鬼ガナクセカイガ魔王
―殺さない選択の素晴らしさ―

概要


Nightmare Syndrome様による作品。
ある化学者があらゆる病気を治す特効薬を発明した。世界に平和が訪れたが、平和な世界では生きていけない医療研究所は絶望していた。彼らが新たに発明したウィルスによって、世界は奇病患者で蔓延してしまった。特効薬を発明した化学者は完全な延命装置を1台発明するも殺害されてしまい、延命装置は闇ルートに流れてしまう。たった一台の延命装置が存在する、奇病が蔓延した世界で生きる末期の奇病患者たちの物語。
ブログでBAROQUEを好きと語っていたためか、どことなくBAROQUEを思い出す世界観。

感想のまとめ


不条理な世界観なのに、爽やかな読後感が素晴らしい作品。緊迫感のある戦闘シーンとお屋敷での穏やかな時間の緩急がとても良い。紅葉の生き方にメンバーが感化されていく流れがとても素敵。ロサとゴズメズがお気に入り。

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シジミ少年の秀逸な死
―「死ぬなら今日、ということか。」―

概要


「Nightmare Syndrome」 (以下NS) の作品で、臨死体験ADV。
自動車が現れ始め、土葬から火葬へ移りつつある時代の田舎を舞台とした作品。
主人公・しじみの通う学級では、「死にたいから死にます。許してください。許さないで下さい。」と書き残し突然自殺した生徒をきっかけに、同級生たち、さらには先生まで自殺してしまう。死が伝染してしまったこの学級は、明日から学級閉鎖することが決められた。「死ぬなら今日、ということか。」そんなことを呟く親友・団八たちと過ごす、学級閉鎖前の最後の一日を描いた作品。

感想のまとめ


人を選ぶ作品の極致。作品に漂う死の香りに魅入られると抜けられなくなる雰囲気が素晴らしく、10年以上経った今でも抜け出せない魅力がある。
救い、憧れ、恐怖など様々な側面を持ち、常に傍らにあるけれど隔たりがあり、どこか冷たい死のイメージが絶妙。
団八ルートでの会話シーンからクライマックスへ向かう激しい流れは、NS作品でも屈指の素晴らしさ。

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神捕 (アヤトリ)
―神様との鬼ごっこ―

概要


神様を殺したという不思議な記憶を持つ偉鏡は、彼の願いを叶えに来たという少年・月霞の暮らす村に誘われる。その村には「神様のお声を耳に入れてはならない」「自分の声を神様に聞かれてはならない」「自分の姿を神様に見られてはならない」と3つの禁忌があるという。その村で偉鏡は神様を目撃する。しかしその際に姿を見られた偉鏡と月霞は神様から逃げるため、神様と鬼ごっこをする事になってしまう。同じく禁忌を破ってしまった眞夏と葉雪、花蜜と玉雄という3組のペアの視点から描かれる神様との鬼ごっこ。
「Nightmare Syndrome」 (以下NS) 様の作品。本作はシナリオを委託した作品で、いつものNS作品とはまた違った味のある作品。

感想のまとめ


短いシナリオでコンパクトにまとめ上げられた作品。
作中に漂う神秘的な雰囲気、異形の神様という不気味な要素、終盤の疾走感としんみりと、けれど爽やかに終わる結末がとても良い。

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古色迷宮輪舞曲 感想
―シナリオとギミックが完璧なノベルゲーム―

概要


紅茶専門店「童話の森」でアルバイトをすることになった名波 行人 (ななみゆきと) 。アルバイト初日に店へ届いた不審な木箱を開けると、メルヘンな服に身を包んだサキという少女が現れる。サキは行人に、運命の輪が狂っていると告げる。運命の輪が狂ったままだと行人は一週間後に死ぬことになり、周囲の人物にも不幸が訪れるという。行人は半信半疑ながらも、運命の輪をもとに戻そうと奔走する。
Yatagarasuの18禁ノベルゲームで、ジャンルは「運命操作アドベンチャー」。プレイヤーが適した場面でキーワードを投げかけることで、物語を変化させていく独特のシステムが特徴。

感想のまとめ


ノベルゲーでしか出来ないギミックを活かした、非常に高い完成度のシナリオが素晴らしい作品。いくつもの結末を見た後にたどり着くGood Endは非常に感動的。ギミックをうまく使って描かれたテーマの描き方も完璧。 エロゲでこれほど素晴らしい作品に出会う機会はもうないかもしれないが、この作品に出会えて本当に良かったと思える。

