ベルサイユのばら (2024年フェルゼン編) ―有終の美を飾るフィナーレ―

概要

ベルサイユのばらは池田理代子先生による漫画を舞台化した作品で、脚本は植田紳爾先生、演出は植田先生と谷正純先生。
原作はフランス革命を描いた群像劇で、少女漫画界の金字塔ともいえる作品。宝塚による舞台化から50周年を迎え、本作はスウェーデン貴族のフェルゼンを主役として描かれている。

感想のまとめ

宝塚のイメージをそのまま実現したような公演で、歌舞伎のような型芝居が特徴的。
彩風さんの退団公演に合わせたフィナーレは、圧巻の仕様。
見せ場がビシッと決まるクラシカルな演じ方や表情や手の動きで語る辛抱役ぶり、最後の最後まで伸びやかで美しいダンスで有終の美を飾った彩風さんのフェルゼン、王妃に見せる表情と見せない表情との使い分けで王妃への愛と国王の苦悩を演じ分けた奏乃さんのルイ16世、真っ直ぐな演じ方が革命に燃える姿に重なる華世さんのベルナールが特にお気に入り。

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Boiled Doyle on the Toil Trail / FROZEN HOLIDAY ―雪組100周年記念のショー作品―

概要

Boiled Doyle on the Toil Trailは生田大和先生による作・演出の作品。コナン・ドイルの前に想像上の人物であるシャーロック・ホームズが現れることで巻き起こされる物語。

FROZEN HOLIDAYは野口幸作先生による作・演出のショー作品。100周年を迎えるFROZEN HOTELを舞台に冬の休暇を描いたショーで、雪組100周年に合わせた作品。

感想のまとめ

Boiled Doyle on the Toil Trailはコミカルさの中にシリアスさも含めた作品で、わかりやすいテーマと明るい作風で親しみやすくなっている。振れ幅の広いドイルを見事に演じていた彩風さんと、名演技が光る奏乃さんが特に素晴らしかった。
FROZEN HOLIDAYはテーマがはっきりしていて、毎年の冬に見たくなる作品。彩風さん最後のショー作品にふさわしく、彩風さんが抜群のショースターぶりを発揮していた。ダンサー揃いの現体制の雪組最後のショー作品でもあり、個性豊かな雪組メンバーのダンスを楽しめる作品でもあった。

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Lilacの夢路 / ジュエル・ド・パリ!! ―新トップコンビお披露目―

概要


Lilacの夢路は謝珠栄先生による作・演出・振り付けの作品。19世紀のプロイセンを舞台に、鉄道産業の発展を目指した5兄弟を描いたファンタジー作品。
ジュエル・ド・パリ!!は藤井大介先生による作・演出の作品。パリの名所と宝石をテーマにしたショー作品。

感想のまとめ


Lilacの夢路は、雪組では久しぶりの正統派作品。鉄道産業に注力する兄弟を軸に、寓話めいたエピソードが散りばめた脚本が特徴。場面の説明を兼ねた華やかなダンスと良曲揃いの楽曲を活かして、舞台機構よりもダンスや歌・大道具や小道具、衣装で勝負している作品。
ジュエル・ド・パリ!!は次の全ツに合わせた構成のショー作品。序盤の盛り上がりが凄まじく、最初から山場になっている。良くも悪くも序盤にピークが来ている感が否めないのが特徴かもしれない。

2023/07/19追記
宝塚歌劇110周年記念公演で雪組のベルサイユのばら フェルゼン編が発表された。ジュエル・ド・パリ!!はこの作品のアピールにもつながるため、非常に緻密な戦略の元で構成されたショー作品だったのだろう。

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【全般】

Lilacの夢路

  • 久しぶりの正統派作品
    彩風さんトップ就任後の大劇場での公演四作品目にして、初めてと言っても過言ではない正統派作品。華やかな洋装、鉄道産業に注力する兄弟にフォーカスしたわかりやすいストーリー、物語を主体的に引っ張っていく主人公、華やかなダンスや印象的な楽曲とまさに王道。

  • あえて群像劇を回避した脚本
    プロイセン初の鉄道産業に注力する兄弟という群像劇になりそうなテーマだが、本作品はあくまで兄弟を中心にした作品だった。壮大な設定で個に注目する脚本は、さながら少女漫画のような世界観だった。

