BONNIE & CLYDE ―クラシックからシックになった新体制―

概要


BONNIE & CLYDEは脚本イヴァン・メンチェル、作詞ドン・ブラック、作曲フランク・ワイルドホーンによるブロードウェイ作品。宝塚版での潤色・演出は大野拓史先生。
1930年代のアメリカで銀行強盗と殺人を繰り返した、ギャングカップルのボニーとクライドを描いた作品。

感想のまとめ


クラシックな作品で始まった前体制とは打って変わって、シックなお披露目公演。脚本・演出が素晴らしく、中盤の盛り上がりと終盤の余韻が心地よい作品。印象に残りやすい楽曲とそれを見事に歌うメンバーも素晴らしく、聞き応えも抜群。彩風さんの完璧にも思える帽子の角度と、貫禄すら感じさせる夢白さんの堂々たる演技力は必見。

以下ネタバレ注意

【全般】

  • 新体制はシックなお披露目
    彩風さんと朝月さんのお披露目公演 (ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン Again) はクラシックな大人の男女による素晴らしい公演だったが、彩風さんと夢白さんのお披露目公演はシックでお洒落。役柄の幅が広くてシックなスーツ姿も抜群に似合う彩風さんと、華やかで押し出しの強い夢白さんなのでシックな作品に仕上がっている。今後もシックさを押し出すのか、前体制と同じくガラッと変えてくるのか今後が楽しみなところ。

  • 趣のある巧みな脚本・演出
    思わず膝を打つような脚本・演出が光っていた。ボニーとクライドの劇的な最期から始まる構成が、作品を趣深くしていた。二人の破滅的な結末が脳裏に焼き付く事で、激動の人生を駆けていく二人に感情を揺さぶられた。最後のドライブへ向かう穏やかな幕引きは余韻が素晴らしかった。
    幼少期の夢と青年期の現実が交錯する演出も印象的で、何がなんだか解らないとクライドが独りごちるシーンと、クライドが少年期の夢を目を背けながら撃ち抜くシーンも印象的だった。

  • 盛り上がりと余韻の残し方が素晴らしい
    中盤にかけての盛り上がり方と、終盤での余韻が素晴らしかった。
    第一幕の終盤でクライドが脱獄した後の盛り上がりが最高潮で、華やかなスーツを身にまとったクライドが盗難車でボニーと登場するシーンは、何度見ても惚れ惚れする格好良さ。
    終盤は一転して、余韻を感じるシーンが増えていく。銃撃戦の最中に少年期のクライドが現れるやるせないシーン、バックが息を引き取ったあとに牧師が厳かに歌うシーン、冒頭で見た結末へ向かうボニーとクライドの最後のドライブと琴線に触れるシーンが続き、余韻とともに劇場を後にすることができる公演だった。
  • 名曲ぞろいの楽曲と充実の歌唱メンバー
    どの曲も記憶に残りやすい上に素晴らしく、それを歌い上げるメンバーも素晴らしかった。彩風さんや和希さん、久城さんといった信頼と実績のあるメンバーだけではなく、夢白さんと野々花さんの歌唱も素晴らしかった。特に娘役の二人はこんなに上手かったのかと驚くほど安定して上手だった。
    少年期/少女期のクライドとボニーの明るく希望に満ちた歌唱も素晴らしく、メンバーを二手に分けたとは思えない充実ぶりだった。
    楽曲は特にThis World Will Remember Meが素敵で、最初にクライドが歌うシーンと第一幕の最後でもう1回歌うシーンのどちらも印象的だった。

  • 念願のスーツ物
    どんな衣装もバッチリ似合う彩風さんだが、トップ就任後で初のスーツ物。やっぱりスーツが一番似合う人なので、着こなしが非常に素晴らしかった。特に片目がギリギリ隠れない角度の帽子が絶妙で、投げ捨てた帽子をかぶり直した瞬間から角度が決まっていて素晴らしかった。男役の魅力が詰まった着こなしだった。

【個別】

  • クライド (彩風さん)
    彩風さんの強みがこの上なく発揮される役柄だった。完璧な角度の帽子とスーツがびしっと決まった佇まい、低音から高音まで安定した歌唱力、無邪気さと社会への不満が共存する不安定さを抱えたクライドの演技、どれも素晴らしかった。
    特に帽子の角度が完璧で、何度かぶり直しても片目がギリギリ隠れない角度にビタッと決まるのが素晴らしかった。歌唱は綺麗に伸びる高音を久しぶりに発揮し、吐き捨てるように歌う低音の荒々しさとの対比がとても効果的で素敵だった。演技はビリー・ザ・キッドやアル・カポネに憧れる無邪気さと、エドクラウダーや銀行に向ける憎悪とのギャップが印象的で、場面によって全く異なる印象を与える表情が印象的だった。
    ONCE UPON A TIME IN AMERICAでの冷たく鋭いマックスとは異なる、柔らかさと不安定さを抱えたクライド・バロウとしての演じ分けも印象的で、役柄の幅広さを発揮していた。

