ファントム (雪組) 感想
―圧倒的な歌と演技に涙が止まらない公演―

概要


原作はガストン・ルルーのオペラ座の怪人。本作の脚本はアーサー・コピット。潤色・演出は中村一徳先生。
オペラ座に憧れる少女、クリスティーヌが歌いながら楽譜を売っているところに、オペラ座のパトロンであるシャンドン伯爵が通りかかる。その歌声を高く評価したシャンドンはオペラ座でレッスンを受けさせるべく、支配人キャリエールへ宛てた紹介状をクリスティーヌへ渡す。
オペラ座にやってきたクリスティーヌだがキャリエールは既に解任されていて、新しい支配人ショレの妻であるカルロッタの衣装係にされてしまう。
仕事の合間に歌うクリスティーヌの歌声を聞いたファントムは彼女の歌声に感動し、彼女がオペラ座で歌えるようレッスンを施す。そして団員たちが集うビストロでクリスティーヌがその才能を開花させた時、物語は大きな変化を迎える。

感想のまとめ


圧倒的な歌と演技が調和して、涙の止まらなくなる公演だった。
歌による表現を極めたかのような、エリックを演じる望海さんとクリスティーヌを演じる真彩さん、歌も凄いが眼差しや演技でも泣かせてくる彩風さん、少女漫画から抜け出したかなようなキラキラしたオーラのシャンドンを演じる彩凪さん、どうしようもない小者だけど憎めないショレを演じる朝美さん、オペラ座を支配するような演技でカルロッタを演じる舞咲さんが凄く良い。
一押しは彩風さんのキャリエールで、特にビストロでの表情、第二幕では登場シーン全てが凄く良い。

観劇日


2018/11/18, 2018/12/11 (宝塚大劇場)
2019/1/3 (東京宝塚劇場),
2019/2/10 (ライブビューイング) 
初の東京宝塚劇場、千秋楽 (ライブビューイング) は雪組公演。

以下ネタバレ注意

感想


歌関連

  • エリックとクリスティーヌの歌うシーンがとても素晴らしい。望海さんと真彩さんという圧倒的な歌唱力を誇る二人が主演する、この公演を見られて本当に良かった。
  • トップ二人だけではなく、雪組としても歌が素晴らしい。「夜のために着替え」や「ビストロ」で見せる、雪組全体で作り上げる空間がとても素晴らしい
  • エリックがクリスティーヌに拒絶された後の泣きながらの歌う姿が凄い。しゃくりあげながらも完璧に歌う望海さんの歌唱力が凄まじい。
  • クリスティーヌの上手くて可愛い歌い方から、才能が開花した時の切り替えが凄く好き。クリスティーヌの底なしの才能を表現する歌い分けがとても良かった。
  • 感動が最高潮に達する「You are my own」が非常に良い。エリックの歌声と彼を包み込むようなキャリエールの歌声が奏でるハーモニーがとても美しく、何度見ても涙が止まらない。キャリエールの歌い出しがとても良くて、「エ~」の部分だけで涙がこみ上げる。
  • カルロッタの歌声も凄く良い。カルロッタの圧倒的なパワフルさと適度なコミカルさが作品にとって凄く良いアクセント。

演出・演技関連

  • エリック登場シーンでの、母の影を追い求めるが掴めないダンスシーンが重くて好き。
  • 精神的に幼いエリックの演技がすごく良い。キャリエール以外の人間と関わる機会が少なかったこととそれゆえに生じた彼の歪みを恐ろしいほどに表した、望海さんならではの演出だと思う。
  • 動きの途中で時が止まったかのようなストップモーションが凄い。一瞬時が止まったかと錯覚するような、動きの途中でピタッと静止する技術が凄まじい。
  • ビストロでクリスティーヌが才能を開花させた時の、キャリエールの表情がとても良い。あのベラドーヴァを思い出した表情が印象的で、あの表情だけで涙が出てくる。
  • ビストロの後で一人佇むエリックがとても悲しい。直前のシャンドンとクリスティーヌのやり取りの後だけに、ただ摘んだだけのような花を持って立ち尽くすエリックが不憫。
  • ファントムがカーテン越しに消えるシーンやカルロッタを刺殺するシーンなど、随所で見せる奇術が好き。原作を思わせる素敵な表現だと思う。
  • 「My True Love」が非常に良い。まるで神の救いが与えられるかのような歌声だった。その歌の後でエリックが涙を流しながら仮面を外した瞬間、クリスティーヌの表情が凍るのが辛い。エリックは受け入れてもらえると確信していて、その変化に気づいていないことがまた辛い。
  • クリスティーヌに拒否され、エリックが泣きながら縋り付いた布が剥がれた瞬間に森も消え去ったシーンが恐ろしかった。すべてが終わってしまった絶望感が伝わってくる、凄まじい演出だった。
  • 負傷したエリックを捜索する時に、キャリエールが足元の血痕を消す演出が好き。必死にエリックを助けようとする、キャリエールの精一杯が伝わってくて凄く良い。
  • 「You are my own」での抱擁も素敵で、エリックをしっかりと包み込むようなキャリエールの優しい抱きとめ方が凄く好き。
  • 「You are my own」の後でクリスティーヌを見つけた時に、エリックがキャリエールから離れていく演出は2パターンを確認。BDなどではキャリエールを突き飛ばす形だが、ライブビューイングでのすり抜けていく離れ方が凄く良かった。
  • キャリエールがエリックを撃つ演出がとても感動的。銃を構えてからのとても長い間は、大事な場面で決断できなかったキャリエールを象徴するようなシーン。エリックに「父さん」と呼ばれたことでエリックを撃つ決意をする姿や、撃った後に崩れ落ちそうな様子に涙が止まらない。ライブビューイングではこの時に涙が溢れる瞬間が映っていて、とても美しい一瞬だった。
  • エリックの亡骸と一緒に、キャリエールも退場するシーンが素晴らしい。エリックを見つめるキャリエールの、万感を込めた笑顔が素敵だった。
  • デュエダンはまさかのファントムのIFストーリー。幸せそうに踊り、仮面を取る仕草を見せた望海さんを受け入れる真彩さんを見ることが出来て良かった。

