水葬銀貨のイストリア 感想
―TRUEとBADが良い―

概要


紙の上の魔法使い」で脚光を浴びたウグイスカグラの2作目。
舞台は人魚姫の伝説が語り継がれている人工海上都市のアメマドイ。野望と陰謀が影で渦巻くこの街を舞台にした物語で、ポーカーがキーアイテム。キャッチコピーは「―ハッピーエンドを、約束しよう」。

感想のまとめ


伏線回収と終盤の盛り上がりが凄いシナリオゲー。個別ENDはかなり微妙だが、TRUEとBAD ENDの完成度がピカイチ。人魚姫、ポーカーなどの設定を巧みに使ってシナリオを盛り上げている。キャラクターは茅ヶ崎征士の悪役ぶりがピカイチ。あまりに多すぎる誤字、TRUEと比べて弱すぎる個別END、テンポの悪い文章がネック。前作「紙の上の魔法使い」を楽しめたユーザーならばこの作品も楽しめるはず。

 

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ドグラ・マグラ (映画版) 感想
―怪作を完璧にまとめ上げた傑作―

概要


夢野久作の奇書「ドグラ・マグラ」を映像化した作品。
主人公は大正時代の九州帝国大学医学部精神病科の収監されている記憶喪失の青年。青年の前に現れた医学部教授の若林博士によると、彼の失われた記憶はある重大な事件の鍵を握っているという。青年は記憶の手がかりを探していくうちに、事件の真相を知ることになっていく。

感想のまとめ


複雑怪奇な原作の雰囲気を保ったまま、これ以上無くわかりやすくまとめ上げている傑作。あの原作をこれほど完璧に表現できるのか、と衝撃を受けるであろう作品。原作で多くの人が挫折したであろうシーンもテンポ良くまとめている。正木博士を始めとしたキャスト陣も完璧。原作を読んだ人にも、原作を断念した人にもおすすめの作品。

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ロミオとジュリエット (2011年雪組) 感想
―上品な悲劇だが大人しすぎる物語―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。宝塚では2回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


主要メンバーの歌がとても良い公演。歌も演技も良くて上品だが、理性的すぎるロミオとジュリエット、一歩引いたスタンスかつ無機質で概念的な愛と死などが噛み合ってしまった結果、幸福感による盛り上がりが弱くて大人しすぎる物語だった。
歌がとても素敵で悲劇の似合う音月さんのロミオ、同じく歌と悲劇性がとても映える舞羽さんのジュリエット、キレっぷりのすさまじい早霧さんのマキューシオ、最後の歌がとても素敵な奏乃さんのロレンス神父が特に印象的。
大劇場仕様のフィナーレは少し蛇足気味で、演出的にも劇的な初演 ( ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想) のほうが好みだった。

 

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ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想
―二人の幸福感が凄い―

概要


原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


天下の名作に相応しい圧巻のクオリティ。原作の要所を抑えつつ、明確な意図を持った演出と多くの歌で物語を盛り上げる。キャピュレット夫妻やロレンス神父、乳母などベテラン陣を中心に聴きごたえ十分の歌も見どころ。ロミオとジュリエットが恋に落ちてからの幸福感が凄いおかげで、後半の悲劇性が際立っている。
とても華のあるビジュアルと演技で幸福も不幸も劇的に見せる柚希さんのロミオ、幸福感の素晴らしさで弱点をカバーしている夢咲さんのジュリエット、威厳と哀愁たっぷりの歌が素敵な一樹さんのキャピュレット、歌唱力で物語の山場を最高潮に盛り上げる英真さんのロレンス、とても良いビジュアルから憎悪むき出しのキレた演技が素敵な凰稀さんのティボルト、優しさを全面に押し出した演技とタメを使った見せ方が素敵な涼さんのベンヴォーリオ、「愛」に相応しい柔らかいダンスが目を引く礼さんの「愛」が特にお気に入り。




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シラノ・ド・ベルジュラック (宝塚) 感想
―キャストは良いのに脚本があまりにも―

概要


原作はフランスの劇作家であるロスタンによる戯曲で、大野拓史先生による脚本・演出。
シラノ・ド・ベルジュラックは理学者にして詩人、剣客、音楽家と多才だが、大きすぎる鼻のせいで従妹ロクサーヌへの恋心を隠している。そのロクサーヌは、美男のクリスチャンに想いを寄せていることをシラノに告げる。シラノは二人のために尽くそうとするが、クリスチャンに弁舌の才がないことを知る。ロクサーヌがこのことを知ったら、彼に幻滅してしまう。
その時、シラノはあることを思いつく。弁舌に恵まれたが容姿に恵まれなかったシラノと、容姿に恵まれたが弁舌に恵まれなかったクリスチャン。二人が手を組めば、ロクサーヌへの想いが届くかもしれない。シラノはクリスチャンに、自分の弁舌を使ってロクサーヌへの想いを伝えることを提案する。

感想のまとめ


原作の良さを根こそぎ奪われた脚本を、轟さんと星組さんの演技で成立させている作品。熱演ぶりとカリスマで成り立たせている轟さんのシラノ、終盤の演技と歌が特に素敵な小桜さんのロクサーヌ、表情に感情を乗せる演技が後半で光る瀬央さんのクリスチャン、前半と後半の演じ分けが完璧な天寿さんのギッシュ伯爵が特に凄い。1シーンでも印象に残る紫月さんの侍女や澪乃さんのリイズなど、娘役の層の厚さが印象的。
ネックは脚本・演出で、再演するなら別の先生の手で作り直してほしい。発表された日から楽しみにしていた作品だったので、今まで見てきた中で一番ショックな公演だった。

 

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