ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン Again 感想
―初めてにもお勧めの華やかで美しい作品―

概要


ヴェネチアの紋章は塩野七生による「イタリア・ルネサンス1 ヴェネツィア」を原作とした作品で、柴田侑宏先生による脚本・演出の作品。今回は再演として、謝珠栄先生による演出が加えられた。16世紀のイタリア・ヴェネチアを舞台に、元首の妾の息子であるアルヴィーゼを主人公とした作品。妾の子であることが原因でヴェネチアでは得られなかった貴族の地位と統治者としての未来を得るために、そして愛するリヴィアを妃に迎えるにふさわしい地位を得るために、ハングリアへの進軍を指揮していく。
ル・ポァゾン 愛の媚薬 Againは岡田敬二先生によるレビュー作品。月組で初演され、星組、花組で再演されたレビュー公演の2021年度版。

感想のまとめ


ヴェネチアの紋章は宝塚のイメージにピッタリと合った華やかさと美しい台詞回しを誇る作品で、初めての人にもお勧め。アルヴィーゼの生き方にロマンを、アルヴィーゼとリヴィアとの恋愛にロマンスを強く感じる作品。彩風さん・朝月さんの演技・歌・ダンスでクラシカルな作品を美しく見せる演技力がとても素敵。
ル・ポァゾンは上品な大人の色気が漂うレヴュー。一度聞いたら忘れられないテーマ曲が特長で、こちらも初めての人にもお勧め。彩風さん・朝月さんの歌、ダンスともに相性抜群で、一つ一つの要素が美しいダンスシーンが特におすすめ。
持ち前の華やかさと抜群の安定感で作品を引っ張っていく彩風さん、巧みな表現力が素敵な朝月さん、ストーリーテラーとして物語を回していく綾さん、歌にダンスに芝居に八面六臂の大活躍の諏訪さんが特にお気に入り。

 

以下ネタバレ注意

 

感想


【ヴェネチアの紋章】

全体

  • 美しい作品で初めての宝塚にもオススメ
    初めての人にもオススメできる、宝塚のイメージにぴったりと合った美しさ。華やかな衣装に美しい台詞回し、歌によって紡がれていくストーリー、そしてロマンス。宝塚に期待するものすべてが詰まっている作品。

  • 言葉選びが巧みで美しい
    台詞回しが優美。品のある言い回しによって、作品の格調が高くなっている。援軍「は」出せない、援軍「を」出せないの使い分けなど、細やかな表現も巧み。上品かつ冗長すぎず、的確な台詞回しによる、演劇作品の醍醐味を楽しむことができる。

  • ロマンとロマンスの詰まった作品
    己の野望のために邁進するアルヴィーゼの生き方は、あと一歩届かなかったがロマンに溢れている。そしてアルヴィーゼとリヴィアとの恋愛は、大人の色気に溢れていてロマンスに満ちている。ロマンとロマンス、男性にも女性にも刺さるであろう作品。

  • 少し変化球なラストシーン
    ラストシーンでは、マルコがアルヴィーゼとリヴィアの娘との結婚する展開になる。この展開に戸惑う声があるようだが、この結末がとても綺麗な終わり方に思えた。アルヴィーゼが手に入れることのできなかったヴェネチア貴族という地位を、彼の娘が手に入れる。それによって身寄りのない彼女が、未来の安寧を手に入れることができる。アルヴィーゼとリヴィアの物語が未来に繋がった綺麗な帰着点に思えた。

個別

  • アルヴィーゼ (彩風さん)
    現代的なスタイルの良さとは裏腹にクラシカルな作風の似合う彩風さん、この作品はまさにピッタリの作品だった。
    野心に生きる男の説得力と、それを支える力強い演技がとても素敵。野心を秘めた力強い目、リヴィアを想う優しい表情、野望の潰えた瞬間の表情など、どれのシーンも表情が良かった。毎公演パワーアップしている歌は今回も素敵で、特に低音部の滑舌がパワーアップしたので心地良い。ダンスシーンも個々の動きが美しく、見応え充分。気張りすぎる傾向のあった、怒った時の演技がとても自然だったのも印象的。トップお披露目公演として気合は十分、けれど気負いすぎない素敵な演技だったので、今後の公演もとても楽しみ。

