にスチール写真を買ったぐらい良かった。
  • 随所に出てくるカラス役人たちの見せる不穏なダンスが印象的だった。
  • 柳生医師舟斎宗厳が愛犬を受け取った時に、まるで生きているかのように見せた小技が凄かった。多分手で動かしているんだろうけれど、本当に生きているようだった。

以下個別

  • 武蔵 (珠城さん)
    なんて男らしいんだろうと惚れ惚れするような武蔵だった。男らしい佇まいや歩き方、力強い声に生き急いでいるようなオーラ、荒々しい太刀さばきとまさに天下無双を目指す侍のそれだった。そんな荒々しい武蔵が人と出会い成長していくと雰囲気が柔らかくなり、太刀さばきも洗練されていくのがとても素敵で、武蔵の成長がわかりやすく伝わるものすごい演技だった。そんな成長した武蔵が小次郎を打ち倒した瞬間に見せたあの表情がとても良くて、あぁこの天下無双に意味は無かったんだなぁ、とひと目で分かる凄く好きな表情だった。

  • お通 (美園さん)
    実は強さとは彼女の心のことなんじゃないかと思うような、心の強い女性だった。自分の気持ちをじっと抑えて、明るく柔らかな話し方で武蔵と会話しているシーンがとても印象的。

  • 小次郎 (美弥さん)
    息を呑むような美しさの小次郎で、立っているだけで視線を奪う、とても華のある姿が素敵だった。優雅で華麗、印象も生き方も武蔵と対になるようでとても素敵だった。歌も素敵で殺陣も舞うように美しく、美弥るりかさんのいる公演を観劇できて本当に良かったと思う。美しい殺陣のシーンも印象的だけれど、武蔵に敗北したシーンが本当に美しかった。倒れて絶命する様まで美しくて、あのシーンはまるで文学作品のワンシーンのようだった。

  • 又八 (月城さん)
    お調子者だけれど憎めない印象を与える演技が良かった。後半で武蔵とお通が二人きりになれるように退場するシーンでのいい人感が凄く好き。

  • 沢庵 (光月さん)
    まさに闊達な僧侶。人生の深みを感じるような佇まいと、破天荒な僧侶さんってこんなイメージだよなぁ、という喋り方が印象的。

  • 吉野太夫 (海乃さん)
    個人的にMVP。出てきた瞬間のあのオーラ!絶対太夫だとわかるあの気品が凄かった。太夫の艶やかさと掴みどころのない演技、そしてとても上手な歌とどのシーンを見ても素敵だった。小次郎といるシーンではその印象が変わって、あの完璧な太夫の振る舞いは演技で、本当は違った面のある女性だとわかるのがまた素敵だった。

感想 (クルンテープ)


キラキラでエキゾチック、熱量に満ちたショーでとても良かった。リングを囲って男たちが戦うシーンの熱量が凄くて、あのコミカルさと熱量の合わさったシーンがとても好き。珠城さんと美弥さんのダンスシーンは今まで見てきたダイナミックなものではなくて、とても綺麗なダンスで印象的だった。色気があるとかではなくただひたすらに綺麗なダンスで、それがとても良かった。
この公演で退団される美弥るりかさんを宝塚で見るのは最初で最後だからじっくりと見ていたけれど、本当に綺麗で素敵だった。どのシーンでも歌が上手で踊りが綺麗で格好良い。まさに宝塚の男役だなぁ、という素敵さだった。
印象に残っているのが緑と白の衣装を着た女性が歌うシーンで、低音から高音までとても綺麗に歌い上げていて素敵だった。輝月ゆうまさん?らしいけれど確証はないのでこの人!と言えないのが少し残念。
デュエダンもすごく素敵で、美弥るりかさんととデュエダンを楽しみにしていた甲斐があった。ダイナミックで美しいデュエダンで、リフトしたまま回り続けるシーンも幸せそうな二人がすごく素敵だった。