シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!- / Délicieux 感想
―予備知識なしでも楽しめるエンターテインメント作品―

概要


シャーロック・ホームズ-The Game Is Afoot!-は生田大和先生の作・演出による作品。シャーロック・ホームズをモチーフにしたオリジナルシナリオで、ホームズ、モリアーティ教授、アイリーンにスポットを当てた作品。
Délicieuxは野口幸作先生によるレビューで、パリのパティシエをモチーフにした作品。

感想のまとめ


シャーロック・ホームズは予備知識無しでも楽しめる、エンターテインメント性に優れた作品。初見に優しく配慮された作品で、オリジナルストーリーや独自の演出による予想外な要素も楽しめる作品になっている。
Délicieuxは華やかさを全面に出したレビュー。いろいろな人が歌ったり銀橋に並んだりと、多くの人に見せ場のある作品。品のないシーンが2箇所ほどある点だけが残念。
少し社会性が高めでクールな格好良さが際立っているホームズを演じた真風さん、持ち前の華やかさ全開でアイリーンを演じた潤花さん、攻めつつもカリスマ性抜群の役作りでモリアーティ教授を演じた芹香さん、ショーでの歌・銀橋などでのパフォーマンスが素敵な留依さんがお気に入り。

以下ネタバレ注意

感想


【全体】

シャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズは遠い昔に2冊程度読んだだけで、後は一般教養程度しか把握していない視点での感想。

  •  エンターテインメント性を重視した面白さ
    オリジナルストーリーで勝負したこの作品、推理小説の性質が薄く、代わりに娯楽作品としての色が強く出ている。悪役幹部登場シーンを漫画チックに表現するなど、観客に合わせて受けやすく調整している印象。ライヘンバッハの滝まで盛り込まれているので、このシーンか!という楽しみ方もできる作品。

  • 予想よりも攻めた脚本
    モチーフがあのシャーロック・ホームズなので手堅く来るかと思いきや、生田先生は思ったよりも攻めてきた印象。オリジナルストーリーやモリアーティ教授の人物像なので変化球を入れてくるので、予想外な要素も楽しめる作品だった。

  • 初見にも優しい脚本
    推理小説要素が薄いこともあり、初見にかなり優しい作品。時代背景やモリアーティ教授たちの意図もハッキリ説明してくれるので、予備知識が一切なくても安心の作品。華やかさと爽快さ、そこにロマンスが程よく合わさっているので宝塚やホームズが初見でも楽しめる作品。

  • 最後まで目を離せない演出
    伏線に伏線を重ねた作品ではなかったが、クライマックスまで目を離せない演出は生田先生らしい。ホームズとアイリーンが列車に乗り込んだ後に車掌の帽子を取り、素顔を見せるモリアーティ教授。そこでオリジナル要素を出すのか、と思わずニヤリとしてしまう演出。
  • 一点だけ気になる台詞回し
    ブルーレイで再視聴したときにも強烈な違和感を残したのが、「超弩級潜水艦ドレッドノート」。世界観の作り込みがとても上手な生田先生だけに、この表現がとても残念。「超弩級」は後の時代に登場する戦艦ドレッドノートに由来するので、非常に気になる表現。超弩級という言葉自体は慣用句的に使うが、潜水艦の名前のせいで嫌でも語源が頭をよぎるフレーズ。

Délicieux

  • とにかく華やかなレビュー
    舞台機構、衣装、ダンス、メンバーのすべてが華やか。目まぐるしく移ろっていく舞台と色とりどりの洋菓子はまさに花の都・パリをモチーフにしたレビューにピッタリ。見ていて楽しく、見応え十分のレビュー。

  • 色んな人に見せ場が多いレビュー
    留依蒔世さんの歌唱シーンがとても多かった印象で、振り返ると多くの人が歌ったり銀橋に並んだりと見せ場があるショーだった。多くの人に見せ場を作りつつも歌唱シーンが安定して素晴らしく、歌唱力に優れたメンバーを多く擁する宙組ならではのレビュー。

