水葬銀貨のイストリア 感想
―TRUEとBADが良い―

概要


紙の上の魔法使い」で脚光を浴びたウグイスカグラの2作目。
舞台は人魚姫の伝説が語り継がれている人工海上都市のアメマドイ。野望と陰謀が影で渦巻くこの街を舞台にした物語で、ポーカーがキーアイテム。キャッチコピーは「―ハッピーエンドを、約束しよう」。

感想のまとめ


伏線回収と終盤の盛り上がりが凄いシナリオゲー。個別ENDはかなり微妙だが、TRUEとBAD ENDの完成度がピカイチ。人魚姫、ポーカーなどの設定を巧みに使ってシナリオを盛り上げている。キャラクターは茅ヶ崎征士の悪役ぶりがピカイチ。あまりに多すぎる誤字、TRUEと比べて弱すぎる個別END、テンポの悪い文章がネック。前作「紙の上の魔法使い」を楽しめたユーザーならばこの作品も楽しめるはず。

 

以下ネタバレ注意

発売当初にプレイ済みなので、感想は再プレイ時のもの。

 

良かった点


  • 盛り上がるTRUE END
    TRUEに全てを賭けているタイプのシナリオ。様々な伏線とともに明らかになる真相、アクセント代わりの叙述トリック、不幸を乗り越えていく盛り上がりは流石の一言。

  • 伏線回収が上手い
    前作での強みは本作でも健在。短期間で回収するものと後半で回収するものを巧みに使い分け、シナリオの厚みを出している。英士と紅葉のシーンで強調されている香り、C・Aがあっさりと負ける理由など、気になる点を拾ってくれるのがとても良い。

  • BAD ENDは素晴らしい
    個別ENDはかなり微妙だが、BAD ENDは素晴らしい。これでもかとエグい展開を詰め込んだシナリオは恐ろしいまでの完成度。自分が自殺に追い込んだC・Aが実は英士だったと知った時、小夜はどうなるか。征士じゃなくても未来の不幸を見たくなる完璧なルート。

  • 人魚姫の設定が良い
    他人のために癒やしの涙を流す人魚姫。絵面が美しいだけでなく、凄惨な過去を持つ英士の心が折れない説得力、紫子が人魚姫だと発覚したときのインパクト、英士が紫子のために涙を流すシナリオの山場など、人魚姫の設定をシナリオで巧みに活かしている。

  • 征士の悪役ぶりが凄い
    全セリフが楽しみだったのが悪役の征士。作中の全てのヘイトを集める外道ぶりが最高で、人の神経を逆なでする声と酷薄な声の使い分けがとても素敵。最期までブレることのない外道なのも良い点で、一番好きなキャラ。

  • BGMが良い
    前作同様BGMが良い。落ち着いた曲調を中心に明るめの曲から寂しげな曲までレパートリーが豊富で、気持ちが滅入ってくるシナリオに対する癒やしになっている。

  • 幻想的なシーンのスチルが素敵
    絵はあまり安定していないが、花火のシーンや水底に沈む紫子のスチルが幻想的で綺麗。バットを持つ茅ヶ崎兄妹など、不穏なスチルも良かったのが印象的。

  • システム面が少し良くなった
    最弱クラスだったシステム面が少し良くなった。OPが増え、ポーカーの演出も入るようになって、ゲームとしてワンランク上がったウグイスカグラになった。

 

悪かった点


  • 完成度は3作目以上1作目未満
    テーマ選びが完成度に直結するタイプのライターという印象がついた作品。シナリオゲーとして良い作品だとは思うが、前作ほどの完成度も次回作への期待も持てなかった作品。

  • 薄すぎる個別END
    前作は途中下車形式で目立たなかったが、本作では個別ENDの薄さがかなり気になる。紅葉や灯がちゃんと大人をしている点ぐらいしか良い点がない。サブキャラの掘り下げを中心に行うが、個別ENDでやる内容かと言うと微妙。一人を見捨てた果てに幸福はないというテーマだったのかもしれないが、かなり薄い。次回作にもこの傾向が引き継がれ、TRUE一極集中が固定化されてしまったので残念。
  • 不幸を重ねすぎてテンポが悪い
    シナリオは次々と新しい不幸を出し、不幸によって物語のリズムを作っていく。沈んだ分だけ最後の感動は大きくなるが、ここまで繰り返されるとテンポが悪い。
  • ポーカーを活かしきれたかは微妙
    盛り上げやすくて回想を挟みやすい静的なギミックで、ライターとの相性も比較的良いが、思ったより活きてこなかった。誤字のせいで盤面が怪しく思える点、クリア後に振り返ると殆どの勝負でイカサマを疑ってしまう点、熱い勝負というよりはギャンブル中毒のように見えてしまった点が残念。

