シジミ少年の秀逸な死
―「死ぬなら今日、ということか。」―

概要


「Nightmare Syndrome」 (以下NS) の作品で、臨死体験ADV。
自動車が現れ始め、土葬から火葬へ移りつつある時代の田舎を舞台とした作品。
主人公・しじみの通う学級では、「死にたいから死にます。許してください。許さないで下さい。」と書き残し突然自殺した生徒をきっかけに、同級生たち、さらには先生まで自殺してしまう。死が伝染してしまったこの学級は、明日から学級閉鎖することが決められた。「死ぬなら今日、ということか。」そんなことを呟く親友・団八たちと過ごす、学級閉鎖前の最後の一日を描いた作品。

感想のまとめ


人を選ぶ作品の極致。作品に漂う死の香りに魅入られると抜けられなくなる雰囲気が素晴らしく、10年以上経った今でも抜け出せない魅力がある。
救い、憧れ、恐怖など様々な側面を持ち、常に傍らにあるけれど隔たりがあり、どこか冷たい死のイメージが絶妙。
団八ルートでの会話シーンからクライマックスへ向かう激しい流れは、NS作品でも屈指の素晴らしさ。

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チェ・ゲバラ (月組) 感想
―力強さと完成度の高さが素晴らしい―

概要


キューバ革命の立役者であるエルネスト・ゲバラ、通称チェ・ゲバラの半生を描いた作品。作・演出は原田諒先生で、ゲバラの半生をキューバ革命、フィデル・カストロとの友情などと織り交ぜて描かれた作品。事前知識がなくても理解できるように、丁寧に脚本が描かれている作品。

感想のまとめ


脚本・演出・演技のすべてが凄くて、完成度は今年見た中で一番。ゲバラの理想や信念を描いた泥臭さと重厚さ、そして力強さを描いた脚本、随所で思わず唸りたくなる印象的な演出、ゲバラとフィデルという二人のカリスマに代表される雰囲気の作り込み、ひと目で練度がわかる銃さばきまで素晴らしい演技、そして革命の力強さが表れている歌声で、どこを見ても素晴らしい。
誰もが素晴らしい演技だった中でも、圧倒的なカリスマ性と演技力で作品に重みを持たせるゲバラを演じた轟さん、そのゲバラと対等に並び立つフィデルを演じた風間さん、影の主役とも言えるルイスを軍人らしく、セリフのないシーンでも僅かな仕草で演じた礼華さんが特に印象的。

観劇日


2019/8/13 (梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)
宝塚大劇場、バウホールに続いて、初めての梅田芸術劇場公演も轟さんが主演。

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GOD OF STARS 食聖 / Éclair Brillant
感想―初めて見る紅さんが凄かった―

概要


【食聖】
小柳奈穂子先生による作・演出で、アジアン・クッキング・コメディー。世界に名を馳せる料理人ホン・シンシンはその傲慢さが仇となり、CEOのエリックに裏切られてしまう。店を失い一文無しになったホンはホーカーズを経営するアイリーンに助けられ、ホーカーズで働くことになる。ホーカーズを大繁盛させたホンは、自分を裏切ったエリックとホンの弟子リー・ロンロンに料理勝負を挑む。勝負のお題は満漢全席。満漢全席を作るために、ホンは奔走することになる。

【Éclair Brillant】
宇宙から地球に舞い降りた青年を主役とした、これぞ正統派というレビュー。

感想のまとめ


【食聖】

面白いだけではなく、現トップコンビから次期トップコンビへのバトンタッチも盛り込んだ素敵な作品。声色と表情を使い分けて誰よりもアグレッシブにホンを演じる紅さん、ピンクの髪がとても似合って可愛いアイリーンを演じる綺咲さん、気弱で挙動不審なリー・ロンロンでもあり、決めポーズが良い意味でやかましいリー・ドラゴンを演じる礼さん、子供らしい動きがとても可愛い幼少期のアイリーンを演じる綾音さんがとても印象的。