その他

  • 千秋楽ではお父さん (彩風さん) とモジャモジャの人 (朝美さん) by望海さん 考案の仮面をお空に返すというシーンが凄く好き。これで未練なく終われるなぁ、と思いながらお空に返した。

以下個別の感想

  • エリック (望海さん)
    望海さんのエリックは悲しいことも多かったけれど、沢山の幸せにも恵まれたエリックだったと思う!クリスティーヌと出会い、キャリエールと親子の絆を確かめ、キャリエールに父さんと呼びかけ、最期はクリスティーヌに看取られる。エリックは望むものを全て手に入れられたのかな、と思う。
    人によってエリックの表現は違うと思うけれど、この幼い印象エリックは望海さんにしか出来ないと思う。キャリエール以外の人間と関係を持てなかったエリックの生い立ちを、こんな形で表現してくるとは思わかったので度肝を抜かれた。この幼さがあるからこそ、中盤から終盤に涙が止まらなくなる。
    クリスティーヌを森へ招待した時の、子供が宝物を見せるような姿が素敵。キャリエールや従者以外と森で過ごす初めての時間で、エリックが心から嬉しそうにしているのが伝わってくるのが凄く良かった。
    My True Loveで仮面を取った時にみせる、拒絶されるとは微塵も思っていない笑顔が凄く好き。ここからの凄まじい落差が見ていて辛かった。
    歌は凄いとかのレベルではなくて、東京劇場じゃ狭いと言わんばかりの凄い歌声だった。きれいな声で歌い上げる圧倒的な歌唱力も凄まじいけれど、泣きながら歌うシーンがまた凄い。しゃくりあげながらも完璧に歌っていて、歌で気持ちを表現することを極めたかのような、望海さんの凄さを体感した。
    悲痛なシーンも望海さんの見せ場。クリスティーヌに拒絶されて泣き崩れるシーン、最後のクリスティーヌを奪おうとするシーンがとても良い。悲痛な演技をさせたら右に出る人はいないと思う。

  • クリスティーヌ (真彩さん)
    最初の方とビストロで才能を開花させた後の歌い分けが凄い。ビストロにいた劇団員の気持ちを体感できるような素晴らしい歌声だった。ビストロ以降はまさしく天使の歌声で、真彩さんのクリスティーヌを見ることが出来て良かった。
    歌うシーンと同じくらい凄いのがカルロッタに毒を飲まされたシーンで、本当に歌えなくなったのでは?と思わせるような演技がとても良かった。歌えないのに歌おうとするクリスティーヌの必死さが伝わってきて凄く好き。
    My True Loveでエリックの顔を見た時の、本能が理解することを拒絶したかのような、あの一瞬で凍りついた凄く印象的。
    本編では拒絶してしまったけれど、デュエダンでは望海さんが仮面を外す仕草をして、真彩さんが受け入れるという演出がとても素敵だった。あれを見られたおかげで、気持ちが凄く救われた。

