鬼ガナクセカイガ魔王
―殺さない選択の素晴らしさ―

概要


Nightmare Syndrome様による作品。
ある化学者があらゆる病気を治す特効薬を発明した。世界に平和が訪れたが、平和な世界では生きていけない医療研究所は絶望していた。彼らが新たに発明したウィルスによって、世界は奇病患者で蔓延してしまった。特効薬を発明した化学者は完全な延命装置を1台発明するも殺害されてしまい、延命装置は闇ルートに流れてしまう。たった一台の延命装置が存在する、奇病が蔓延した世界で生きる末期の奇病患者たちの物語。
ブログでBAROQUEを好きと語っていたためか、どことなくBAROQUEを思い出す世界観。

感想のまとめ


不条理な世界観なのに、爽やかな読後感が素晴らしい作品。緊迫感のある戦闘シーンとお屋敷での穏やかな時間の緩急がとても良い。紅葉の生き方にメンバーが感化されていく流れがとても素敵。ロサとゴズメズがお気に入り。

以下ネタバレあり

良かった点


  • 不条理な世界なのに爽やかな読後感
    後半のNS作品は不条理系という印象が強いけれど、そこからさらに進んだ作品。奇病が蔓延した不条理な世界。それでも命を大切にしていく紅葉と、彼に感化されていくメンバー。Good Endでの前向きな終わり方はとても爽やかで素晴らしい。

  • 戦闘シーンのテンポと緊張感が良い
    戦闘シーンはBGMとシナリオが相成って緊迫感がある。それぞれの武器もキャラクターに合っていて、読み応えのある戦闘なのでどれも好き。

  • Endの余韻が良い
    各キャラのイベントを見続けることでフラグが立ち、Endが変化する。Endは紅葉が3パターン(望んだ死に方/天命の結論/今日は死ぬのにもってこいの日)、ミチル&ナイチンゲールが2パターン (神の裏切り/最期の救い)、ロサが1パターン (一輪の薔薇)。ロサEnd、ミチル&ナイチンゲールのGood End、紅葉のGood Endの爽やかさは三者三様で素晴らしい。BadとNormalで見たかった結末をすべて抑えてくるのは流石NS作品。3つのGood Endを同時に発生させられないのが少しだけ残念。

  • キャラクターの関係性が絶妙
    紅葉の考えに少しずつ感化されていくゴズメズ、ロサ、ミチル。束の間だけれど幸せな時間であり、この時間が後の彼らの決断に影響を与えていくシナリオがとても良い。ナイチンゲールとドクター、チルチルとミチルの似た背景を持つ二組の対比も絶妙で、この2組のGood Endはテーマ的に完璧。楓だけは変わらない存在だが、そこがまた良い。紅葉と長い付き合いの相棒だからこそ変わらずにいてくれて、BAD ENDでの独白が切なくて涙を誘う。

  • BGMが良い
    いつも素敵なBGMを持ってくるNSさん。タイトルの寂しげなBGMや戦闘シーンでの緊迫感あふれるBGM、Endの朗らかなBGMが特に印象的。

個別


  • 紅葉
    皮膚が尖って硬化していく尖突癬の患者で、大国主神家の当主。大国主神家が延命装置を所有していたため取り返そうとするが、自分で使うつもりは無い。
    本来は呉葉という名前で次期当主もみじの護衛だったが、彼が殺害されてしまったことで次期当主になった。もう二度と、誰かの勝手な思いで誰かを死なせないための誓いとして、紅葉の名を名乗っている。
    誰であれ殺したくないし、殺されないようにしたい。死者のために生きないで欲しい、という信念がはっきりしていて、ゴズメズには自分の意志で生きること、ロサには命を大切にすること、ミチルには病への向き合い方で多大な影響を与えていて、彼の戦いが実を結んでいく流れが本当に素敵。楓といるときの子供らしさや、死にたくないと泣くナイチンゲールに激昂するシーンも印象的。
    Good Endの「今日は素晴らしく良い陽気で、死ぬにはもってこいの日」というセリフが、とても爽やかで印象的。


