来舞 来夢~BEAT OF AUDITION~

概要

来舞 来夢~BEAT OF AUDITION~はジャパンコーポレーションによるミュージカル作品。建築・不動産業を主業としている企業だが、ミュージカル制作も行っており、本作もその一つ。脚本は鈴木智晴さん。
18年前に上演されたミュージカル作品『声にならない』の再演に向けたオーディションを舞台とした作品である。

感想のまとめ

キャストの熱量が伝わってくるような作品で、そのエネルギーで作品に引き込まれていった。
特に、金城アオイ役の留依まきせさんのムードを一変させる歌とダンス、SAE 役の Ann Bluu さんの表情豊かなダンス、朝比奈賢作役の添田翔太さんの繊細な演技が印象的だった。
メインストーリーは綺麗にまとまっており余韻は良い。一方で、いくつかの要素がチグハグに感じられた点も残った。

以下ネタバレ注意

感想

  • キャストのエネルギーが凄い
    最前列で観劇できたこともあり、キャストの熱量がダイレクトに伝わってきた。歌やダンスの見せ場が多く、舞台サイズに対して出演者数が多めなこともあって、嬉しい意味で「目が足りない」状態だった。キャストの熱量を通じて作品世界に引き込まれていくタイプの舞台だった。

  • 留依まきせさんの歌やダンス、演技が良い
    留依まきせさんは金城アオイ役で、確かな技量を誇るムードメーカーという役どころ。 PASSIONISTA Vol.3 以来の歌、宝塚宙組の シャーロック・ホームズ 以来の演技を、本作で観ることができた。 歌やダンス、演技のどれも素晴らしかった。暗い雰囲気を一気に明るく変えるナンバーが特に素敵だった。メインでないときの小芝居も多く、金城アオイという人物像が行動から伝わってきた。

  • Ann Bluu さんの歌とダンスが良い
    目を引かれることが多かったのが、SAE 役の Ann Bluu さん。ダンス選考後も踊りを続けるほどのダンス好きなキャラクター。表情豊かなダンスが印象的で、ダンサーな役者さんかと思いきや、歌も素敵だった。

  • 添田翔太さんの繊細な演技
    席から近かったこともあり、朝比奈賢作役の添田翔太さんの繊細な演技も印象に残った。最初は一歩引いた大人の立ち位置だと思ったが、プロデューサーの息子としてオーディションの参加者を観察していたと分かって納得した。さり気なく周囲を見ていたその演技は、派手さはないが役柄をさり気なく伝えてくれる繊細な演技だった。

  • メインテーマはすっきりと終わる作品
    オーディションを通じて、過去のトラウマやPTSD、前回公演への過剰なこだわりなど「過去に囚われていたメンバー」が、過去と現在に向き合い前を向くというストーリーだった。この軸は綺麗にまとまっていて、観劇後の余韻は良かった。

  • チグハグな要素は多め
    面白い作品ではあったが、チグハグな印象も受ける作品だった。
    1-PTSDの夏葉ことりが「話せない女性」を演じる場面
    PTSDで歌えない夏葉ことりが、話すことのできないメインキャラを演じる場面があった。相手を慮って必死に声を飲み込もうとする演技が上手くできず、演出家の桐生が数回リトライをさせる。するとオーディションの仲間の篠原たちが「このままでは彼女が壊れてしまう」と止めようとする。
    しかし、話せない演技は歌よりも負荷が小さいはずで、数回の演技指導で壊れる心配をされる役者は厳しいのでは?と感じてしまった。
    2-桐生と篠原の関係性
    かつて二人で組んでいたはずの、演出家の桐生恒一と主役の篠原ひかりの関係性が薄く思えた。話が進むにつれ、そんなことも話し合っていなかったのかと思うようになり、二人の関係性がピンとこなかった。桐生役の草野さんも篠原役の白峰さんも、歌もダンスも演技も素敵だっただけに残念だった。

  • イメージしにくい「声にならない」と「白百合千鶴」
    ・謎が多い18年前の公演
    多くの人を魅了した「声にならない」という作品や、本作で引退した「白百合千鶴」について、内容がほとんど語られなかった。あえて語らず、想像に任せる戦略もなくはないと思ったが、断片的に見えた情報が逆にノイズになる要素もあった。
    「声にならない」は、リテイクの場面で使い倒すには勿体ないほど面白そうだったので、ラストシーンだけでも全容が見たかった。同性だが互いを想っていた看護師と話せない患者。別れの場面で想いを吐露する看護師と、彼女を破滅させないために必死に声を飲み込もうとする患者。この設定だけでも面白そうだった。
    「声にならない」の情報が断片的に見えたことで、あの繊細そうな作品の出演者をこのオーディションで見極めるのか?というノイズを感じてしまった。

  • 我儘だが歌詞情報が欲しかった
    パンフレットは写真とコメントがガッツリと載っていて嬉しかった。さらに我儘を言えば、後々振り返るために楽曲の歌詞情報を一部でも載せてほしかった。これはかなりの我儘な自覚はあるので、強くは主張できないと自覚している。