ファウスト/ゲーテ/高橋義孝 訳/新潮文庫 感想
―「とまれ、お前はいかにも美しい。」―

概要


ドイツの文豪ゲーテが誇る代表作である戯曲。「とまれ、お前はいかにも美しい。」のセリフで有名な作品。新潮文庫は全2巻で2部構成。世界の根源を極めようとするファウストは、悪魔メフィストーフェレスに自分の魂を死後に差し出すことと引き換えに、めくるめくような想いを体験させる契約を結ばせる。ファウストは様々な快楽や憎しみ、幸福や苦悩を経験し、人の生き方とはどうあるべきという答えを見出す。
学生時代に読んだ「若きウェルテルの悩み」に続く2冊目のゲーテ。

感想のまとめ


グレートヒェンとの恋愛とファウストの最期が特に素敵な作品。
グレートヒェンとの恋愛などでめくるめく思いを経験したファウストが、最期に心に思い描いた情景はとても美しい。「とまれ、お前はいかにも美しい。」と言いたくなるのも頷けるような、美しくて尊い情景がとても素晴らしい。
そしてファウストの傍らで、常に彼の願いを叶え続けたメフィストーフェレス。常に隣に悪魔とはいえ彼がいる。だからこそファウストは人生に満足できたのではないか、という気もする。常に傍らに誰かがいる、これもまた幸福なのではないかと思う。

以下ネタバレ注意

感想


第一部は親しみやすく心を激しく揺さぶられるような物語で、第二部はより宗教的にな麺が強く、壮大で崇高な物語になっていく。勉強せずとも楽しめたが、間違いなく宗教や哲学を学んだほうが楽しめるであろう作品という印象。

めくるめく思いのすべてを経験をするグレートヒェンとの悲恋が特に良い。燃え上がりながら、悲劇にひた走っていく悲恋。確かにめくるめく思いをしたいという契約で、悪魔と契約しなければたどり着くことが出来なかっためくるめく想いをファウストは経験した。ただあの結末に行き着いたときは、身勝手だけれど悪魔との契約の恐ろしさを感じた。
第二部のワルプルギスの夜やヘレネーとの悲恋などはこの世ならざる面が強く出ていて、演劇ならば視覚的にもさぞ美しいのだろうな、と思うような展開。

様々な経験をしたファウストは最期に盲目となり、民衆が土地を開梱している音に幸福を感じ「とまれ、お前はいかにも美しい。」と満足して死んでいく。実際には死霊たちがファウストの墓を掘っているにも関わらず、盲目のファウストはその音に至上の喜びを想像しながら死んでいく。このめくるめく思いを経験してあらゆるものを見たファウストが、最期は目ではなく音から幸福を想像して満足したという構図がとても好き。目で見ていないからこそ彼が描く情景はとても美しく、「とまれ、お前はいかにも美しい。」と言うのも頷けるような美しくて尊いものに思えた。

そしてファウストの死は皮肉で終わらず、グレートヒェンによって救われるという展開がまた美しい終わり方だと思う。ファウスト自身結構なことをしでかしているし、あれだけ尽くしたメフィストーフェレスは気の毒な気もするけれど、宗教が色濃いテーマでは一番綺麗な終わり方だと思う。

私は宗教観の違いで悪魔にそれほど抵抗がないので、メフィストーフェレスがとても魅力的に思えた。ファウストの旅路にはいつも傍らにメフィストーフェレスがにいる。たとえ相手が悪魔だとしてもこんなに幸せなことはないのではなかろうか、と思えてしまう。最期の墓穴掘りもファウストは盲目で見えないのだから、最期までファウストと共にあり、望みを叶え続けた (かのように見える) メフィストーフェレスがいて初めてファウストは満足することが出来た、という気がしないでもない。常に傍らに誰かがいる、これもまた幸福なのではないかと思う。