概要
原作は有栖川有栖の小説で、脚本・演出は石田昌也先生。主人公の刑事・神崎は理由もわからぬまま上司に射殺され、幽霊となってしまう。誰にも見えない彼を唯一見ることができる、霊媒体質の親友である同期の早川と手を組んで事件を解決していく。
有栖川有栖先生の作品らしく、笑える要素もあるミステリー作品。
感想のまとめ
ミステリー作品が初めてでも楽しめる、謎解きしてもしなくても楽しめる公演。伏線をさり気なく強調してくれる演出や演技、コメディ要素たっぷりで重すぎない雰囲気で楽しみやすいのが特長。珠城さんと鳳月さんの演じる息のピッタリと合った神崎と早川、光月さん演じる神経質そうな経堂、白雪さんが怪演するマダムXがお気に入り。
以下ネタバレ注意
感想
【全体】
- 石田先生と相性抜群の原作
石田先生の公演を観るのは4作目だが、少し古くて、くどめなくらいにわかりやすい演出が強いイメージ。そんな石田先生に少し古めの時代設定のミステリー小説、爽やか青年の似合う珠城さんが主演は相性抜群。石田先生の良さが十二分に発揮されていて、とても面白い公演だった。 - 謎解きをしてもしなくても楽しめる脚本・演出
冒頭の人物紹介ソングをはじめとして、伏線をさりげなく強調している演出と、それを自然にこなす芝居上手な月組の良さが噛み合っている。謎解きをする楽しみもあるし、謎解きが出来なくても楽しめるように仕上がっている。多くの人にとって1回限りの観劇であろう公演で、ミステリー作品の醍醐味を楽しめるように計算された素晴らしさ。 - コメディ要素たっぷり
前半を中心にコメディ要素たっぷり。コメディらしい演出の他に、エリザベートなどの宝塚ネタも随所に散りばめていたのは石田先生の好みなのだろう。小道具にも宝塚を散りばめている徹底ぶりで、面白いかは別として暗くなりすぎずに楽しめる演出だった。 - 芝居の月組らしい演技上手ぶり
コメディとシリアスの温度差が激しい作品だが、一瞬で切り替える月組はさすがの演技力。夫に続いて息子も失った気丈な神崎の母、ふとした時に別れの予感を感じさせる神崎や早川のシーンが良かった。 - 演出は昔のドラマ風
演出は再放送のドラマのような古めかしさ。初デートで観た映画がタイタニックということで時代背景を合わせたのかもしれない。古めかしいが統一感は出ているので、ちょっとタイムスリップした気分を味わえる。そしてこのぐらい古めかしいほうが、珠城さんの爽やかな青年像が映えるので、それを狙った演出かもしれない。 - 最後は爽やか
最後は神崎の未練がなくなり、爽やかな笑顔で成仏していく。珠城さんの演技も相まって、かなりスッキリ終わるところも良かった。
【個別】
- 神崎 (珠城さん)
爽やかサラリーマンがとても似合う珠城さん、今回もピッタリの役柄。真面目な誠実さ、幽霊になってしまったやるせなさ、未練を断ち切った後のスッキリした演じ分けが素敵で良かった。幽霊になって物がすり抜けるシーンは、奥行きを使っていることを見落とすほどの自然さ。早川との掛け合いは台詞も多いが時にコミカルに、シリアスに、そして感動的にと息もぴったりでとても素敵だった。 - 早川 (鳳月さん)
格好良いのにそれを目立たせない佇まいと、神崎と息の合った掛け合いがとても良かった。神崎の中継役を務めることもあってセリフがとても多いけれど、とても良い滑舌で聞きやすいのも良かった。 - 神崎の母 (京さん)
良い意味で演技感が全く無く、刑事の家族として生きてきたかのような振る舞いが凄かった。刑事の妻であり母でもあり、二人を失っても人前では気丈に振る舞い、ひと目のないところでさめざめと泣く演技がとても素敵だった。 - 雲井 (汝鳥)
幽霊の先輩としての達観ぶりと愛ちゃんに向ける優しい眼差しは流石の一言。とっちらかりそうな幽霊たちのシーンを感動的にする歌もとても素敵で、京さんと二人で作品のクオリティをグンと引き上げる専科ぶりがとても良かった。 - 経堂 (光月さん)
神経質そうな演技がとても良く、スーツも和装も着こなしが素敵だった。美人の妻がいて、電話をきっかけに自殺してしまうのも納得の役作りだった。神崎を殺害した後の、真相を知らない人にはばれない程度の余裕の無さがまた良かった。忠臣蔵パロディで光月さんの無駄遣いと言わんばかりの熱演も素敵。 - 新田 (紫門さん)
故人なので回想シーンでしか出番がないが、殺されてしまうのも惜しまれるのも納得の印象を残していくのが凄かった。 - マダムX (白雪さん)
曲者全開の怪演がとても良かった。ニヤリと笑う姿としゃがれた声、警察署での態度でバックボーンの説明が完了する役作りが凄い。小悪党だけれど外道でないのがすぐに解るし、最後に更生しようとするシーンの表情がとても素敵だった。 - 毬村 (輝月さん)
金持ちキャラも犯人としての悪党ぶりもとても素敵だった。さり気なくかつ観客に解りやすいようにスティックシュガーをくすねるシーンや、声真似のシーンでの口パクの合わせ方など、細かなところもさすがの演技上手。 - 佐山 (英さん)
ミステリーとしてはミスリード担当。別の目線で追っているからこその異物感が出ていて、佐山はミスリードをするだろうなとわかりやすい演技が好き。 - 森 (天紫さん)
華のあるタイプの娘役で、自立したヒロインぶりが映えていて素敵だった。射撃シーンの格好良さ、独りになった時にだけ見せる弱さの演技も素敵で、歌もゲバラのときよりパワーアップしていた印象。 - 天乃愛 (白河さん)
ドラマ風に演出した石田先生に合わせた演技が作風に合っていてとても素敵だった。子役の雰囲気を残したエトワールの歌も良かったので、実はものすごく器用な人だと思う。