概要
オネーギンはロシアのプーシキンによる小説で、植田景子先生の演出・脚本による作品。
ロシアの貴族オネーギンはタチヤーナの恋心を無下に断るが、何年か後に再会した際に彼はタチヤーナへの恋に落ちてしまう。情熱的にのめり込んでいくオネーギンだが、彼の恋は実ること無く終わりを迎える。
感想のまとめ
植田先生の大胆なアレンジが最大の特徴で、それを好きになれるかが肝。個人的には中盤での掛け合いがとても素晴らしいが、原作最後のシーンのインパクトが薄くなってしまっているのが残念。台詞の掛け合いや表情・仕草の変化を楽しめる作品で、終盤へ向かうにつれて面白さが増していくタイプ。豪華メンバーを中心に歌唱シーンも素晴らしく、大作感を楽しむことができる。
抜群のビジュアルと厭世観や焦がれるような恋の表現がとても素敵だった轟さんのオネーギン、内に秘めた熱い情熱の見せ方がとても素敵な緒月さんの革命思想家、オネーギンとの腐れ縁の見せ方がとても上手な涼花さんのニーナ、輝かしい青春を生きることで現在のオネーギンとの対比が際立つ彩凪さんの若きオネーギンが特にお気に入り。
以下ネタバレ注意
感想
【全般】
- 大胆なアレンジを施した作品
本作の最大の特徴はオネーギンをベースに別物に作り変えた、植田先生の大胆なアレンジだろう。オネーギンが革命家たちとの交流を通じて人生を捧げるに値するものを見出し、最後は革命に身を投じるというストーリーはかなり大胆な変更。これを好きになれるかがこの作品の肝だろう。オネーギンのエピソードを大幅に増やし、プーシキンを名も無き革命思想家として物語に直接登場させる演出は宝塚版ゆえのものだろう。個人的には第二幕のオデッサでの交流が秀逸で、第一幕と同じメンバーの変化を感じさせる会話が素晴らしい。
一方でふさぎの虫だったオネーギンが交流を通じて変化し、革命に身を投じる結末は個人的には微妙。厭世的でふさぎの虫だった彼が唯一情熱を燃やした、タチヤーナへの遅すぎる恋が薄く思えた。タチヤーナがオネーギンを拒絶するシーンも優しすぎて、インパクトが弱いのも残念。
[好きなアレンジ]
オネーギン、ニーナ、革命思想家の掛け合い
プーシキン名も無き革命家として物語に登場させる手法
叔父や革命家たちとのエピソードを補強した脚本
若き日のオネーギンと現在のオネーギンを交錯させるような演出
[好みではないアレンジ]
オネーギンが革命に身を投じる結末
タチヤーナがオネーギンを拒絶するシーンのインパクトが弱い点 - 掛け合いの良さを楽しむことのできる作品
ド派手な作品ではない分、登場人物同士の掛け合いをじっくりと楽しむことのできる作品。思想の違いや年月による変化、変わらぬ愛や友情など、表情やセリフのちょっとした変化に引き込まれていく。終盤に向かうに従って、どんどん面白くなっていく作品だった。 - 豪華メンバーによる贅沢な歌唱シーン
別箱作品にしてはかなり歌の多い本作。専科の轟さん、美穂さん、一樹さん、雪組の緒月さん、奏乃さんを中心に歌唱シーンが良い。なかなか観ることのできない豪華メンバーによる歌唱シーンは、大作感を十分に感じさせる程に素晴らしい。
【個別】
- オネーギン (轟さん)
第一幕の冷たく厭世的な態度が第二幕で氷解していき、タチヤーナへの恋に身を焦がしていくさまがとても素敵。塞ぎの虫だった彼がすべてを捧げる愛を見つけた時の衝撃と苦しみの表現がとても良かった。心を揺さぶられてしまうタチヤーナとの交流も好きだが、第二幕でのニーナや革命思想家との交流で見せる、自然なやり取りの中で見せる変化も素晴らしい。ビジュアル面も完璧で、端正な顔立ちと厭世的な態度の相性が抜群の第一幕、苦悩する表情と髭がとても素敵な第二幕でどちらのビジュアルもとても素敵だった。 - タチヤーナ (舞羽さん)
前半の少女らしい女性ぶりから、後半での公爵夫人としての気品ある佇まいへの変化がとても素敵だった。タチヤーナのエピソードが大幅に削られてしまった本作だが、その空白部分を見たくなるような素敵なタチヤーナだった。オネーギンを拒絶するシーンが少し優しすぎる気がしたが、宝塚らしくあるための演出なのかもしれない。 - ワシーリィ (一樹さん)
頑固者可と思いきや寛容さも持ち合わせた達観した人物で、この人生観を出せるのは流石一樹さん。人生の終わりが近いからこその、優しさと諭す気持ちの詰まった歌がとても素敵だった。 - マリーヤ (美穂さん)
貴族らしい気品と母親としての愛情の見せ方がとても素敵。出番は少なめで贅沢な起用だが、愛情深い人だなぁとしみじみ思うような演技がとても良かった。 - セルゲイ/コンスタンチン (奏乃さん)
コンスタンチンの人望がありそうな言動や表情、セルゲイの安堵できる振る舞いのどちらも素敵。礼儀の中に温かさを感じさせる振る舞いがとても素敵で、オネーギンが帰ってきたという実感させるタイプの使用人だった。 - レンスキー (彩那さん)
美しい理想に生きているけれど、どうあっても上手く生きることはできなそうな生き様がとても素敵だった。優しさと神経質さのバランスが良かったのが印象的。オネーギンに決闘を挑む前に酒を呷り、勢いで最後の一線を踏み越えているシーンがとても哀れで好きなシーン。フィナーレのダンスでとても華があって格好良かったのも印象的。 - ニーナ (涼花さん)
オネーギンと腐れ縁という美味しい役で、さり気なく見せる気遣いがとても素敵だった。オネーギンの内面がよく見えていて、彼自身が気づかぬ変化に気づいてしまう。そんなシーンが随所に出ていて良かった。一番好きなシーンは第二幕でのオネーギンとの掛け合いで、オネーギンとの思い出を美しい過去の記憶として振り返っている時の表情。思い出とともに歩んできたニーナと、それを理解したオネーギンのやりとりがとても素敵なシーン。 - 革命思想家 (緒月さん)
塞ぎの虫であるオネーギンの心に革命の炎を灯すのも納得の男ぶりがとても素敵だった。人々を惹きつける理想に燃える内面と、一線を越えずに踏みとどまる理性とのバランスが絶妙だった。貴族革命の強行を止める際のカリスマ性がとても素敵で、革命を踏みとどまるのもの納得のとても素晴らしいシーンだった。緒月さんはロミオとジュリエットのティボルト役でも直情型が似合いそうな印象だったが、真っ直ぐさの光るこの役がとても合っていて良かった。 - 若きオネーギン (彩凪さん)
彩凪さんのキラッキラしたオーラが若き日のオネーギンを輝かせてみせるのがとても良い。素晴らしき青春の中にいる情熱的な若きオネーギンと、青春を過ぎて厭世的になった現在のオネーギン。二人の対比が文学的でとても素敵だった。彩凪さんも轟さんも綺麗に踊るタイプなので、ダンスの相性が良かったのも印象的。 - 召使い (久城さん)
ちょこちょこ出番があるけれど、タチヤーナに焦がれるオネーギンとの掛け合いが印象的。塞ぎの虫だった時期のオネーギンの言動を口に出すからこそ、今のオネーギンがいかに変化したかを感じられて好きなシーン。