  • 最後の勝負が微妙
    紅葉との最後の勝負が微妙。一番盛り上がる山場であっさり勝たせてしまったせいで、再戦の消化試合感が強い。ギャンブルなのでそんなものかもしれないが、ギャンブル狂いの二人を一歩引いて見ているような、盛り上がりに欠ける展開。

  • 誤字がとても多い
    前作同様で誤字がとても多い。日本語のおかしいところも随所にあって読みにくい。前作最大の弱点を全く改善できていない点はとても残念。誤字ではないが、行為中の「逝く」もかなり気になる。

  • 紅葉の扱いが微妙
    黒幕でありラスボスの紅葉だが、TRUEではかなり微妙。紅葉へのヘイトを集めないために征士を実行犯に設定したのだろうが、そのせいで凄みが薄い。最終戦でも小者ぶりが出てしまっていて、個別ENDのほうが良いキャラだった。

 

キャラクター


  • 英士
    地獄のような不幸を背負った主人公。多くの人魚姫に救われた彼が、紫子へ涙を返すシーンがとても素敵。メンタルが強すぎてどこかおかしいと思っていたが、人魚姫の涙で救われていたからなのは納得の設定。意外と熱い性格をしているところも良いキャラ。

  • 小夜
    正統派と思いきや、英士への依存が実は狂言という変化球タイプのヒロイン。涙は流せないが玖々里のために紫子の前に立ちふさがるシーンなど、精一杯の強さを見せるシーンが良い。C・Aへの復讐を遂げるシーンでの冷たい声色がとても良い。

  • 玖々里
    正妻系ヒロイン。英士を信じ続ける心の強さと涙を流すシーンの美しさが魅力的。不器用ながらも少しずつ英士たちと距離を縮めていく姿は、思わず応援したくなる可愛らしさ。

  • 夕桜
    ハイテンションからのギャップが強烈なキャラ。征士への冷たい殺意に満ちた「死ね」のセリフや、バットを持ったスチルがとても素敵。

  • ゆるぎ
    主人公補正のないヒーローキャラ。初対面ではヤバい奴だったが、意外と常識人。後輩らしい可愛さと、ムードを明るくするキャラが好き。過去の失敗を繰り返さないように、自分の正義を決して諦めない眩しさがとても素敵。

  • 紅葉
    諸悪の根源で黒幕……だがキャラが微妙。前作の反省で実行犯を征士にした結果、ヘイトも凄みも薄くなった印象。個別ENDでは心強い味方だが、TRUEでは最終決戦の初戦であっさり負けるなどかなり小物に。精算も反省もしないENDもすっきりせず、中盤までの印象からは少しガッカリ。


  • 可愛くて有能と思いきや、味方になると頼りない。個別ENDで有能ぶりを見せていただけに、TRUEで紫子との因縁が発覚した後の迷いぶりが残念。

  • 紫子
    まさかのTRUEでのヒロイン。英士が彼女のために泣くとは、序盤の悪役ぶりからは想像できなかった。悪役ぶりを見せてから凄惨な過去が明らかになるので、悲劇のヒロインぶりが際立っていた。優しさや弱さの残った声が素敵で、後半のヒロインぶりがとても良かった。

  • 征士
    作中のヘイトを一身に集める外道で、一番好きなキャラ。同情や共感を誘う要素が一切なく、自分の命よりも巻き沿いを増やすことを優先したり、自分を治療してくれた静琉を暴行する悪魔のような行動。不幸の種を撒き、水をやって大輪の花を咲かせる行動は惚れ惚れするようなクズっぷり。BAD ENDでの不幸の集大成ぶりが特に圧巻で、彼が暗躍するであろうアフターを見られないのがとても残念。人の神経を逆なでする軽薄な声と酷薄な声の使い分けも完璧。

  • その他サブキャラ
    祈吏や和奏は個別END用のキャラだろうな、という印象。和奏は平和なシーン担当で和むキャラでゆるい声が素敵で、個別ENDでも綺麗にまとまっている印象。祈吏は美味しいポジションの割に出番が少なめで、個別ENDでも八つ当たり気味な思考が目立つ扱いで残念。