  • キャリエール (彩風さん)
    何回も観劇したのは彩風さんを見たかったからと言っても良い。まさにエリックのことが全てというようなキャリエールが非常に良かった。演技、表情、歌、フィナーレの格好良さと全てが素敵で、オペラグラスで追いかけてしまうぐらい素敵だった。
    まず表情が素敵。エリックやクリスティーヌに向ける眼差しは、子を見守るかのような眼差しで、それだけでエリックのことを愛しているのが伝わってきた。あの眼差しだけで、エリックを甘やかしてきただろうし、精一杯守ってきたんだろうとわかる素敵な眼差しだった。
    ビストロでクリスティーヌの才能が開花した瞬間の、驚愕している表情も凄く好き。驚きの中にも懐かしさを感じているような表情で、ベラドーヴァの面影を感じているのが伝わってくる、とても良くて泣ける演技だと思う。この表情があるから、私にとってビストロは毎回泣いてしまうシーン。
    演技もすごく良い。エリックの血痕を足で消すシーンやエリックを匿うシーンでは、必死にエリックを庇う父親。けれどエリックがクリスティーヌを攫うシーンや生け捕りにされそうなシーン等、他の人がいるシーンでは立ち尽くしていることが多い。その姿は大切なものを選べなかった彼の人生を象徴しているかのようで、その姿を見ているだけで涙が止まらなかった。
    歌も非常に良くて「You are my own」では望海さんの声と相性も良く、涙が止まらないシーンだった。「エ~」の時点で愛情が溢れ出てくるような歌い方が素敵で、たった一音で泣かせに来る歌が凄く良かった。エリックを包み込むような歌声と優しい抱きしめ方が素敵で、包容力のある役がものすごく輝く人だと思う。
    エリックを撃つシーンは、何度見ても涙が止まらないぐらい好き。撃つまでの間が凄く長いのがまた良くて、このキャリエールは撃てないよなぁ、と思っていた私の心に凄く刺さった。エリックが「父さん」と呼びかけたことで決意するのも凄く良い。決断できなかった彼が、愛しい息子のために最後の決断をしたという構図に涙が溢れた。撃った後は固まったまま動けず、動いたと思ったら崩れ落ちてしまいそうな様子に涙が止まらなかった。
    ライブビューイングではエリックを撃った後のシーンで、キャリエールから涙が溢れるシーンが映っていて、その美しさが印象に残っている。いつの日か東京劇場の千秋楽が映像化される時には、ぜひ見てほしいと思うシーン。
    エリックの亡骸とともに退場していくシーンも非常に良い。最後にキャリエールがエリックに微笑みかけた時の、万感の思いを込めた笑顔は息を呑むような素晴らしさだった。
    フィナーレの彩風さんも凄く格好良い。透明感のある歌声と格好良いとしか表現できない姿が素敵だった。彩風さんが2階席の方までグル~っと見渡した時に、オペラグラス越しに視線が合ったかのように錯覚した瞬間の衝撃は凄まじかった。

  • シャンドン/ショレ (彩凪さん)
    シャンドンは少女漫画から抜け出してきたかのようなイケメンで、登場時のキラキラしたオーラが凄まじかった。貴族のオーラが漂うイケメンで甘い声で殺陣も美しくて格好良い。まさに死角のないイケメン。
    ビストロでクリスティーヌを見守る優しげな眼差しも素敵だし、恋に落ちたのがわかる表情が凄く良かった。ビストロの後でクリスティーヌと会話が噛み合わないシーンも良くて、歌に夢中なクリスティーヌと、恋に夢中なシャンドン、二人の違いがはっきりわかるシーンで凄く好き。クリスティーヌがごめんなさいといった瞬間の表情、そして彼女が混乱していると理解した時の優しげな表情が凄く好き。
    ショーではしんみりとした空気を吹き飛ばすようなキラキラしたオーラで、一気に空気を切り替える彩凪さんがすごく素敵だった。
    彩凪さんのショレは臆病で腰が弱いオジサマ。幽霊をものすごく怖がっていて、みんなにからかわれている姿が可愛い。カルロッタへの愛は報われなくて、投げキッスを投げ捨てられてショックを受ける様子が不憫。千秋楽ではそんな投げキッスを受け取ってもらい、びっくりしているのが凄く可愛い。

  • ショレ/シャンドン (朝美さん)
    朝美さんのモジャモジャなショレが凄く良かった。どうしようもなく小物な男なんだけれど、カルロッタとおしどり夫婦で憎めない感じが凄く好き。カルロッタへの愛は本物だし、ビストロでクリスティーヌに契約書を渡しながら話す様子も憎めない人なんだよなぁ、と思えて好き。
    シャンドンは一転して朝美さんお得意の好青年。従者との戦い方を見ていると、何処かで実戦経験を積んでいそうな気がしてならない。最後にエリックがナイフを捨てたシーンでも笑顔を浮かべていたし、私の中では野心家系好青年。


  • カルロッタ (舞咲さん)
    オペラ座の支配者!歌、お芝居、アドリブの全てを駆使して時に笑いを誘い、響き渡る歌声で盛り上げ、悪役もこなす。笑いを誘う舞咲さんのお芝居が凄く良かった。時折可愛い振る舞いをするから、えげつないことをしている割に嫌いになれないところがまた好き。
    歌もすごく良くて、もの凄く上手いのに「歌えないじゃないか」というエリックの声にも納得できてしまうような絶妙さがすごく素敵。我の強い歌い方がクリスティーヌと対照的で凄く良かった。
  • ベラドーヴァ (朝月さん)
    エリックのお母さんでYou are musicが素敵。初めて歌うシーンは特に印象的では無かったのだけれど、アヴェ・マリアで悲痛さを感じる歌声が素敵で、最後のYou are musicが凄く良かった。母性と神々しさを感じるような歌声で、この役が朝月さんで凄く良かった。

  • 従者 (沙月さん)
    ダンスが凄い!ものすごくダンスが上手くて視線を奪われる。特に高速回転が凄まじかった。まるでスケートをしているかのような高速回転は、速すぎて何回転かよくわからないほどだった。セリフはないけれど結構表情豊かで、従者にも人生があるんだなぁ、と思える素敵な演技だった。