愛するには短すぎる / ジュエル・ド・パリ!! ―自然で型を感じない芝居―

概要


「愛するには短すぎる」は小林公平氏原案、正塚晴彦先生脚本・演出の作品。ニューヨークへ向かう豪華客船での四日間を描いた作品。人間模様や宝石強盗事件など、複数の物語が展開されていく。
「ジュエル・ド・パリ!!」は藤井大介先生作・演出の作品。その名の通りパリと宝石をモチーフとしたショー作品。前回の大劇場公演でのショー作品を、全国ツアーに合わせて変更したショーとなっている。

感想のまとめ


「愛するには短すぎる」は自然で宝塚らしい型を感じさせない作品だった。物語を展開する前半にコメディを多く含み、物語をたたむ終盤は丁寧に描いている。そのおかげで前半は飽きにくく、後半は良い作品を観たという感覚を得やすい作品に感じられた。彩風さんと夢白さん、朝美さんの相性の良さを改めて感じさせる作品だった。

以下ネタバレ注意

愛するには短すぎる

  • 自然で型を感じさせない作品
    相槌などに現れる自然体な台詞回し、色々な人の人生が見え隠れするエピソードなど、ある種独特な雰囲気を感じる作品だった。随所で笑いを取るが構成に無駄はなく、まっすぐと結末へ向かっていくストーリーは映画や海外ドラマのような印象だった。
    等身大でリアリティのある作品であり、宝塚らしい型を感じさせない作品でもあった。等身大で自然な芝居が良くも悪くも特徴的なので、男役・娘役の型を感じさせる宝塚らしさは弱い作風かもしれない。
  • 想定よりもコメディで、想定よりもおしゃれで余韻のある作品
    物語を展開する前半にコメディを多く含み、物語をたたむ終盤は丁寧に描いている。そのおかげで前半は飽きにくく、後半は良い作品を観たという感覚を得やすい作品に感じられた。特に宝石強盗の謎解きシーンでフレッドとバーバラとが二人だけの世界に入っているシーンや、夕日をバックに二人が語らうシーンがとても洒落ていた。

  • 彩風さんと夢白さんとの組み合わせが良い
    経験の差を感じさせない幼なじみ感が出ていて、自然体な演技の波長が合うのか相性の良さを発揮していた。何よりシルエットがとても綺麗で、夕焼けのシーンが特に印象的だった。夕日をバックにしたシルエットが絵画のような美しさで、まさに画になる二人だった。

  • 彩風さんと朝美さんとの組み合わせも良い
    彩風さんと朝美さんとの会話シーンがとても良かった。セリフの声色や間が絶妙で、コメディシーンが面白かった。二人とも歌唱も安定して上手いので、歌唱シーンの聴き応えも十分で素晴らしかった。

  • キーパーソンの凛城さん
    凛城さんが専科から出演した理由がよく分かる公演だった。それほど面白いことを言っていなくても笑いを取れる台詞回し、割と癖のある彩風さんや朝美さんたちとの会話にすっと溶け込む自然さが特に印象的で、長年雪組で公演してきたかのような演じ方だった。

  • インパクト抜群の叶さん
    役作りがとても印象的だったのは船長役の叶さん。髭と眼力が印象的で、大股で歩く姿がとても男らしかった。冒頭の歌唱シーンが印象的で、あのいかつい姿で抜群の歌唱力を発揮して、コミカルなシーンを作り上げるのがとても素敵だった。

  • 印象的な諏訪さんと華世さん
    諏訪さんは一場面を与えられた美味しい役で、コメディに寄せすぎずに格好良さを残した演じ方が印象的だった。
    華世さんは序盤の役で、憎まれ役。きっちりとこなしていたが、華世さんならもっと印象強く演じられたのでは、という印象を感じた。

ジュエル・ド・パリ!!

  • 全国ツアー向けのショー作品
    全国ツアーで初めて宝塚を観る人にも、胸を張っておすすめできるショー作品。色鮮やかで豪華なな衣装、覚えやすいフレーズは記憶に残りやすいだろう。最初から全国ツアーに照準を合わせた構成が活きていて、地味に感じた通常公演よりも面白く感じられた。

  • 随所で表現を深めてきた彩風さん
    彩風さんのシーンは大幅な変更がない分、表現に磨きがかかっていた。冒頭のシーンはより性別不詳で柔らかく、ドーファンのシーンも余裕を感じさせる貫禄ぶり。抜群の着こなしも相まって、さすがのトップぶりだった。
  • 変貌ぶりが素晴らしい叶さん
    前回公演では和希さんが演じた、クレオパトラ風のダンサーはまさかの叶さん。芝居での男らしい船長からの振れ幅が凄まじく、初見だとわからないかもしれないほどの変わりぶり。歌唱の人というイメージだったが、鞭さばきも含めてとても似合っていて素敵だった。

  • 大活躍の諏訪さん
    全国ツアーで水を得た魚のような活躍振りを見せていたのが諏訪さん。歌もダンスも上手なので、人数が減って出番が増えるこの公演はまさに大活躍。凱旋門でのダンスは特に素晴らしく、男役らしくビシッと決めてくる見せ方が素晴らしかった。

  • すっかりスターの華世さん
    まだまだ若手のはずだが、華世さんはスターとしてしっかりと定着している。歌もダンスも安定していて、まさにそつのない優等生タイプ。スタイルが良く華もあるので、このまま色々な役を演じて伸びていくのが楽しみ。

  • プロフェッショナルな専科
    美穂さんはショーのみの出演だが、改めて歌が素晴らしい。美穂さんの歌を聞けるだけでもこのショーは必見と言って良いだろう。声の響き方がとても綺麗で、全国ツアーの新場面も必見。
    凛城さんは奏乃さんの歌唱シーンを代わったり、群舞にも参加するなど随所で活躍している。特に群舞はビシッと決まっていて、彩風さんときっちりと揃っていたのが印象的。