良かった点


【シナリオ・システム】

  • ゲームシステム、フローチャート、シナリオの融合
    キーワードによって物語が変化し、点と点を結ぶように全容が明らかになる物語。ノベルゲーにしかできない、物語のIFを何パターンも体験できるシステムがとても良い。何パターンもの物語を見て、物語を理解していく作りが素晴らしい。

  • Good Endの素晴らしさ
    物語を読み進め、運命を操作してたどり着くGood End。それまでの物語の重さもあり、このゲームをプレイすることが出来て良かったと感動した。

  • テーマに対する答えが心に響く
    狂った運命の輪を戻すために、キーワードを投げかけて運命を変えていく。この「狂った運命の輪を戻す」というテーマに対して、最後に得られた答えが本当に素晴らしい。

  • 予想を遥かに超えていく物語
    キーワードによって物語を変化させていくことで、物語は予想と異なる方向へ変化してく。予想もしなかった展開へ進んでしまう物語を前に、この先どうなってしまうのだろうか、と思いながら読み進める感覚がとても良い。

  • 随所に張り巡らされた伏線
    何気ない日常シーンにも伏線が多く存在する。気づかなくても楽しめるし、気づけば後でそういうことかと納得する。日常シーンも飽きさせない良いシナリオ。

  • 作品の雰囲気
    狂った運命の輪を戻すというテーマなので、死の香りがそこはかとなく漂う。文章、音楽の両方で作られるこの独特の雰囲気が非常に良い。

  • 各章のタイトル
    フローをよく見ることになるため、各章のタイトルを見直すことが多い。ふと見たときにクスッと笑えるタイトルやなるほどと思うようなタイトルが多く、タイトル情報も楽しめる。

  • 紅茶の豆知識が豊富
    紅茶専門店を舞台にしているので、紅茶の入れ方など豆知識が豊富。プレイしていると紅茶を飲みたくなる作品。

【キャラクター】

  • 魅力的なキャラクター
    読み進めていく中キャラクターの魅力がどんどん増してくる。クリアする頃には幸せになってほしいと思える良いキャラクターたちだと思う。

  • 可愛い店長
    童話の森の店長・古宮舞 (まい) が本当に可愛い。重いシナリオの中で、彼女の存在が救いだった。

【絵】

  • 所々で印象的なイラスト
    イラストが売りの作品とは思わないが、所々で印象的でイラストがあるのが良い。サキの服のデザインや、ゾッとするシーンのイラストが特に好き。

【音楽】

  • 聞き心地の良い音楽
    落ち着いているけれどどこか寂しい音楽が多く、聞いていて心地よい。何回も耳にする音楽も多いが、物語の雰囲気と凄く合っていると思う。

人を選ぶ点


【シナリオ・システム】

  • キーワードがわかりにくい
    キーワードは名詞の割合が高く、ピンとこないものも多かった。キーワードをぼかした例だと、パスタを食べる場面で「パスタ」を選ぶ必要があり、「食べる」がキーワードにないことがある。難しくはないが、若干のやりにくさを感じる。

  • ノベルゲームに慣れていないと大変かも
    システムが独特なので、ノベルゲームというシステム自体に慣れていないと二重の苦しみを背負うリスクがある。何作かノベルゲーをプレイした後がオススメ。

  • 独自性や目新しさを重視する人とは相性が悪いかも
    最大の強みはシステム・シナリオ全体の完成度なので、システムの独自性や目新しさを重視する人とは相性が悪いかもしれない。他でも存在するシステムもあるようだが、それらをうまく昇華させたのがこの作品の売りだと思う。

【キャラクター】

  • 共感することが難しそうなキャラクター
    これは好みの問題。私は共感できることを重視せず、理解できるかが重要というスタンス。ただキャラクターに共感してなんぼという人とは相性が悪いと思う。良くも悪くも極端な思考のキャラクターが多く、どれだけ心情を描写されても理解はできても共感はできないかもしれない。

【絵】

  • 絵が不安定
    複数担当なのか絵がかなり不安定。絵が命という人にはネックかも知れない。

以下はネタバレを含むので注意 “古色迷宮輪舞曲 感想
―シナリオとギミックが完璧なノベルゲーム―” の
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花帰葬 (PC版) 感想
―全ての結末が美しい最高のノベルゲーム―

