ドン・ジュアン/モリエール/鈴木力衛 訳/岩波文庫/感想
―会話のテンポがとても良い喜劇―

概要


フランスのモリエールによる作品で、鈴木力衛による翻訳。スペインのドン・ジュアン伝説がもとになっている。数多の女性を口説き落としては捨てていくドン・ジュアン。結婚詐欺師で快楽の探求者、無神論者で偽善者である彼の物語。

感想のまとめ


会話のテンポがとても良く、ドン・ジュアンの二枚舌ぶりが楽しい作品。
登場人物を使い捨てるかのごとく新しいエピソードへ進んでいくので、彼の奔放な旅を思わせる楽しさがあった。ドン・ジュアンはいろいろな側面を持っていて、物語が進むほど彼を知っていく楽しみがある。
キリスト教を揶揄するシーンも印象的で、これだけやればそりゃ揉めるだろう、というような揶揄の仕方がとても印象的。

以下ネタバレ注意

感想


  • 掛け合いのテンポが良い
    会話のテンポがとても良い。ドン・ジュアンの凄まじい二枚舌ぶりが凄まじく、会話を読んでいて楽しかった。口説き落としたシャルロットを隣に従え、マチュリーヌを口説いていくシーンのテンポと二枚舌ぶりは凄まじかった。戯曲はテンポが大事だと思った。

  • エピソードの使い方が贅沢
    登場人物を使い捨てるかのように、どんどん新しいエピソードへ進んでいく。作成期間が短買ったことが原因だろうが、かえってドン・ジュアンの奔放な旅を思わせる楽しさがあった。

  • 色々な側面を持つドン・ジュアンが印象的
    ドン・ジュアンの思考は単調ではなくて多面的。快楽の探求者であり、無神論者。ただの悪党かと思いきや、ドン・カルロスを助ける義侠心もある。最後には偽善者として神に従っているかのように振る舞っている。物語が進むほど彼の側面が見えてくるので、彼を知っていく楽しみがあった。彼がいろいろな側面を持っているからこそ、寓話のようなつまらなさを感じなかったのかも知れない。

  • 所々で普遍的な核心を突いてくる
    悪党として書かれているドン・ジュアンだが、所々で現代人でも共感するような核心を突いてくる。偽善者の件はその最たる例で、これが彼を魅力的にしていると思う。

  • 公演中止に追い込まれたのも納得のキリスト教を揶揄するシーン
    一番書きたかったテーマはこっちかな、と思うぐらいキリスト教を露骨に揶揄している。施しに執着する貧者は本筋とは無縁なので、当てつけかなと思うほど。偽善者の件や、神の声を楯にすべてを神のせいにしていく様は露骨に当てこすっているので、そりゃ揉めただろうなと思うような印象的なシーン。

  • ミュージカル版とは別物
    宝塚版のミュージカルとは、大きく異なる作品だった。ミュージカル版は悲劇的な面が強いが、モリエール版は喜劇な作風で、キリスト教を揶揄するような作品。またミュージカル版ではドンジュアンが愛を知るが、モリエール版は最期まで変わらない。あらすじも大きく異なるので、似ている別の作品を読んでいる気分だった。