冬霞の巴里 感想 ―おどろおどろしくも幻想的な傑作―

概要

冬霞の巴里はアイスキュロスのギリシア悲劇であるオレステイアをモチーフとした作品で、指田珠子先生による作・演出公演。19世紀のパリを舞台に、父を殺害した叔父と母への復讐を目論むオクターヴと姉のアンブルを描いた復讐劇。


感想のまとめ

暗くてドロドロの人間関係の復讐劇、さらにおどろおどろしくも幻想的な演出と冷え冷えとした雰囲気は人を選ぶが、好きな人にはたまらない傑作だった。時制や視点、現実や白昼夢が交錯するため情報量は多いが、少しずつ全容が見えてくることによって想像力が掻き立てられる作品で、痛快な娯楽作品ではなく考えさせられる作品になっている。
まさにハマり役だったオクターヴの永久輝さん、素晴らしい演技力が光ったアンブルの星空さん、登場シーンから完璧だったジャコブ爺の一樹さん、凄まじいインパクトで影を落としていくオーギュストの和海さん、ギラギラした目つきと皮肉屋ぶりが素敵だった聖乃さんが特に印象的。


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宝塚の退団者を振り返る (2021年度)
―思い入れの強い方々―

概要

2021年度は宝塚で好きだった人が多く退団してしまった。そこで、思い入れの強い人をピックアップして、思い出を忘れないように残したい。轟悠さん、望海風斗さん、真彩希帆さん、彩凪翔さん、珠城りょうさん、愛月ひかるさんについて振り返る。


コメント

  • 轟悠さん
    初めて観た宝塚の主演男役。宝塚で好きな人は彩風さんと轟さん、それぐらい思い入れの強い人。
    初めて見たのは人生初の宝塚である「凱旋門」。スポットライトを浴びて輝くその姿に、男役とはこんなにも格好良いのか、と衝撃を受けたのを覚えている。復讐を狙う鋭い目つきとジョアンの死に対する慟哭も印象的で、人生初の宝塚が最高の思い出になったのは雪組のおかげもあるが、轟さんがいたからだろうと思っている。
    「凱旋門」も素晴らしかったが、最後に劇場で観た「チェ・ゲバラ」も心が震えるほどだった。クーデターを成し遂げる力強さや国連演説でのひりつくような空気、最後の戦いで終わりを感じさせるような乾いた嫌な咳は轟さんの演技力があってこそだろう。後世まで語り草になると確信した傑作を劇場で観ることができて、本当に幸せだった。
    望海さん、彩風さん、彩凪さん、珠城さんが退団しても轟さんがいてくれると思っていたので、退団はとてもショックだった。けれど「婆娑羅の玄孫」の配信を見て、轟さんのために書かれたこの公演で退団できるならば、と思えたので未練は少ない。
    轟さんが出演する公演で一番好きな作品は「チェ・ゲバラ」で、今後も過去作品を発掘していく予定。

  • 望海風斗さん
    初めて観た組のトップ男役。劇場で望海さんのアナウンスとあの歌声を聞いて、宝塚に来たんだと実感するのが好きだった。
    初めて見たのは人生初の宝塚である「凱旋門」。轟さんと同じぐらいオーラがあって、凄まじく歌の上手な人という印象だった。
    激しい生き様がこの上なく似合う演技力、どこまでも伸びるロングトーンと凄まじい滑舌の良さ、指先までキレイなダンスとまさに三拍子揃った人で、作品のクオリティを無条件に跳ね上げる凄まじいトップスターだった。
    公演ごとに成長する、というよりも後進のために様々な引き出しを見せてくれているような印象が強かった。「Music Revolution!」での驚異的な滑舌の良さを見せつけるシーンは望海さんだけ別格だったが、「Music Revolution! New split」では皆上手くなっていて、男役にとって本当に良いお手本だったんだろうと思う。
    望海さんが出演する公演で一番好きな作品は「ファントム」だが、一番好きな楽曲は映像込みで「壬生義士伝」での石を割って咲く桜。

  • 真彩希帆さん
    初めて観た組のトップ娘役。圧倒的な歌唱力が印象的。
    初めて見たのは人生初の宝塚である「凱旋門」で、「凱旋門」での月のような美しさが一転して、「Gato Bonito!!」では太陽のような笑顔で衝撃的だったのが印象的。
    圧倒的な歌唱力が素晴らしく、壬生義士伝の辺りからさらにレベルが跳ね上がり、まるで楽器のように綺麗な歌声で高らかに歌うようになったのが印象に残っている。元々上手だった演技やダンスも公演ごとに進化していて、雪組の中で一番成長した人かもしれない。
    真彩さんが出演する公演で一番好きな作品は「二十世紀号に乗って」で、映像化されている作品では「ファントム」。

  • 彩凪翔さん
    キラキラした役を演じさせたら世界一だと思う人。
    初めて見たのは人生初の宝塚である「凱旋門」で、気になりだしたのは「SUPER VOYAGER!」での綺麗なダンスと眉間にシワを寄せたときの格好良さに触れてから。
    「ファントム」でのシャンドン伯爵は衝撃的で、まるで少女漫画のようにキラキラしたオーラを出しながら現れたのが今も脳裏に焼き付いている。そこから「ハリウッド・ゴシップ」では堕ちていくスター、「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」では手を汚さない大物と新たな一面を見せてくれて、歌唱力も目覚ましく進化してからの退団だったのでショックだった。本当に素敵な男役で、「シルクロード」での眩い格好良さも素敵だった。
    彩凪さんが出演する公演で一番好きな作品は「ファントム」で、正統派のシャンドン伯爵と変化球のアラン・ショレのどちらも好き。

