ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想
―二人の幸福感が凄い―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


天下の名作に相応しい圧巻のクオリティ。原作の要所を抑えつつ、明確な意図を持った演出と多くの歌で物語を盛り上げる。キャピュレット夫妻やロレンス神父、乳母などベテラン陣を中心に聴きごたえ十分の歌も見どころ。ロミオとジュリエットが恋に落ちてからの幸福感が凄いおかげで、後半の悲劇性が際立っている。
とても華のあるビジュアルと演技で幸福も不幸も劇的に見せる柚希さんのロミオ、幸福感の素晴らしさで弱点をカバーしている夢咲さんのジュリエット、威厳と哀愁たっぷりの歌が素敵な一樹さんのキャピュレット、歌唱力で物語の山場を最高潮に盛り上げる英真さんのロレンス、とても良いビジュアルから憎悪むき出しのキレた演技が素敵な凰稀さんのティボルト、優しさを全面に押し出した演技とタメを使った見せ方が素敵な涼さんのベンヴォーリオ、「愛」に相応しい柔らかいダンスが目を引く礼さんの「愛」が特にお気に入り。




以下ネタバレ注意

感想


原作は15年以上前から何回も読んでいるので、それを前提にした感想。話の流れや登場人物の意図も原作で把握しているので、原作に引きずられているかもしれない。

【全般】

  • 大満足のクオリティ
    天下の名作に相応しい圧巻のクオリティ。愛と死を増やしつつ、原作の要所はほぼ全て抑えている。台詞回しや演出の違いは一部あるものの、見たいシーンはほぼ網羅されているはず。演出も原作通りか、意図のある変更なので基本的に大満足。さらに歌で物語を盛り上げてくれる。唯一ざっくり削られているのがパリスの出番だが、巻き込まれて殺される彼が不憫だったので、良かったかもしれない。

  • ベテラン陣を中心に歌が凄い
    とても歌の多いこの公演で、主演だけでなく多くの役が歌で物語を盛り上げる。歌の上手い人が多く揃っているので、多くの歌が聞き応え十分。ティボルト、キャピュレットやキャピュレット夫人、乳母にロレンス神父に歌上手を揃えていて、ロミオもハスキーな美声で歌がよく響く。特に第一幕、第二幕ともに最後のシーンでの歌の余韻がとても良い。

  • ロミオとジュリエットの幸福感が凄い
    ロミオとジュリエットが結ばれた時に幸福であればあるほど、後半の悲劇性が際立つこの作品。二人が恋に落ちてからの幸福感はまさに互いが全てと言わんばかりの凄まじさで、感動的な悲劇になっている。そういう意味では完璧なキャスティングかもしれない。

  • 衣装の色分けが親切
    モンタギューは青色でキャピュレットは赤色。対立する両家を色分けしてくれているのでわかりやすく、色の対比も綺麗。両家の対立軸から外れていくロミオとジュリエットは白系の衣装が多くなり、ベンヴォーリオも黒い衣装になる。見ていて親切だと思った。

  • 原作と異なる点がいくつかある
    ジェラール版か宝塚版かはわからないが、原作と異なる要素がいくつかあった。

    ・愛と死の役
    最大の違い。愛の柔らかいダンスと死の狩人のように獲物を狙っている目つき。
    2つの役によって、物語がより劇的にそして運命的になっている印象。

    ・ロミオが恋に恋した青年
    ロザラインは存在しないようで、ロミオが恋に恋した青年になっている。
    これに合わせて、舞踏会へ忍び込む理由が変わっている。こちらのほうが一途かも。

    ・ジュリエットが16歳
    原作ではもうすぐ14歳を迎えるので13歳。現代から見ると幼すぎると判断されたのかも。役者的にも14歳よりも合わせやすいのかもしれない。

    ・ティボルトがジュリエットに恋心を抱いている
    キャピュレット家代表のようなティボルトに新しいキャラ付け。
    愛憎劇の面が強くなり、ティボルトがとても美味しい役になっている。

    ・マキューシオが最期にロミオの恋を応援する
    両家を呪いながら死んでいく彼の最期が、ロミオを応援する。
    友を想いつつ両家の運命を呪う形でマキューシオの友情が強調される演出。
    最初はチグハグな印象だったが、両家の対立という狂気に囚われたと思えばありかも。

    ・ジュリエットの死を知らせる役割がベンヴォーリオに変更
    ベンヴォーリオの見せ場を増やしつつ、彼の人物像が深堀りされる良い変更。
    彼の優しさと苦悩を見せつつ、友の善意が死への運命を決定づけるエグい演出。
    全く救いのない演出だけど、個人的には大好きな演出。

    ・パリスが三枚目で、しかも死なない
    昔見た映画でもそうだった気がするが、この作品もパリスが死なない。
    原作では良い人なのに巻き込まれて死んでしまう不憫な人だったが、割と真逆。
    そういう面では二人の被害者が減っているのかもしれない。

