オペラ座の怪人 (ケン・ヒル版) ―最初のミュージカル版―

【観劇まで】

2023年12月に X (Twitter) でプロモーションが流れてきた。2024/1/17から1/28にかけて、ケン・ヒル版のオペラ座の怪人が東急シアターオーブで上演されるという内容だった。

人生初の英語版ミュージカル観劇を好きな原作作品で迎える、そんな絶好のチャンスを逃さないよう、すぐチケットを購入した。

オペラ座の怪人といえば様々な作品が存在するが、原作小説、アンドリュー・ロイド・ウェバー版の映画とロンドン公演 (BD) 、 Arthur Kopit版 (宝塚) を視聴していて、どれも素晴らしい作品で、特に宝塚雪組版は現雪組トップスター彩風咲奈さんのファンになった作品でもある。長年愛しているオペラ座の怪人の新たな一面を楽しめる日を心待ちにしつつ、2024年の当日を迎えた。

余談だが、オペラ座の怪人は原作、アンドリュー・ロイド・ウェバー版、Arthur Kopit版とで大きく異なる作品である。ケン・ヒル版も大胆なアレンジがあると予想していたが、英語公演+字幕表示ならばなんとかなるだろうと予習はせずに当日を迎えた。

【感想 (ネタバレなし)】

原作の雰囲気を残したアレンジで、神出鬼没で恐ろしいファントムを体験することができた。
ミステリー要素が強く、物語がどう進んでいくかを楽しめる作品となっている。コメディ要素も強く、シリアスな場面でも差し込まれるのは人を選ぶ要素かもしれない。
楽曲はオペラやアリアをベースとしていて、オペラ風な歌唱シーンが素晴らしかった。特にポール・ボッツの歌唱が素敵だった。
英語がはっきりしているので比較的聞き取りやすく、簡潔にまとめられた字幕もあるので初の英語版ミュージカルにもおすすめ。

以下ネタバレ注意

【感想 (ネタバレあり)】

  • 原作の雰囲気を残したアレンジ
    ケン・ヒル版も他のミュージカル作品と同じく原作からアレンジされているが、原作の要素を比較的多く残している。声しか聞こえず、姿を見せずに事件を起こす様は、まさにO.G.。神出鬼没で恐ろしいファントムを体感することができた。
    第二幕も恐ろしさは健在で、クリスティーンに求婚を迫る際の会話が通じない様子には背筋が寒くなった。ペルシャ人がアレンジによって友人でなくなったことでファントムの内面が見えにくく、より恐ろしさと孤独が際立って感じられた。

  • ミステリーとコメディ要素が強め
    ファントムの謎を追うミステリー要素が強く、物語がどう進んでいくか、ファントムの謎が解き明かされていく展開が楽しい作品だった。一方で、コメディ要素も強くなっている。シリアスなシーンでも構わずコメディ要素を差し込んでくるので、人を選ぶ要素かもしれない。個人的には、コメディ要素が少し過剰な印象。

  • 本格的な楽曲
    楽曲は既存のオペラやアリアに新たな歌詞を割り当てているので、有名曲ではないがオペラ風で素晴らしい楽曲を楽しむことができた。あえて有名曲を採用していないらしいが、選曲にももちろん理由があるようなので、クラシック・オペラに明るければ更に楽しめるだろう。オペラ風な歌唱シーンはどれも素晴らしかったが、ファウスト役のポール・ボッツの歌が秀逸。とても美しくそして力強く響く歌声が素晴らしかった。

  • 救いのある結末
    終盤まで恐ろしい存在として描かれたファントムだが、最期はクリスティーンと心中する直前で彼女を手放し、自らを刺して死に至る。最後に見せた良心によって「友なしで死ぬのではない」と歌われながら幕引きとなる。止めてくれる理解者もなく残忍だったファントムにとって、この結末が唯一たどり着ける救いに感じられた。

  • 比較的聞き取りやすい英語と簡潔な字幕
    英語で全部わかる、とは言えなかったが英語+字幕で困らない作品だった。tの音などが比較的はっきりしていて聞き取りやすく、字幕も簡潔かつわかりやすくまとまっていた。言語の面でも、初めての英語版ミュージカル向けに感じた。