概要


人が人を殺しすぎると「玄冬 (くろと)」が生まれ、世界は雪に覆われて滅んでしまう。滅びを回避して再び春を迎えるために、救世主が玄冬を倒さなければならない。そんなおとぎ話が伝わる世界を舞台に、記憶をなくした青年・玄冬と旅の同行者を名乗る少年・花白 (はなしろ) を中心に描かれる物語。
HaccaWorksの初作品でPC版に始まりPS2、PSP (PlayStation Store) へ移植された人気作品。PC版はWindows10でも動作可能 (2018年12月確認)。

感想のまとめ


一つの世界をこれほどまでに描いてくれる作品に出会うことはもうないと思える、私にとっての最高傑作。世界観・キャラの心情を完璧に描ききったシナリオ、すべての結末で完成度が凄まじいEnd、世界観とキャラを余すところなく描いたからこそ感動できるGood End、完璧なBGMを誇る傑作。

作品との出会い


Vectorゲームで乙女ゲーを探しているときに見つけた体験版 (リンク) に一目惚れ。PS2、PC、Plus Disc、ドラマCDにのめり込んで早幾年。
10年以上経った今でも、私にとっての最高傑作。

良かった点


【シナリオ・システム】

  • 繊細かつ完成された世界観・シナリオ
    人が人を殺しすぎると「玄冬」が生まれ、世界は滅びてしまう。
    それを回避するためには、救世主が玄冬を倒さなければならない。
    このテーマで描かれる物語は繊細で、いつまでも浸りたくなる世界観。
    この世界観で、物語を完璧に描ききってくれたことに感謝したくなる。

  • テーマに対する答えが素晴らしい
    上でも書いたテーマの描き方は完璧としか言いようがない。
    全14種もの結末はどれも美しい終わり方で、すべてがテーマに対して違った答えを見せてくれる。作品のテーマを真摯にそして美しく描いてくれるシナリオが本当に素晴らしい。

  • 全てのEndにおける完成度の高さ
    全てのEndが刺さり得る、凄まじいとしか言えないEndの完成度。
    全14種のEndがあり、この世界観を心ゆくまで堪能できる。
    最初に見たBAD系のEndは、あまりの完成度にTRUEかと思ったほど。
    プレイすればGood End以外にも心に残るEndが多数あるはず。
    お気に入りは後述のED1、4、6、7、10。

  • ちょうどよい長さのシナリオ
    スキップなしでも2~3時間程度で各Endに到達できるボリューム。
    あのEnd見たいな、と思ったときに再プレイしやすいボリューム。
    各ルートのボリュームが少ないからといって、決して薄くはない。
    各Endを使って世界観を描いたからこその、ボリューム以上の満足感。
  • 会話文だけで描かれる物語
    地の文を使わないで会話だけで進む、戯曲のようなスタイル。
    キャラの心情を追いやすく、世界観にのめり込みやすい。
    地の文はないが、会話や背景から情景は補完できるので安心。

【キャラクター】

  • 登場人物の心情描写が秀逸
    登場人物を絞ったことで、キャラの心情を完璧に描いてくれている。
    堂々巡りも多いが、それが心情描写に一役買っている。
    全てのEndで完成度が高いこともあり、プレイしていく中でキャラの心情を理解していき、全Endを通じて彼らの生き方に感動する。そして彼らの想いを知った上で再プレイすると、前より深く感動することができる。

【音楽】

  • 見ただけで買いたくなるOP
    今見ると技術的に凄くはないが、歌と完璧に調和したOPは凄まじい。
    プレイしなくても一見の価値あり。

【絵】

  • 終わる頃には癖になる絵
    上手くはないが、終わる頃にはこの絵じゃないと駄目だ、思える絵。
    繊細な世界観とものすごく調和した絵だと思う。

その他好きなシーンやキャラクター、テーマの描き方について語り出すと止まれないので、また別の機会に。

人を選ぶ点


特徴の裏返しとも言えるが、人を選ぶ作品ではあると思う。

【シナリオ・システム】

  • 重いシナリオ
    テーマがテーマなので、シナリオが重い。
    明るくみんなで大団円を望む人とは相性が悪い。

【絵】

  • 癖の強い絵
    作風とは合っているが、「絵こそ命」という人とも相性が悪いかも。

以下各Endの感想。ネタバレ注意。

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