    ・ジュリエットの最期のセリフが違う
    大好きなセリフなのでショックだが、少数派の意見だということは自覚している。

    ・大公の存在が薄め
    二人の亡骸を前にしたセリフがバッサリとカットされている。
    そのせいで、大公が印象が薄くなっている。

    ・女性陣の出番が多い
    ジュリエットや乳母はもちろん、両夫人の出番がとても多い。
    シェイクスピア作品は女性の出番が少ない印象なので、意図的な演出のはず。
    モンタギュー夫人は確か途中で死んでいたはずだが、本作では生き残っている。

【個別】

  • ロミオ (柚希さん)
    とても華のあるビジュアルとハスキーな声がとても素敵。恋に恋するロミオならばこれがきっと理想形という格好良さ。ジュリエットと恋に落ちてからの、ジュリエットだけを求める幸せそうな姿も素敵だけれど、不安や絶望に苛まれた演技がとても良かった。軽めのダンスでも動きがとても綺麗だったので、三拍子揃った上でダンスが得意な人なんだろうと思う。

  • ジュリエット (夢咲さん)
    幸福感を出すのがとても上手。ロミオに恋する喜びを、表情、声、ダンスのすべてで表現するので、とても幸せそう。特にロミオへのバックハグでの寄りかかり方が絶妙。ロミオが全てと言わんばかりの演技で、仮死状態になる薬を受け取った後の嬉しそうな表情もとても素敵。二人が幸せそうだからこそ物語に感動するし、悲劇性が際立っている。皮肉が全く似合わないぐらいお嬢様感がわりと皆無で、歌も厳しいところがあるけれど、それを打ち消すジュリエットぶりだった。

  • ティボルト (凰稀さん)
    とても格好良くて演技が良くて歌も良い。人を小馬鹿にしたような態度の序盤、ジュリエットを想う切なげな表情、憎悪をむき出しにしてキレた終盤の態度とギャップが強烈。特に後半は皮肉屋の仮面が剥がれかけるほどの怒りと憎しみが凄まじく素敵。繰り返し書きたくなるぐらいビジュアルが良く、悪い男ぶりがとても映えていて素敵だった。

  • ベンヴォーリオ  (涼さん)
    とても優しそうなベンヴォーリオ。ロミオがジュリエットに恋しても糾弾できず、ジュリエットが死んだと知ればロミオに知らせに行く。終幕後は自責の念で自殺してしまいそうな、繊細で優しいベンヴォーリオ。劇中の行動も納得の人柄がとても良く出ていて、優しさと苦悩がとても似合うベンヴォーリオだった。歌やダンスでグッとためる見せ方がとても素敵。役とは関係ないが、カーテンコールでお礼を言うところも好き。

  • マキューシオ (紅さん)
    チンピラっぽいマキューシオで、キャピュレット家と対立している時に光るマキューシオ。ティボルトと殺し合う時の、殺意に満ちた演技がとても素敵。

  • ロレンス神父 (英真さん)
    歌がとても素敵。第一幕では二人と両家の未来に希望を持たせる歌い方、第二幕では深い絶望に満ちた歌い方でクライマックスを最高に盛り上げてくれる。ロミオに慕われるのも納得の優しい人柄と明るい未来を思い描く希望に満ちた表情、二人の亡骸を見た時の絶望の演技がとても良かった。

  • キャピュレット (一樹さん)
    威厳と哀愁を表現するのがとても上手。上手な歌に威厳や哀愁を込めてくれるので、キャピュレットの人物像がとても良く出ていて好き。妻に愛されず、娘への愛情も伝わらない哀愁がとても素敵。

  • キャピュレット夫人 (音花さん)
    強い女性だとわかる歌い方がとても素敵。ティボルトへの絡み方が良い意味でいやらしい。夫であるキャピュレットへの愛がないことがよくわかるので印象的。

  • 乳母 (白華さん)
    ジュリエットをロミオに託す時の優しい表情がとても素敵だった。第二の母親としての愛情に満ちた歌と、モンタギュー一味を前にした時の力強い歌の歌い分けもとても良かった。

  • 愛 (礼さん)
    柔らかなダンスがとても素敵。キレの良いダンスをする姿が印象的な礼さんだが、この公演ではダンスが本当に柔らかい。「愛」の名に相応しく、二人を優しく包み込むようなダンスがとても綺麗で、これを見たら将来大活躍するのを確信するだろうなという美しさ。

  • 死 (真風さん)
    ビジュアルがとても強烈。積極的に死を招くタイプの「死」で、登場人物に死が近づいている時の嬉しそうな笑顔がとても印象的。生と隣り合わせの「死」ではなく、運命の悪戯にしては悪意の強い「死」という印象。「愛」の柔らかいダンスに対して、力強くも少しねっとりとしたダンス。