ONCE UPON A TIME IN AMERICA (雪組) 感想
―コンパクトな群像劇―

概要


ハリウッドのギャング映画を、小池修一郎先生が脚本・演出でミュージカル化した作品。ローワー・イーストサイド (ニューヨーク) 出身のユダヤ系移民のヌードルスたちの人生を描いた作品で、ギャングとして生きていくヌードルスを主人公に、少年期から壮年期まで描いた作品。

感想のまとめ


コンパクトにまとめられた群像劇という印象。振る舞いや表情、歌い方が年月の経過に合わせて変わっていくので、圧巻の歌と年月の経過による変化を楽しめる作品。コンパクトすぎて少し薄味に感じるかもしれない。
年月とともに変わっていきながらも常に最高のハーモニーで歌う望海さんと真彩さん、年月とともに目の雰囲気がどんどん変わっていく彩風さん、力強くも落ち着いた歌が素敵だった彩凪さん、最高のエトワールだった舞咲さんが特に印象的。

観劇日


2020/01/11 (宝塚大劇場) 
あえて映画は視聴せずに観劇

以下ネタバレ注意

感想


【全体】

  • 時の流れを感じさせる演技が凄い
    少年期から壮年期まで長い期間を描いたこの作品。月日とともに振る舞いや表情、歌声の変化が変化していき、戻れない時を進んでいる感覚がとても素敵だった。

  • 圧巻の歌
    歌いにくそうな曲が多い印象だが、圧巻のクオリティ。少年期・青年期・壮年期と歌い方を変えながらもどれもとても素敵なハーモニーで歌い上げる望海さんと真彩さんは勿論、彩風さん彩凪さんも今までで一番聞き取りやすくて素敵な歌。朝美さんも女性の役を見事に歌い上げる。本作で退団の舞咲さんは癖の強さすら変幻自在の圧巻の歌で、エトワールも最高。要所要所で久城さんの歌も目立っていてとても良い。組全体の歌も素晴らしく、作品ごとに歌が進化していく雪組の凄さを体感した。キャッチーな歌が少なめな点と、歌が多すぎてデボラとキャロルの演技が少なめな点が少し残念。

  • 脚本は薄味な群像劇
    ヌードルスを中心に物語が展開されつつ、他の人物にもスポットライトが当たるスタイルで、恋愛物というには群像劇的で、群像劇と言うには恋愛物。観ていて違和感があったが、最後にテーマがわかって納得。トップスターをデン!と立てる宝塚と群像劇は相性が悪い印象だけれど、ヌードルスを中心にコンパクトにまとめた印象。ただコンパクトにまとまりすぎたのか歌も脚本もかなり薄味で、劇中に多くのイベントがあった割に印象が薄い気がする。

  • 小道具の使い方が素敵
    原作そのままかもしれないけれど、小道具の使い方が印象的で素敵。少年期にヌードルスが小さな薔薇の花束を贈り、青年期には昔の約束通り薔薇でいっぱいの部屋を用意する。壮年期に一輪の薔薇を手に取る。思わず前のシーンを思い返すような薔薇の見せ方がとても好き。
    マックスの時計も最初と最後に出てきて、もう戻れないけれど確かに友情があった証として存在するようで素敵だった。
    ロッカーの金がなくなっていたのも象徴的で大好きなシーン。アポカリプスの四騎士が壊滅したあの瞬間にそれを知る流れが切なくてとても素敵だった。マックスが不動産に突っ込んで空にしていたのはあのタイミングより前だけど、あのタイミングで知る流れが心を抉りに来る素敵な演出だと思う。

【個別】

  • ヌードルス (望海さん)
    少年期・青年期・壮年期の演じ分けが凄かった!歌い方も動きも違っていて、元気いっぱいな少年期と年を感じる壮年期では全く動き方が違うので、ヌードルスを見ていると年月の経過を感じられる。激しい生き様の青年期も格好良かったけれど、壮年期のヌードルスがとても素敵。日の当たる場所で生きてきた年月を感じさせるあの落ち着き様と、それ故に昔には戻れない寂しさが入り交じる感覚がとても素敵で、公演後に良い余韻に浸れるのは望海さんのヌードルスだからだと思う。

  • デボラ (真彩さん)
    圧巻の歌と年月を感じさせる変化が凄い!年月とともに歌い方が変わっていくので、歌を聞くだけで彼女がどういう人生を歩んできたが伝わってきてとても良かった。第一幕終盤でヌードルスからティアラをプレゼントされるシーンでの戸惑い方や、サムに捨てられたとわかったときの記者会見でのシーンが特に好き。

  • マックス (彩風さん)
    いつも目で語る彩風さんは今回も目が凄い!夢に煌めく少年期から、成功しているはずなのに常に満たされない青年期、夢の終わりと苦悩が伝わってくる壮年期。時とともに目が変わっていくのが印象的。ヌードルスとの再会シーンが好きで、成長したけれど変わらない親友として出迎えた青年期と、もう昔のように笑い合えない壮年期のギャップがとても良かった。歌も聞き取りやすく伸びやかで、アポカリプスの四騎士のリーダー格らしい素敵な歌だった。

  • ジミー (彩凪さん)
    今回歌がとても素敵!役に合わせた力強くも落ち着いた、聞き取りやすい歌声が本当に良かった。豹変ではなく声色や表情のちょっとした変化で、頼れる組合のリーダーと、冷徹な姿が切り替わってとても素敵。ストライキでのカリスマぶりと、当然のようにベイリー (マックス) に自殺を求めるシーンが特に好き。

  • キャロル (朝美さん)
    健気で可愛い!マックスと仲睦まじげな時や彼を心配している時の表情がとても素敵で、マックスへの想いをストレートに表現するところがとても可愛かった。初めて知ったけれど朝美さんは声が低めなのか娘役の人たちとは違った凛々しい感じで、独特のパワフルさを持った歌も素敵だった。

  • ファット・モー (奏乃さん・橘さん)
    奏乃さんは流れがすっと頭に入ってくるストーリーテラーぶりが素敵で、橘さんは雰囲気の似せ方がとても良かった。雰囲気が似ているので、別人というより成長したというイメージで伝わってきて素敵だった。

  • シュタイン (舞咲さん)
    今回の役は個性控えめ。だからこそ自然な演技も素敵な歌も輝いていた気がする。特にエトワールが素敵で、綺麗で力強い歌声のエトワールはずっと聞いていたいぐらい素晴らしかった。本作で退団なのがとても悲しいけれど、だからこその素晴らしさ。

  • バグジー (諏訪さん)
    少年期に出てくる彼が強烈で印象的。呆気なく死んでしまうのに強烈な印象だったので、嫌なやつという役柄がとても素敵だった。次回以降の公演も楽しみ。

  • 宝石店店主(久城さん)
    宝石店の店主としては1シーンだけだけれど、善良そうな姿が印象的。随所で歌っていて、いい歌だな~と思うと久城さん!というシーンが何回もあるので、宝石店店主としての出番以上に印象的。