  • リヴィア (朝月さん)
    改めて表現が巧みな人だと思った。感極まった時の息遣いや身投げする前の笑い声など、小さな情報を巧みに使ってリヴィアを表現していることが印象的。アルヴィーゼとの大人の恋愛も美しく、彩風さんとの相性もバッチリ。公演ごとにどう演じてくれるか、とても楽しみなトップ娘役。

  • マルコ (綾さん)
    ストーリーテラーとしてとにかく台詞の多い役で、小気味よく物語を展開していく姿が印象的。アルヴィーゼの親友としての善良さを押し出していて、誰からも信頼されるのも納得の人柄だった。

  • 元首 (真那さん)
    重い役柄で「援軍は出せない」のセリフがとても素敵だった。父親である前にヴェネチアの元首なので、息子が死ぬとわかっていても援軍「は」出せない。そんな苦悩に満ちた表情と声色がとても素敵だった。

  • プリウリ (奏乃さん)
    今回は薄めの役柄だが、さりげない見せ方がとても素敵だった。私情ではないと言いつつもアルヴィーゼには思うところがなくはない、そんな隠しきれない感情が見え隠れする元首への詰め寄り方が印象的。

  • メリーナ (沙月さん)
    アルヴィーゼの母親役は沙月さん。「凱旋門」でも思ったが、沙月さんの演技がとても素敵。品のある女性の振る舞い方が特に素敵で、見ていて惚れ惚れする美しさ。

  • ヴィットリオ (諏訪さん)
    3人組のリーダー格、歌も演技もとても素敵だった。綺麗に伸びて押しの強い歌声、どのセリフも聞き取りやすい滑舌、そして小気味良い動き。期待の若手と言うよりも舞台を支える中核のようなスキルの高さが印象的でとても良かった。

  • オリンピア (夢白さん)
    変幻自在というフレーズが頭をよぎる演技上手な人だった。女性たちを率いる時の親しみやすさと、マルコと話す際の色気、随所で見せる大物感と雰囲気の変え方が上手。品のある立ち振る舞いも素敵。

 

【ル・ポァゾン Again】

  • 品のある色気が凄い
    妖艶で華やかといった言葉がピッタリ。上品な大人の色気漂うレビューでとても素敵だった。彩風さん・朝月さんとこのレビューの相性も抜群で、一度は見てみたかったル・ポァゾンを好きな人の主演公演で観ることができて幸せだった。

  • 一度聞いたら忘れないフレーズ
    ル・ポァゾンのテーマは一度聞いたら忘れられないタイプの曲だった。とても素敵なメロディーなので、全国ツアーで初めて見る人にも覚えやすくて良い演目だったと思う。

  • クラシカルな作風の似合う彩風さん
    クラシカルで余韻に浸りながら観るショーと、彩風さんの演じ方の相性が抜群だった。長い手足を活かした伸びやかなダンス、少し気障な雰囲気の似合う歌い方、舞台から捌ける直前まで表情で魅せるスタイルのすべてがこのレビューにピッタリだった。

  • 諏訪さんが八面六臂の大活躍
    実力派なことは知っていたが、諏訪さんが凄まじかった。冒頭のシーンから歌に踊りに大活躍。伸びやかな美声とキレの良いダンスがとても素敵で、これから中核をになっていくのがとても楽しみになった。

  • 美しさの際立った群舞
    群舞はシンプルな振り付けで、だからこそ美しさが際立っていた。特に彩風さんが軸が全くブレることなく、美しく踊る姿が印象的。

  • マタドールのシーンが凄い
    マタドールのシーンでは彩風さんと綾さんが対になって踊る。ヴェネチアの紋章でセリフの多かった綾さんはこのシーン以外温存気味だが、その分このシーンで歌って踊る。あまり二人が組むイメージはなかったが、上品なタイプで相性もよく、とてもダンスが綺麗だった。

  • エトワールは有栖さん
    エトワールは最近よくエトワールを担当する有栖さん。高音がとても綺麗に伸びる歌声がとても素敵で、まさに雪組の歌姫。今後の雪組の歌唱面を引っ張っていくであろう人材なので楽しみ。

  • パレードには大羽根もある
    トップコンビお披露目公演なので、最後に大羽根を背負って登場する。大羽根を背負った彩風さん・朝月さんを観ていて思わず感極まってしまったが、今後トップコンビとして組の中心に立つ二人がとても楽しみ。