  • 寓話めいたエピソード
    鉄道産業に注力する兄弟たちの物語を軸としつつも、どこか寓話めいた脚本となっている。兄弟の関係性やエリーゼの挫折と新しい道、ディートリンデの高すぎた自尊心など、随所に散りばめられたエピソードによるメッセージ性が強い作品だった。

  • ダンスシーンが効果的
    場面の切り替えにダンスシーンを合わせる演出が効果的で、華やかなだけでなく、場面の雰囲気を掴みやすくなっている。ダンスシーンの裏で小芝居が多いのも特徴で、人物関係が見え隠れするのも面白い。

  • 楽曲が良い
    鉄のテーマを始め、楽曲がどれも良い。一度聞いたら忘れない鉄のテーマや力強い鉄工所のテーマ、美穂さんたちの歌唱力を活かした夢人の歌唱シーンなどどれも素晴らしい。特に夢人として歌ってきた美穂さんが母親のアーニャとして歌うシーンが素晴らしかった。

  • 舞台機構は控えめ
    良く言えば大道具・小道具・衣装やダンスを活かした演出だが、悪く言えば舞台機構が抑えめで地味。大劇場公演だが、そのまま別箱でも上演できそうな演出に感じられた。

ジュエル・ド・パリ

  • 全ツ仕様に合わせたショー作品
    次の全国ツアーで流用することを想定したショー作品だった。宝塚らしい華やかな衣装や正統派の燕尾服を活かした場面、序盤からスターを強調する階段降り、中盤での大人数によるカンカンとショー作品の良さを一通り網羅しているのが強みの作品だろう。

  • 序盤にピークがくる構成
    序盤から階段降りを取り入れた構成で、序盤の盛り上がりが凄まじい。最初のシーンでショーが終わってしまうかのような、出し惜しみのない構成でぐっと世界観に引き込まれた。一方で、良くも悪くも序盤がピークだった感が否めないのも特徴だった。

  • 迫力ある中詰
    中詰では、大人数によるハードで大迫力のカンカンは中盤の見どころ。見せ場の一つではあるのだが、最近のショーでは似た場面が多いこともあり、既視感あるシーンになっている感が否めなかった。

  • デュエットダンスは歌が豪華
    彩風さん・夢白さんによるデュエットダンスは、美穂さんが歌う豪華仕様。情熱的で激しい全コンビのデュエットダンスと比べ、二人のカラーはゆったりとしたものかもしれない。

2023/07/19追記
宝塚歌劇110周年記念公演で雪組のベルサイユのばら フェルゼン編が発表された。ジュエル・ド・パリ!!はこの作品のアピールにもつながるため、非常に緻密な戦略の元で構成されたショー作品だったのだろう。

【個別】

  • 彩風さん (ハインドリヒ)
    物語をグイグイと進めていくパワー、どんな衣装も映える抜群の着こなし、長兄の包容力や貫禄と主役らしい格好良さが全面に出ていた。歌は男役らしい低音域が映えていて、台詞は長尺の説明でも滑舌が明瞭で良かった。行動だけ見ると鉄道事業しか考えていないように見えるハインドリヒだが、ふとした時の表情から彼の内面が伝わってくる点も素晴らしかった。サ行の癖が抑えめだったこともあり、癖のないスマートな主役ぶりが作品に合っていた。

  • 夢白さん (エリーゼ)
    トップ娘役としての大劇場お披露目公演。華やかなビジュアルとよく通る声を活かした、快活な女性ぶりが素敵だった。歌唱シーンは地声のほうが得意なようで、ショーを中心にソロシーンがとても良く映えていた。ダンスもそつがないタイプで、全分野にわたってバランス良く真価を発揮していた。

  • 朝美さん (フランツ)
    衣装の着こなしが抜群に良くなっていて、男役二番手としての代表作かもしれない。今までで一番スタイルの良いスーツ姿が印象的。しゃくりを抑えた歌唱シーンも格好良く、クラシカルな役柄が似合う強みを存分に発揮していた。

  • 美穂さん (夢人 / アーシャ)
    歌で場面を一変させる表現力が素晴らしく、美穂さんの歌を聞けるだけでも大満足の公演。雪組の娘役にも歌の上手な人は何人もいるが、音の響き方がワンランク上に感じられた。魔女らしい歌唱を印象付けたあとで、アントンのことを歌うシーンでの優しい声色がとても印象的。ショーでもデュエットダンスなど、随所でその歌唱力を発揮していて素晴らしかった。

