ドグラ・マグラ (映画版) 感想
―怪作を完璧にまとめ上げた傑作―

概要


夢野久作の奇書「ドグラ・マグラ」を映像化した作品。
主人公は大正時代の九州帝国大学医学部精神病科の収監されている記憶喪失の青年。青年の前に現れた医学部教授の若林博士によると、彼の失われた記憶はある重大な事件の鍵を握っているという。青年は記憶の手がかりを探していくうちに、事件の真相を知ることになっていく。

感想のまとめ


複雑怪奇な原作の雰囲気を保ったまま、これ以上無くわかりやすくまとめ上げている傑作。あの原作をこれほど完璧に表現できるのか、と衝撃を受けるであろう作品。原作で多くの人が挫折したであろうシーンもテンポ良くまとめている。正木博士を始めとしたキャスト陣も完璧。原作を読んだ人にも、原作を断念した人にもおすすめの作品。

以下ネタバレ注意

感想


  • 原作を見事にまとめあげた傑作
    三大奇書に挙げられるほどの複雑怪奇な怪作の雰囲気を保ったまま、これ以上無くわかりやすくまとめ上げている。狂気の論理がまかり通っている不気味さ、心理遺伝とそれに魅入られた人間の恐ろしさ、物語の結末として美しさすら感じる残酷な真相を知った時の感動を見事に表現している。多くの人が挫折したであろうキチガイ地獄外道祭文もテンポ良く処理しているので、エンターテインメント作品としての完成度も高い。原作を好きな人にも、原作を断念した人にもおすすめの傑作。

  • 役者陣もイメージにピッタリ
    正木博士を始め、キャストも原作のイメージにぴったり合う。特に正木先生の人を食ったような態度と最後に見せた怒りと恐怖は凄まじい。呉一郎も心理遺伝によって現れた狂気がとても不気味で、若林博士の神経質そうな態度も完璧。奇人変人揃いな映画なので褒め言葉になりにくいが、まさに完璧なキャスト陣。

  • キチガイ地獄外道祭文の扱いが凄い
    多くの人が挫折したであろうチャコポコのシーン。原作ではこれを乗り切ったことによる感動もあるが、映画版はここをかなりテンポ良くまとめている。正木博士が陽気に歌うのでさらっと消化でき、しかも内容も頭に残りやすい。

  • 演出が完璧
    細かなところまで丁寧に作られた作品。時計の音で始まって時計の音で終わるループ構造をきちんと再現しているところも完璧。九相図で真相を知るシーンは切ないBGMがとても素敵で、ここからのクライマックスは原作を完璧に再現している。全てのピースが噛み合い、最悪の結末へ駆けていく絶望感を見事に演出している。