  • ただただ品のないシーンは残念
    華やかで美しいレビューだったが、2箇所だけ品のないシーンが存在して残念。前者はマリー・アントワネットをモチーフにしたシーンで、終盤の品の無さに少しびっくり。これだけなら乗り切れたが、更に爆弾があって驚き。後者のシーンは背徳感や淫靡さ漂う妖しさがあるわけでもなく、ただただ下品でドン引き。そのシーンの歌はとても良かったので、非常に残念。今まで見たショーの中では間違いなくワーストに入る演出で、その後数シーンの印象が薄れてしまう程度にはトラウマ。

【個別】

  • 真風さん (ホームズ)
    真風さんのカラーなのか社会性が高めのホームズ。少し癖の強い程度でマイルドな分、影のあるクールな格好良さが際立っている。自分のイメージは結構アレな人だったので、この方向性は意図したものだろう。ワトスンたちと掛け合う時のコミカルさ、中盤での影のある男ぶり、クライマックスで新たな生き方を進んでいく時の爽やかの演じ分けがとても素敵で、特にクライマックスでの格好良さは必見。歌も抜群の安定感で、潤花さんを今後も引っ張っていってくれるであろう安心感。ショーでの華やかさも素晴らしく、ビジュアル・歌・ダンスのすべてがとても映えていて素敵だった。

  • 潤花さん (アイリーン)
    雪組で好きだった潤花さんがトップ娘役をしている姿に思わず感動した。持ち前の目を引く華やかさや良く通る声がアイリーンの役に合っていて素敵。ショーでも得意のダンスがとても良く映えていて、雪組で期待された持ち味を宙組でも見せてくれてよかった。歌唱シーンはデュエットでも少し弱めで、そもそも歌唱シーンがかなり少なかったのが気がかり。宙組は歌唱力に優れた人が多いのでカバーする方針かもしれない。歌唱、特に高音での歌唱に磨きをかけて、潤花さんは歌も凄いと言われる娘役になって欲しい。

  • 芹香さん (モリアーティ教授)
    かなり攻めたモリアーティ教授像がとても新鮮。無邪気さの裏に見え隠れする冷酷さがとても魅力的で、変化球だがまさにカリスマ。無邪気そうに見えて神経質な面もあり、教授というイメージもピッタリ。クライマックスでホームズたちを見送った後に素顔を見せるシーンがまた素敵で、次の戦いを予感させる表情がとても良かった。芝居もショーも抜群の安定感と華で、真風さん・芹香さんが揃っている宙組はどんな作品でも抜群の完成度になるだろうという安心感がある。

  • 桜木さん (ワトスン)
    爽やかな好青年といった人物像で、あのホームズと仲良くできるのも納得の好青年ぶり。エル・ハポンでの拗らせた役が印象に残っていたので、真逆の好青年も似合う幅の広さが印象的。

  • 和希さん (レストレード警部)
    雪組移籍が決まっていたので注目していた和希さん。これは雪組でも大活躍間違いなしの素晴らしさだった。レストレード警部の男らしさがとても素敵で、少し渋めな刑事ぶりがとても良かった。歌もダンスも上手で、特に歌の安定感が抜群に良かった。

  • 留依さん (グレグスン警部)
    宙組を観る時には楽しみにしていたが、今回はショーでの出番が多めで大満足。歌唱シーンは聞き心地が良い抜群の歌唱力で、歌う時の表情もとても素敵。銀橋などで並んだ時のサービス精神旺盛なところも素敵で、ワチャワチャと色々なアクションや表情を見せてくれるので、ずっと見ていたくなる男役。

  • 天彩さん (メアリー)
    ワトスンの婚約者で、察しの良さそうな振る舞い方がとても印象的。アイリーンに考えなしに声をかけたわけではなく、事情があることを察しつつも追求しない優しさを感じさせる接し方がとても印象的で、ワトスンは良い婚約者を見つけたなぁと思わせる素晴らしさ。

  • 遥羽さん (ハドスン夫人)
    シャーロック・ホームズといえばハドスン夫人。どこか周りと雰囲気が異なり、事件と無関係ゆえの普通さが印象的。平和なシーンを象徴するようなハドスン夫人ぶりが素敵だった。