  • 奏乃さん (フンボルト)
    出番はほぼワンシーンだが、そのワンシーンで人となりがわかる演じ方は流石の一言。ショーでの歌唱シーンも印象的で、和希さんが踊るシーンでの歌唱が素晴らしかった。個人的には雪組で一番歌の上手な人だと思っているので、その歌唱力を遺憾なく発揮するシーンがあって大満足。

  • バジナ / イザーク (透真さん)
    酒場の店主とアーシャの叔父という、ガラッと異なる一人二役。押し出しの強いタイプではないが、場面にすっと溶け込む役作りが素晴らしい。同一人物が演じていることを全く感じさせない、動きや喋り方の作り込みが素敵だった。

  • 久城さん (ヴェーバー少佐)
    炎のボレロでも感じたが、嫌味な男を演じさせたらピカイチ。こういった役をノリノリで演じているのが伝わってくるところも好き。ゲオルグに嫌味を言う場面の声色が本当に嫌味っぽくて素敵だった。

  • 和希さん (ゲオルグ)
    バランサーとしての三男役で、軍人役らしいカチッとしたダンスシーンが格好良かった。兄弟での掛け合いも要領の良さを感じさせる様子で、良き兄であり良き弟でもあるバランスの良さが素敵だった。クレオパトラ?に扮したシーンで女性役も演じられる器用さも見事。

  • 天月さん (カール ) / 眞ノ宮さん (ミハエル)
    天月さんは陽気な酔っぱらい、眞ノ宮さんはアントンの兄貴分な様子が小芝居でも楽しめるのが良かった。

  • 野々花さん (ディートリンデ)
    最近の公演では幅広い役を器用に演じていて、今回も社交界での才女ぶりと幼稚なプライドを共存させる演技が素敵だった。フランツから別れを告げられた際の泣き方が、彼女の幼い内面を表しているようで好きだった。

  • 縣さん (アントン)
    鉄工所で可愛がられるのも納得の元気いっぱいな役柄が似合っていた。ダンスシーンでの華がいつもながら素晴らしく、芝居もショーもダンスで魅せる姿が格好良かった。特にショーで若手選抜として出てくる場面が印象的で、エネルギッシュなダンスは雪組でもピカイチ。台詞回しや歌唱には思うところもなくはないが、持ち前の華を活かしてこれからも伸びていって欲しい。

  • 一禾さん (ランドルフ)
    掴んだチャンスで爪痕を残そうと奮闘している印象だった。5兄弟ではスポットが当たりにくい役どころだが、兄を尊敬して弟を可愛がっている小芝居が見どころ。

  • 咲城さん (ヴェックラー)
    軍人らしいカチッとした言動が似合っていた。

  • 華世さん (ヨーゼフ)
    抜擢が続く華世さんだが、期待に見事に応えている印象。演技、歌、ダンスと5兄弟でのシーンでも自然と溶け込んでいて、何より台詞回しが良かった。これだけ台詞回しが良ければ抜擢も続いていくだろうし、今後も楽しみ。

  • 妃華さん / 希良々さん / 有栖さん / 音彩さん (夢人)
    美穂さんと組んで歌うメンバーとして、歌唱力重視の豪華メンバー。歌の響きがとても綺麗で、この公演での経験が今後に活きてくるのがとても楽しみなメンバー。

BONNIE & CLYDE ―クラシックからシックになった新体制―

概要


BONNIE & CLYDEは脚本イヴァン・メンチェル、作詞ドン・ブラック、作曲フランク・ワイルドホーンによるブロードウェイ作品。宝塚版での潤色・演出は大野拓史先生。
1930年代のアメリカで銀行強盗と殺人を繰り返した、ギャングカップルのボニーとクライドを描いた作品。

感想のまとめ


クラシックな作品で始まった前体制とは打って変わって、シックなお披露目公演。脚本・演出が素晴らしく、中盤の盛り上がりと終盤の余韻が心地よい作品。印象に残りやすい楽曲とそれを見事に歌うメンバーも素晴らしく、聞き応えも抜群。彩風さんの完璧にも思える帽子の角度と、貫禄すら感じさせる夢白さんの堂々たる演技力は必見。

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