【Éclair Brillant】

紅さんはこんなに美しい人なのか、と認識が変わったレビュー。一挙一動が美しく、紅さんを見ることが出来てよかったと思えるようなレビュー。楽しみにしていた礼さんもとても素敵で、大劇場に響き渡る美声と、舞台を見渡せばすぐに判るキレの良いダンスがとても良かった。一番好きなシーンは三味線の音色に合わせた群舞で、とても美しかった。

観劇日


2019/07/26 (宝塚大劇場)
初めて見るトップスターの退団公演であり、私にとってはタカラヅカスペシャル以外で初の紅さん。

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ファウスト/ゲーテ/高橋義孝 訳/新潮文庫 感想
―「とまれ、お前はいかにも美しい。」―

概要


ドイツの文豪ゲーテが誇る代表作である戯曲。「とまれ、お前はいかにも美しい。」のセリフで有名な作品。新潮文庫は全2巻で2部構成。世界の根源を極めようとするファウストは、悪魔メフィストーフェレスに自分の魂を死後に差し出すことと引き換えに、めくるめくような想いを体験させる契約を結ばせる。ファウストは様々な快楽や憎しみ、幸福や苦悩を経験し、人の生き方とはどうあるべきという答えを見出す。
学生時代に読んだ「若きウェルテルの悩み」に続く2冊目のゲーテ。

感想のまとめ


グレートヒェンとの恋愛とファウストの最期が特に素敵な作品。
グレートヒェンとの恋愛などでめくるめく思いを経験したファウストが、最期に心に思い描いた情景はとても美しい。「とまれ、お前はいかにも美しい。」と言いたくなるのも頷けるような、美しくて尊い情景がとても素晴らしい。
そしてファウストの傍らで、常に彼の願いを叶え続けたメフィストーフェレス。常に隣に悪魔とはいえ彼がいる。だからこそファウストは人生に満足できたのではないか、という気もする。常に傍らに誰かがいる、これもまた幸福なのではないかと思う。

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壬生義士伝 / Music Revolution! 感想
涙枯れ果てるまで泣き、ショーで元気を貰う

概要


【壬生義士伝】
原作は浅田次郎の人気小説。脚本・演出は石田昌也先生。新選組をテーマにした小説の中でも屈指の人気作品。南部藩出身の吉村貫一郎の生き様を描いた作品で、彼の最期に涙した人も多いであろう名作。
【Music Revolution!】
クラシックからラテン、ジャズなど様々な音楽ともに歌い、そして踊るショー。

感想のまとめ


壬生義士伝で涙枯れるまで泣き、Music Revolution!で元気を貰う。感情を極限まで揺さぶられる素敵な公演。

  • 壬生義士伝
    序盤から終盤まで涙が止まらない演目で、序盤と終盤は完璧としか言えない完成度の高さ。「石を割って咲く桜」が流れるシーンは歌と音楽、演技と演出のすべてが完璧に噛み合った最高に美しいシーン。
    イチオシは家族を想い生きていく吉村を演じる望海さん、組頭として振る舞わなければならないが随所で精一杯の優しさを見せた大野を演じる彩風さん、鬼気迫る演技で小川を演じる久城さん。

  • Music Revolution!
    エネルギッシュに元気になれるショーで、壬生義士伝の後にうってつけ。いろいろな人が活躍していて、歌い継ぐシーンがとても良い。ダンスとても良く、彩風さんたちの軽やかで優雅で楽しそうなダンスシーンと、永久輝さんたちのキラキラと爽やかで激しいダンスシーンがとても良い。燕尾服で歌い継ぐシーンの、早口言葉なのに素敵なメロディーが奏でられていくシーンは必見。

観劇日


2019/06/29, 06/30 (宝塚大劇場)
宝塚観劇2年目での初作品も雪組・大劇場公演。

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涙枯れ果てるまで泣き、ショーで元気を貰う” の
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