夏の夜の夢・あらし/シェイクスピア
/福田恆存 訳/新潮文庫
―世界の美しさに感動する作品―

概要


誰もがご存知シェイクスピアによる作品。「夏の夜の夢」は比較的初期に書かれた喜劇。「あらし (テンペスト) 」は晩年に書かれたロマンス劇。
「夏の夜の夢」はアセンズ (アテネ) を舞台に、妖精の王オーベロンと妖精の女王タイターニアとの間の夫婦喧嘩に巻き込まれた何組かの男女の物語。妖精王の命を受けた妖精パックが惚れ薬を使う相手を間違えたことで事態が混迷していく、幻想的でハチャメチャな恋愛喜劇。
「あらし」は孤島を舞台に、弟の裏切りにより追放されたミラノ王プロスペローが魔法の力で弟たちの乗った船を難破させ、島へ漂流させるところから始まるロマンス劇。シェイクスピア晩年の作品で、多くの喜劇・史劇・悲劇を書き上げたシェイクスピアの集大成にふさわしいロマンス劇。

感想のまとめ


「夏の夜の夢」は妖精が歌い踊るシーンが幻想的で、気づけば大団円を迎えているというまるで狐につままれているかのような作品。
「あらし」はまさにシェイクスピアの集大成。四大悲劇を読んでから読んでほしい作品。幻想的で、情熱的な愛があり、裏切りや疑心があり、言葉の掛け合いも小気味よい。結末の美しさは必見で、多くの喜劇・史劇・悲劇を経たシェイクスピアがこの結末を書いた事実がとても好きになる。

以下ネタバレ注意

感想


  • 夏の夜の夢
    狐につままれたような感覚で、気づけば大団円というお話。随所に登場する妖精のシーンが幻想的で、演劇で見たら非常に美しい作品だろうなぁと思う作品。この作品で一番好きなのは妖精たちのシーンかもしれない、と思うぐらい幻想的。
    惚れ薬によって意中の人が変わってしまったライサンダーとデメトリアスがハーミアを罵倒するシーンは皮肉と辛辣さに満ちていて、なんて恋とは恐ろしいのだろうかと思う。

 

  • あらし
    未読の人はぜひ四大悲劇 (オセロ・マクベス・ハムレット・リア王) を読んでからこの作品を読んで欲しい。和解と世界の美しさを書き上げた作品で、まさしくシェイクスピアの集大成。幻想的で、情熱的な愛があり、裏切りや疑心があり、言葉の掛け合いも小気味よくシェイクスピア作品の良いところが全て詰め込まれた作品。読み返す度に好きになる傑作。四大悲劇を書いたシェイクスピアが晩年に、和解と世界の美しさを書き上げたという背景もこの作品の魅力を更に増していると思う。

    プロスペローが復讐相手を殺すのではなく和解するというのが最大の特徴であり、これが心地よい余韻を作り出していると思う。自分と娘のミランダを裏切った弟のアントーニオーと共謀したナポリ王アロンゾーに対して魔法の力で復讐するも、最後には和解を選ぶ。復讐劇にしなかったことで、人間の美しさと世界の美しさを感じるとても良い話だと思う。

    プロスペローの娘ミランダが、人間の美しさと新しい世界の素晴らしさに感動するシーンもとても良い。物心ついたときから父と二人きりで、キャリバンという怪物を除けば他の景色を知らなかった彼女が、孤島へやってきた人々を見て人間と世界に感動するシーンはとても印象的。裏切り者たちの心の闇を描いてきたこれまでの展開に、まるで一筋の光が差し込んだかのように思える。改めて作品を振り返ると彼女の見ている世界はプロスペローとファーディナンドが占めていて、常に輝いているのがまた良い。父の愛を受けて育ち、ファーディナンドと愛を育み、人や世界の素晴らしさを知る。なんて美しいんだろうかと思う。

    この作品は和解と世界の美しさを描いて終わるが、それに至るまでの闇の書き方も素晴らしい。アントーニオーとセバスティアン、ステファノーとキャリバンという二組の野心に満ちた奸計があるからこそ、プロスペローの和解が感動的になると思う。

    キャリバンは見にくい怪物として描かれいて言動ともに粗暴だが、宝箱が降ってくるような夢をもう一度見たくて泣いた、という印象的な台詞もあり、ただの怪物で終わらないところが好き。

    最後のエーリアルとの別れもあっけなくもプロスペローの愛を感じる向上がとても良い。私の小鳥というフレーズがとても好き。

    エピローグでは彼が客席へ呼びかける形で幕を閉じていて、幕が下りるその瞬間まで想像できるとても素敵な終わり方だと思う。魔法を返したただの人として現れて、舞台の幕を下ろす。とても心地よい余韻を生む終わらせた方だと思う。