  • 人間並みの言語能力と知能を持つ、紅葉の盲導をしている鶏。
    紅葉とは長い付き合いで、彼の内面を把握している兄貴分のような役割。変わらずに紅葉のそばにいるからこその安心感がとても素敵で、軽い掛け合いも軽快。
    Bad Endでの楓がとても素敵で、紅葉を誇りに思う彼が最後に締めくくる独白がとても切なくて印象的。

  • ゴズメズ
    あの世界で数少ない健康な人間。
    誰も何も突っ込みを入れないメイド服が印象的。自分の意志をあまり見せないが優秀な傭兵だった彼が、自分の意志で紅葉を守りたいと大国主神家の門を守る戦いがとても印象的。誰も殺さず、声を張り上げて戦う彼がとても格好良い。ロサEndとGood Endの好青年ぶりも印象的。

  • ロサ
    体が樹木になっていく薔薇病の患者。死なないためにという意識が強く、死なないために延命装置を狙う。
    作品の癒やし枠と言える可愛いキャラで、清々しいまでの図太さが癖になる。
    大事にされたかった彼が屋敷の中で居場所を見つけていく流れは微笑ましくて、紅葉とお茶会をすることなく死んでしまったのは切なかった。死後も紅茶店の店主に薔薇の木として大事にされていて、報われたかな、と思える終わり方がとても素敵。

  • チルチル&ミチル
    正気を失う発熱、血の変色と骨格の歪み、気が狂う発作を起こす悪魔熱の患者。チルチルは兄で、ミチルが弟。チルチルを助けるために、ミチルが延命装置を狙う。
    チルチルは言語能力を失っているが、それでも最後までミチルを守り続け、最後に優しい目を見せるシーンがとても好き。彼がしゃべるシーンは回想シーンぐらいだが、そこだけでもわかる良い兄ぶりがとても印象的。
    ミチルはキーキャラクター。兄を殺された復讐をするか、誰も殺さない生き方を選ぶか。ここでGood Endを選んだときの、紅葉の戦いが実を結んだ流れがとても好き。ドクターの頭を撫でて人の温かさを思い出させ、自分の人生を幸せだったと締めくくる。まさしくこの物語のテーマじゃないかと思えるような綺麗な終わり方だと思う。Bad Endを選んだときの、復讐が連鎖してしまったやるせなさもたまらない。

  • ナイチンゲール&ドクター
    関節が180度曲がる無関節症のナイチンゲールと、心臓以外の機能が停止する亡骸症候群のドクター。二人は幼馴染で、研究所によって度重なる人体実験を受けている。ドクターの機能停止した体を維持している機械が耐用年数を超えているため、彼が幸せになれるように延命装置を狙う。
    ナイチンゲールは本当に恐ろしい。迷わず殺しに来る冷たさと武器がチェーンソーという禍々しさ。紅葉との戦闘シーンがとても印象的で、あれだけ恐ろしかった彼が最後に死にたくない、と泣く姿がとても哀れ。戦場を経験して心が麻痺し、ドクターのためという理由で虐殺を行ってしまう彼はとても不憫。彼だけはGood/Bad Endの両方で救いがないから切ない。
    ドクターはGood Endで一気に株が上がるキャラクター。それまでは人体実験で精神退行してしまった可愛そうな人という印象。Good Endではナイチンゲールの分も罪を背負うから、彼を許してあげてほしい、とミチルに問いかける。ナイチンゲールが優しかったという彼の本質が出るシーンがとても印象的。ミチルの手が触れたときに人の温かさを思い出させてくれてありがとう、というシーンも印象的で、異常発熱を伴うミチルの手が、ドクターにとって最後の救いになるこの流れがとても素敵。