  • ボニー (夢白さん)
    トップ娘役お披露目公演にして大役を見事に演じきっていて素晴らしかった。出番も歌唱シーンもこれまでと比べ物にならないほど多かったが、どのシーンも安定していて貫禄を感じさせるほどだった。華のあるタイプの綺麗な顔立ち、どの曲も安定した歌唱力、押し出しが強めの演技力と夢白さんの強みがとても良くわかる公演だった。作中でも魅惑的な女性と形容されていたが、こういった一癖ある役がとても良くハマっていた。

  • バック (和希さん)
    組む相手を引き立てるバイプレイヤーぶりが際立って良かった。クライドと組むと普段の落ち着いた様子とふとした時に見せるやんちゃぶりで兄としての姿を見せ、ブランチと組むと彼女に愛されるのも納得の夫ぶり。最期のシーンでの苦しげな呼吸音も印象的で、ブランチの悲痛な叫びがより印象的になっていた。
    歌唱シーンは抜群に安定した低音で、一緒に歌う彩風さんたちが伸び伸びと高音側を歌える点でも素晴らしかった。

  • ブランチ (野々花さん)
    歌も芝居も想像以上に素晴らしかった。しっかり者らしく姉さん女房気味な役作りと力強い地声系の歌唱がとても印象的で、しっかりと地に足の付いた人間に感じた。ボニーとの歌唱シーンでの力強さが特に素晴らしく、夢白さんをしっかりと支えている姿が素晴らしかった。

  • スムート (透真さん)
    堅実そうな保安官という印象で、選挙で専任される保安官で最長記録を持つのも納得の役作り。まさに公務員、という佇まいと自然な髭が素敵だった。

  • 牧師 (久城さん)
    少し癖のある牧師役だが、流石の歌唱力だった。綺麗な高音と笑顔が印象的で、教会の綺麗な言葉は人々を救わないという虚しさを感じさせる印象的なシーンになっていた。綺麗に歌うシーンとノリノリに歌うシーンの切り替えも巧みだった。

  • エマ (杏野さん)
    厳しさはあれども娘を案じている親心が印象的だった。女手一つで育てた娘が犯罪者と付き合えばこうもなるだろうと思うような接し方が素敵で、厳しく諭し、それでも駄目なら縋ってしまうような母親ぶりが感動的だった。クライドと父親と比べられた時に凍りついた表情も印象的で、夫のことを今も大事にしていることが伝わってくるシーンだった。

  • フランク (桜路さん)
    元テキサス・レンジャーで、少しきつめな雰囲気が印象的。私情を一切交えず淡々と事実を並べて対策を検討していく姿に敏腕ぶりを感じたので、保安官との違いの見せ方が上手だった。

  • ヘンリー (天月さん)
    髭姿がとても自然で、役作りの器用さを感じた。バックの亡骸の足を整える際のちょっとした仕草から見える優しい父親ぶりが印象的だった。

  • テッド (咲城さん)
    物語が進むにつれて変化していくテッドの演じ分けが上手だった。冒頭はスタイリッシュな好青年だが、同僚のバドを亡くして鬼気迫る様子になっていく変化が表情に出ていて印象的だった。特に後半の鋭い眼光が恐ろしくも素敵だった。肩肘張った歩き方も、強い保安官であろうというテッドの意思を感じる好きな演じ方だった。歌は苦労している印象だったが、大きな声で堂々と歌い上げる姿が素敵だったので、経験を積んで上手くなるのが楽しみ。

  • バド (眞ノ宮さん)
    テッドの良き友人枠で、出番は少ないがセリフ以上に印象的だった。クライドと相対したときの余裕の無い雰囲気の出し方が上手で、クライドが余裕を感じてしまう説得力のある演技だった。

  • ハリー (華世さん)
    バンバン抜擢されているのも納得の芝居上手。スタイルが良く華があるのでチラチラ見ていたが、迂闊なところのある役柄で小芝居も多く、いつ見ても何かしている姿が印象的。第二幕最初のシーンでは正面の客席を釣るような見せ方をしていて、余裕を感じさせる演技力だった。捨て台詞を吐き捨てるシーンで裏返らない発声も素晴らしく、抜擢された期待に応え続けるタイプに思えた。

  • ボニー (少女期) (愛陽さん)
    可愛らしさを残した歌が素晴らしかった。女優を夢見る無邪気な少女らしい、可愛らしく明るい歌がとても印象的で、BONNIE & CLYDEの世界にスムーズに引き込む役割を見事にこなしていた。テッドの脳裏に焼き付いて離れないのも納得の、天使のような少女ぶりだった。

  • クライド (少年期) (夢翔さん)
    こちらもやんちゃな少年らしい歌が素晴らしかった。銃を持った無邪気な姿が印象的で、青年期とのオーバーラップがとても自然で良かった。