  • 珠城りょうさん
    初めて雪組・専科以外でこの人の公演を観たいと思った男役で、雪組以外を観るきっかけとなった人。
    初めて見たのは映画館での「タカラヅカスペシャル2018」。トップ男役が持ち回りで歌う場面での、視線と表情で過去を振り返る演技を見て、次は月組を観たい!と思ったのがきっかけ。
    念願が叶った「夢現無双」は癖の強い作品だが、歩き方や周囲への接し方で武蔵の成長を感じさせる演技力がとても素敵で、「クルンテープ」でのダイナミックなダンスも素晴らしかった。
    最後に劇場で観た「WELCOME TO TAKARAZUKA」での全く頭がぶれない足さばきと見惚れるような所作、「ピガール狂騒曲」でのヴィクトールの格好良さとジャンヌの可愛らしさの演じ分けも素敵だった。
    映像やライブ配信で観た作品では誠実な男性像とスケールの大きなデュエットダンスがとても素敵で、頼りになる人柄の役をやらせたら天下一だと思っている。
    珠城さんが出演する公演で一番好きな作品は「カンパニー」。

  • 愛月ひかるさん
    劇場では一度しか見ることが叶わなかった人。
    初めてみたのは星組全国ツアーの「アルジェの男」。本当に嫌な男の演じ方と存在感の出し方が上手で、出てくるたびに惹かれるけれど、ジュリアンたちのために消えてくれと思いたくなる素晴らしさ。サビーヌに撃たれた時のリアクションもとてもリアルで、思わずビクッとしてしまったのを覚えている。もっと観たいけれどジュリアンたちの状況が悪化するから出てこないでほしい、そんな素晴らしい出会いだった。
    「ロミオとジュリエット」での役替わりは強烈だったが、役替わりが大成功した要因の何割かは愛月さんのおかげだろう。ウェスト・サイド・ストーリーを逆輸入したような大人になり切れないリアルな青年ティボルトと、作品の雰囲気をもガラッと変える圧倒的な存在感で人々を冷たい死へと誘う死。まさに愛月さんでなければ演じられない素晴らしい役作りだった。
    愛月さんが出演する公演で一番好きな作品は「ロミオとジュリエット」で、どちらの役替わりも同じぐらい好き。

ポーの一族 (花組) 感想 ―漫画の世界が現実に―

概要


ポーの一族は萩尾望都による漫画作品で、小池修一郎先生による脚本・演出。18世紀から近代までを舞台に、永遠の命を持つ吸血鬼 (バンパネラ) の一族を描いた大人気作品。余談になるが、小池先生はこの作品の文庫版に寄稿していて、縁の深い作品になっている。

感想のまとめ

ポーの一族の実写化としてこれ以上はないだろう、と確信する完璧なキャスティングが光る傑作。漫画の世界から抜け出したかのような明日海さんのエドガーと柚香さんのアラン、圧巻の演技力に裏打ちされた仙名さんのシーラは特筆すべき素晴らしさ。漫画作品も得意とする宝塚の作品群の中でも、間違いなく傑作として挙げられる作品だろう。脚本のまとめ方も素晴らしく、初見でもポーの一族を理解できるであろう脚本になっている。


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春雷 感想
―圧倒的なビジュアルの良さ―

概要


春雷はゲーテの「若きウェルテルの悩み」をモチーフとした、原田諒先生による脚本・演出の作品。主人公のゲーテが若きウェルテルの悩みを書き上げた時代を舞台に、ゲーテと若きウェルテルの悩みの物語を交差させた構成。若きウェルテルの悩みは解説も不要な有名作品。主人公のウェルテルが婚約者のいるロッテに恋し、叶わぬ恋に絶望して死に至るまでの物語。

感想のまとめ


圧倒的なビジュアルや繊細な演技、舞台機構や演出の巧みさによって視覚的に堪能できる作品。「若きウェルテルの悩み」とは別作品なのが難点で、安直な三角関係にされてしまった点が残念。圧倒的なビジュアルとキラキラ感を誇る彩凪さんのウェルテル/ゲーテ、美人ぶりが際立っているせしるさんのロッテ、最大の見せ場で一番映える役作りをしてくれた鳳翔さんのアルベルトがお気に入り。

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王家に捧ぐ歌 (2022年星組) 感想
―圧倒的な歌唱力が素晴らしい―

概要


ヴェルディのアイーダをモチーフとした作品で、木村信司先生による脚本・演出。エジプトの将軍ラダメスと、エジプトの捕虜となったエチオピア王女アイーダの悲恋を描いた物語。星組・宙組で上演されている公演の再演である。

感想のまとめ


ライブ配信での視聴。
圧倒的な歌唱力と演技力が際立っていて、歌を浴びるタイプの作品。わかりやすい対立軸と抜群の歌唱力で謳われる、愛と平和というテーマが際立っている。舞台機構や衣装は簡素で、良く言えば歌や演技に集中しやすい公演。
歌と演技が際立っている礼さんのラダメスと有沙さんのアムネリス、セリフがなくても気持ちが伝わってくる天華さんのケペル、アイーダの悪印象を抑えてヒロインに仕上げた舞空さんがお気に入り。

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