概要
ヨスガノソラはSphereによるアダルトゲームで、今回はそのアニメ作品について記載する。地上波作品とは思えぬほど過激な性描写で話題となり、耳にした人も多い作品。いざ見てみると性描写だけで語るにはあまりにも勿体ない作品だったので、感想をメモする。
まとめ
数話ごとにルートをまとめ上げる見事な構成力と洋画のような演出が光る作品で、穹ルートでの演出はまさしく芸術。寂寥感を与える田舎の描写とBGMが心地よく、夏に視聴するのにうってつけ。本編のシリアスな雰囲気に合ったOPと挿入歌、ポップなおまけパートにぴったりなEDで楽曲の使い分けも巧み。
過激な性描写を含み、近親相姦を含む点、原作とはあえて逆のアプローチを取っている点など人を選ぶ要素も多分に含まれているが、エロアニメの一言で片付けるにはあまりにも勿体ない作品。
以下ネタバレ注意
長所
- 全ルートを網羅した圧倒的な構成力
わずか12話で全ヒロインルートを網羅するという離れ業を披露している。各ルートを数話で構成し、巻き戻しによる分岐で各ルートを綺麗にまとめ上げている。穹ルートではこれまでのルートを白昼夢のように扱い、現実を曖昧にする効果も生み出している。場面の切り替えと演出が巧みで、心情の変遷をテンポ良く美しく描かれている点も素晴らしい。ブルーレイだと1枚ごとにキャラルートが分かれていて、視聴しやすい点も心憎い。 - 洋画を思わせる巧みな演出
台詞や表情、小道具を使った演出が非常に巧みで洋画的。短い台詞、キャラクターの立ち位置、引きのシーンやガラス越しに映る表情、背景や小道具から得られる情報がとても多い。演出による情報や余韻を楽しめるので、洋画を見るようにゆったりと視聴するスタイルに向いている。 - 田舎の描き方が良い
うだるような暑さの中で見ていたくなるような田舎の描き方が良い。寂寥感が涼しさを与えてくれて、いい意味で何もなくて退屈そうな田舎として描かれている。心温まるような土地としてではないが、夏に見たくなるアニメ作品では不動の地位を築いている。 - 寂寥感が心地よいBGM
BGMは寂寥感を与えるタイプのもので心地よい。心温まる田舎ではなく、寂しげな田舎を表現する至高のBGM。数は多くないが一曲一曲のクオリティが非常に高いのが特徴。Blu-ray Boxの特典以外にもmoraなどで配信もされているため、楽曲購入もおすすめ。 - ももクロの扱いが上手
EDはももクロで軽くてポップな曲。本編から浮いていて大人の事情を感じさせるが、その使い方が上手い。本編後には挿入歌として「ツナグキズナ」を採用してシリアスな雰囲気を保ちつつ、5分アニメとして用意した初佳ルート後にこのED曲を配置している。ももクロの曲調が浮かない構成になっていて、しかも本編のネタバレを随所に仕込む遊び心まで見せてくれる。
人を選ぶ点
- 過激な性描写と近親相姦を含む作品。
玄関での性行為をクラスメイトに見られるシーンをはじめ、性描写がかなり過激。家族とリビングで見るタイプの作品ではない。過激な性描写に加えて、近親相姦を扱った作品でもある。全肯定的にこそ描かれていないが、かなり尖った作品という印象を持つだろう。 - 良くも悪くも洋画的な演出
演出はピカイチだが、良くも悪くも洋画的。台詞や表情、背景から情報を読み取っていくスタンスに慣れていないと、ただ退屈で過激な性描写を持つアニメという印象になってしまうかもしれない。 - 原作とは別物
いつか別記事にまとめる予定だが、原作ゲームとはまるで別の作品になっている。原作とは違ったアプローチ、しかも問題作でありながら傑作という特殊な立ち位置。原作のアニメ化を期待した層は裏切られた感覚だっただろうという印象。ただ原作を無視したわけではなく、読み込んだ上で真逆のアプローチで描かれているのが特徴で、穹ルートで違いが顕著に現れている。
原作での田舎は傷心の二人が傷を癒やす温かい場所だが、アニメでの田舎は寂寥感が漂う場所として描かれている。悠と穹が共依存的に堕ちていく様がより退廃的になっている。
原作と比べて深い交友関係を築けていないのも特徴で、奥木染での縁によって前へ進む原作に対し、縁を捨てて二人だけで幸せを探し続けるアニメという真逆の位置関係になっている。
梢に近親相姦、感情のままに生きることを最後まで否定させているのも大きな違いで、当時の規制を乗り越えるための苦心が見える。
キャラデザやBGMも柔らかくて親しみやすいタイプから、少しきつめだったり寂しげなものに変えている。アニメのシナリオに合わせた好判断だろう。
感想
- 渚一葉ルート
父娘の和解をテーマにしたストーリー。悠が一葉を見ているうちに惹かれていく流れ、一葉が悠の言葉をきっかけに惹かれていく流れの見せ方が美しい。悠と一葉を見守る穹と瑛の構図が良い。一葉と瑛が境内で話す際に、倒れた箒を使って二人の境界を暗示する演出がお気に入り。 - 天女目瑛ルート
原作の田舎と都会の対比は省き、瑛の生い立ちにフォーカスしたストーリー。実は原作では一番完成度の高いルートだが、アニメではヒロインの一人という扱い。かなりざっくりとしたストーリーだが、その分表情の見せ方による補完が上手い。余韻の心地よさは全ルートでも随一。 - 依媛奈緒ルート
昔の過ちから前を向いていくストーリー。トラウマになっていたのは悠ではなく穹だったのがキー。敵愾心をむき出しにして奈緒の前に立ちふさがる穹の表情が良く、和解して表情が柔らかくなった時に見せるギャップも良い。奈緒はこのルートよりも穹ルートでの良き理解者という立ち位置がハマっていたのが少し惜しい。 - 春日野穹ルート
すべてを捨てて二人で堕ちていくルートで、純愛ではなく退廃的に堕ちていく様が美しい。ギリギリまで葛藤していた悠が苦悩しながら堕ちていく流れは洋画を思わせるほど芸術的。
穹と関係を持ってからの退廃的な演出が神がかり的で、宗教における悪魔のように甘言と快楽で堕落へ導く穹、暗い未来を思わせる茶色い食卓とレトルトパックの残骸、二人だけの世界に閉じていく悠と穹の絶望的な未来をこれでもかと暗示してくる。近親相姦のタブー性も強調されているので、堕ちていく様がより強烈になっている。
結末はかなり意味深になっていて、視聴者に委ねられている。泉に沈む際に泳げる穹が先に意識を失っていたり、破かれて捨てられた形見の人形をクライマックスで列車内に持ち込んでいるなど、生まれ変わったというよりも死んだかのように思える描写もある。一方でももクロのEDでは奈緒に助けられた暗示があるので、両者の解釈を取れるようにになっている。
タブーを犯し、すべてを捨てて新たな場所を目指す二人に幸福はあるのか。列車内の二人は爽やかだが、荒れ果てた家や切れてしまった奥木染での縁を考えると未来は明るくないのかもしれない。爽やかさの裏に潜む影が、アニメらしからぬ独特の余韻を作り出している。 - 乃木坂初佳ルート
5分×13話枠で、ももクロのエンディング曲に合わせたコメディタッチになっている。本編とは打って変わっておバカなノリなので、箸休め的に楽しめる。