概要
原作はスタンダールの小説。イタリア北部のパルマを舞台とした物語。主人公のファブリス、彼の叔母でありその美貌で宮中に影響力を持つジーナ、ファブリスと恋に落ちるクレリアを中心とした物語。二人のヒロインによる、ダブルヒロイン体制で展開される。
感想のまとめ
恋愛・政治が並行してスピーディーに展開され、テンポの良さが心地よい作品。物語の帰着点も明快で、視聴後は爽やかな気分になる。
ジーナとクレリアのダブルヒロインはタイプの異なる二人が相乗効果で魅力を増している。
純粋無垢なファブリスを演じた彩風さん、圧倒的な存在感でジーナを演じた大湖さんを始め、どのキャストも表情や仕草、役作りがとても良い。
楽曲も印象に残りやすく、特に久城さんの歌うAVE MARIAが素敵。
視聴日
2020/05/01 Blu-ray
原作は未読。
以下ネタバレ注意
感想
【全体】
- 心地よいテンポのストーリー
様々な人物の思惑が交差しながら、スピーディーに物語が展開される。恋愛・政治が並行して動くので、とてもテンポが良くて心地よい。説明が少なく、観る側に任せられている点もテンポの良さに一役買っている。 - 物語の帰着点が明快
物語はキリスト教的な愛へ帰着する。この明快な流れのおかげで、視聴後はとても爽やかな気分になる。物語を通じて愛を知ったファブリス、愛を掴んだモスカ伯爵と彼の愛を受け入れたジーナ、ファブリスのために神への誓いを守るクレリア、大義と愛に殉じたフェランテ。ファブリスの行動を振り返ると爽やかに終わるのが不思議な気もするが、テンポの良さと明快な帰着点のおかげかもしれない。 - キャストがとても良い
どの役もキャストがとても良い。表情や仕草、役作りでストーリーの補完をしつつ、説得力をもたせてくれる。ファブリスは彩風さんの純粋無垢な演じ方のおかげで印象良く、周囲への影響も納得の人柄。一歩間違うと最悪な印象になりかねないファブリスも、純粋無垢なおかげで印象が良い。モスカ伯爵は香綾さんの眼差しのおかげで、気持ちがとてもわかりやすい。 - ダブルヒロインの演じ分けが良い
ジーナの気品ある美しさと、クレリアの初々しい美しさ。大湖さんと星乃さんの演じ方が相乗効果になっていて、互いが互いをより魅力的にしている。ダブルヒロインの良さを体感した。 - ジーナの圧倒的な存在感
相関図の中心は実はジーナで、特に第一幕はジーナが物語の中心。大湖さん演じるジーナが圧倒的な存在感で物語を回していく。美人で強かでありながら、ファブリスに対しては親子のような情愛と恋愛が入り混じって弱さが出る。そんな強烈な存在感のジーナだからこそ、この公演はずっと面白いといえる。 - 印象に残りやすい楽曲
登場する楽曲はどれも印象に残りやすい。舞踏会のダンスのように進んでいくアラベスク、牢でファブリスとクレリアが歌う美しき愛の囚人、フィナーレのAVE MARIAなど、どの曲も良い。特にAVE MARIAは舞台の背景と歌声が完璧にマッチしていて、久城さんの歌声がとても素敵。 - 原作からの落とし込みがとても宝塚的 (2021/1/31 追記)
原作を読んでみるとかなり宝塚的にアレンジされている。良く言えば悲恋を強調しつつも劇的なストーリーで、悪く言えばかなりのアレンジ。宮中の政治を弱くしてファブリスとクレリアの恋愛をより強調しつつも、二人はきちんと決別した形に変更。子を成してしまう原作よりも悲恋が際立っている。大公が暴君であることを全面的に押し出して、出番を大幅に増やしたフェランテに討たせる変更も劇的なストーリーになっていて、個人的には宝塚版のほうが親しみやすくて好き。
【個別】
- ファブリス (彩風さん)
近年の芝居がかった役作りの多い彩風さんしか観たことがなかったが、この作品では純粋無垢でとても新鮮。その純粋無垢さが絶妙で、はた迷惑なファブリスを魅力的な人物に昇華させている。愛のためにひたむきな彼に感化され、フェランテを始めとした周囲の人々が変わっていく。そしてこのファブリスなら、愛することの喜びを知れば牢でも天国に感じるだろうな、と納得。そんなファブリス像がとても良かった。
ビジュアルも洋装がとても映えていて、ヴァイオリンを弾く後ろ姿が特に素敵。
純粋無垢故に印象的なシーンも表情豊か。ジーナに友達として、と無表情で告げるシーン、その直後にクレリアのことを思い出して目が輝くシーン、最後にジーナ宛ての手紙で語るシーンの柔らかな声色がとても印象的。 - ジーナ (大湖さん)
第二の主役。まさしく美人だと納得するビジュアルと存在感で、このジーナがあってこその公演。あれだけ強かなのにファブリスの言動で揺れてしまい、目が左右に揺れて力強さを失ってしまう様がとても印象的。ファブリスと関係を持つシーンの生々しさを出せるのは、大湖さんの演技力のおかげだと思う。恋愛と親子のような情愛のバランスも良い。ファブリスの手紙からロザリオが出たときに感動したのは、情愛が色濃かったからだと思う。 - クレリア (星乃さん)
ジーナが強烈だからこそ、クレリアは初々しさがとても良い。年月で一番印象が変わるのは彼女で、恋する少女が恋を終わらせて母になる変化がとても印象的。苦しみながらも神への誓いを守る一途さがとても素敵。 - エルネスト四世 (一樹さん)
発言は結構な下衆、下衆なのに下品に聞こえない絶妙な台詞回しと威厳がとても印象的。品のある舞台はこうやって作られているのか、と思わず納得してしまう凄さ。 - ファビオ (奏乃さん)
罷免されたときの力の抜け方がとても良く、人生終わったというのが伝わってきて好き。 - モスカ伯爵 (香綾さん)
品の良い佇まい、よく似合っているひげ、そして怖い目つきが印象的。ジーナとファブリスを見る目つきが全く別のもので、そのわかりやすさがとても好き。ファブリス救出に協力して、最後にジーナの愛を勝ち得たときの穏やかな表情がとても素敵。 - ブルノ (久城さん)
道化への扮装まで軽々こなす芝居巧者で、歌ってよし演じてよしの久城さん。AVE MARIAの歌がとても素敵で、あの歌で作品のクオリティを一段階上げていると思う。 - フェランテ (月城さん)
ファブリスの影響を色濃く受けたと思う人。革命を起こし、同時に友人を救い、ジーナのためにもなる。大義と隣人愛を同時に実践した彼は、かなり美味しい役だと思う。初登場時のギラギラした様子が印象的。 - クレサンジ公爵 (永久輝さん)
少ない出番でもクレリアたちの暮らしは心配なさそうだとわかる、根は良い人というのが伝わってくる演技が素敵。 - ファブリス (幼少期) (陽向さん)
ファブリスの幼少期。出番は少ないが、純粋無垢を体現するような笑顔がとても印象的。この幼少期のおかげで、青年期になっても彼の純粋無垢さに納得できる。